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ベルリンにて

2008.06.02

6月の注目公演情報も要チェック!

第6章 「J.S.バッハを聴きながら」

音楽評論家の吉田秀和さんは、94歳となった今もご健在で、半世紀どころか60年以上も洞察力に満ちた豊かな言葉で、音楽の深遠な魅力とエネルギーを私たちに伝え続ける存在です。昨年12月に『私の好きな曲』(ちくま文庫刊)が新しく文庫になり、他の著作とともにまとめ買いをしました。

文=大門千寿子

世界音楽としての感動的崇高さをもつ『ロ短調ミサ』

今朝、音楽を聴きながらページをめくるとJ.S.バッハ『ロ短調ミサ曲』の章でした。

私には「音楽が好きだ」というのと「バッハが好きだ」ということの間に違いはない。しかも私はバッハが好きなおかげでベートーヴェンもブラームスもモーツァルトも好きでいられるのである。
(吉田秀和『私の好きな曲』より)

ご自身が音楽を聴く土台にはバッハがあり、最も普遍的なものを含みながら、彼以外の誰も書かなかった音楽を書いたバッハの作品、ことに世界音楽としての感動的崇高さをもつ『ロ短調ミサ』を「比類のない真実にうらづけられた壮麗さ」だと述べています。
その優れた文章を読んでいると、慧眼(けいがん)とはこうことを言うのだなぁと感服し、知性あふれる瑞々(みずみず)しい感性に知覚の扉が啓かれるような気がします。

私も聴いていると心が晴れやかになってくる『ロ短調ミサ』が大好きで、CDも2種類持っています。ローマ帝国の公用語だったラテン語の明るい響きが美しく、ミサ曲といっても堅苦しい印象でないのがいいですね。音楽って本当に世界の共通語だなぁと実感させられ、元気がわいてくるようです。クレド(Credo)と呼ばれる第三部は、「信条」と訳されるのかもしれませんが、“何か自分にとって変らず大切なもの”というふうに置き換えて聴いています。その中でも生命を与えたもう聖霊について歌う7曲目のバスのアリアがことに好きです。

6月に都内で聴けるバッハのコンサートを2つご紹介



《2つの世俗カンタータとマニフィカート》

それにしてもJ.S.バッハは生前、いったい何曲作曲したのでしょう。ざっと数えても1000曲以上。CDコーナーへ行ってもバッハだけは特別に別コーナーが設けられていることが多いですね。世俗カンタータといわれる《コーヒーカンタータ》や《結婚カンタータ》も皆さんどこかでお聴きになったことがあるかもしれません。
20曲ほどある世俗カンタータの中でもとびきり楽しい《狩りのカンタータ》と《農民カンタータ》が、6月6日に都内で演奏されるのでご紹介しておきたいと思います。

《狩りのカンタータ》は、18世紀に狩りを好んだ領主の誕生日のために書かれ、ギリシャ神話に登場する狩好きな女神ディアーナやその恋人の羊飼い、山野を駆け巡る牧羊神パーン(pan)たちがダイナミックに野山を駆け巡り、生命の喜びを新鮮に歌いあげます。
一方、領主の就任祝いに演奏された《農民カンタータ》は、ソプラノとバスとの愉快でリズム感豊かな掛け合いがドイツ語の田舎方言で書かれ、色彩感豊かな民謡風の調べもまじえて、豊穣な大地に根ざし酒と踊りと歌を愛し生きる農民たちの陽気さに、聴いていると思わず頬がほころんで、胸の内に喜びや幸せが満ちてくるようです。
穴澤ゆう子さん


主なソリストには『ヨハネ受難曲』『マタイ受難曲』のイエスの名唱でも知られ、オペラだけでなくバッハ演奏をライフワークとしているバリトンの多田羅迪夫さん、盛岡バッハ・カンタータ・フェラインの指揮者も務めるバッハ演奏のエキスパート、テノール・佐々木正利さんなど。

女声はソプラノに野崎由美さん、アルトにアムステルダム音楽院でバロック期の歌唱法をP.コーイ、M.V.エグモントなどに師事した穴澤ゆう子さんを含む精鋭たち。
多田羅迪夫さんがリートや宗教曲だけでなくオペラ歌手としても活躍しているように、穴澤ゆう子さんも宗教曲だけでなくオペラでも活躍しています。06年春にはペーター・コンヴィチュニー演出・モーツアルト作曲『皇帝ティトの慈悲』(ハンブルク州立歌劇場と東京二期会の共同制作)で、男装のズボン役・アンニオを演じ、友情と恋の板ばさみになって悩む若者を好演、生命力にあふれた瑞々しい演唱が印象的でした。

穴澤さんは後半の《マニフィカート》に出演します。「マニフィカートは、magnificat(あがめる)という語に由来し、聖母マリアの受胎告知を讃える曲(ラテン語)。《マニフィカート》のテノールソロには芸大の学部2年生という宮里直樹さんが抜擢され、清冽な美声を披露する予定です。
*演奏時間=約97分(2つのカンタータとマニフィカートの間で20分休憩)


2つの世俗カンタータとマニフィカート

日時│2008年6月6日(金)18:00開場・18:30開演
会場│日本福音ルーテル東京教会 JR新大久保駅下車右へ5分
http://www.jelc-tokyo.org/
入場料│4000円(全自由席)
チケット│東京文化会館チケットサービス 03-5815-5452
二期会バッハ・バロック研究会 090-1705-3508 bach-barock@car.ocn.ne.jp
主催│二期会バッハ・バロック研究会
後援│財団法人東京二期会

多田羅迪夫ブログ
http://diary.jp.aol.com/rwkwszjhz/


多田羅迪夫さん

Johann Sebastian Bach J.S.バッハ 『ロ短調ミサ曲』

『ロ短調ミサ』は、現代音楽の父バッハが亡くなる前年の1749年に完成しました。人智を超えた存在を想起させながらも民族や宗教観の壁を超え、普遍性をもった芸術として今を生きる私たちにも深い共感を呼び起こす傑作として、クラシックの最高峰とも言われるのです。

KAY合唱団第117回 定期演奏会
日時│2008年6月28日(土)18:00開場・18:30開演(終演21時頃)
会場│東京芸術劇場大ホール(池袋駅 西口)
http://www.geigeki.jp/access.html
入場料│SS6000円、S5000円、A4000円、B3000円、C2500円

指揮:渡辺善忠
譲原麻友子 (Soprano)、永井和子(Alto)、吉田浩之(Tenor) 、多田羅迪夫(Bass)
オルガン:草間美也子 管弦楽:KAY室内合奏団 合唱:KAY合唱団
KAY合唱団事務局 03-3775-1908
チケットのお申し込み fwhk0887@mb.infoweb.ne.jp

電子チケットぴあ
http://ent.pia.jp/pia/event.do?eventCd=0813565&perfCd=001


追:『エンバース 〜燃え尽きぬものら〜』を観終わって

久しぶりの休日に音楽を聴いていると、気になっていた芝居『エンバース 〜燃え尽きぬものら〜』のことがふと脳裏をかすめ、「今日のソワレに間に合うかも!」と思い立って六本木の俳優座劇場へ行ってきました。かつては映画といえば岩波ホール、芝居は俳優座劇場へ通ったものですが、本当に久しぶりです。

長塚京三さんは、NHK大河ドラマ「篤姫」の実父役などではほのぼのとした印象ですが、ロンドンで観たこの芝居「EMBERS」に強く惹かれ、自ら翻訳し上演にこぎつけたというこだわりの作品でした。
原作とプログラム
場所は1940年、ハンガリーの片田舎の古城。登場人物は、75歳となった男と91歳になるその乳母。そして男のかつての友人で男の亡き妻をめぐる疑惑を残し、突然出奔したもう一人のやはり75歳となった男。オーストリア・ハンガリー二重帝国とその解体の時代の中、かつて朋友だった二人が41年ぶりに再会することで、明らかにされる真実はあるのか。失われた王国の中に生まれた文学、その中で人間の中に燃え尽きない想いとは……。思わず引き込まれた2時間でした。

言葉というものは特に想像力を色濃くかきたてるものです。ずっと以前、ハンガリーをブダペストからセゲド、カロチャ、ケチケメート、ベオグラード近くまで旅したことがあったことを思い出し、かつて見かけた人々の顔、遠い日の風景、空気感などが脳裏をかすめました。原作も読んでみるつもりです。

日々急速に変動する時代に流されてしまうことなく、自分の内に宿る確かなものに耳を澄ませ、したたかに実現しようとする仕掛け人たちをみつけると、なんだかうれしい心強い気持ちになりますね。



INFORMATION

二期会Week in サントリーホール 愉しみの刻
日時│2008年6月9日(月)〜15日(日)
会場│サントリーホール小ホール「ブルーローズ」
公式サイト│http://www.nikikai21.net/concert/week.html

6月9日(月)より15日(日)までの7日間、
サントリーホール小ホール「ブルーローズ」にて、二期会Week in サントリーホール愉しみの刻(とき)を開催。
二期会創立50周年記念「30日連続演奏会」が契機となり、毎年開催されるようになった「二期会週間」は、6回目を迎える本年名称も新たに生まれ変わりました。

会場となるサントリーホール小ホールも改修工事を終え、昨年9月1日にリニューアル・オープンしブルーローズというすてきな愛称がつきました。
思春期の燃えるような純愛から大人の愛の世界へとドレスとタキシード姿の女性歌手たちがへ誘う第一夜、そして竹久夢二などによる装画が施されたセノオ楽譜を展示しながら、宵待草 カチューシャの唄 待ちぼうけ 庭の千草 等大正ロマンの時代を感じさせる名曲の数々をお楽しみいただく第二夜。それに続く5日間もそれぞれに趣向を凝らし、風味の異なる美味しいワインをいただくような馥郁(ふくいく)たる一夜をお過ごしいただけることでしょう。

詳細は上記サイトにてどうぞ。
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