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日曜日と木曜日のYMO
2008年6月15日夜。ロンドンのテムズ川の南岸にあるロイヤル・フェスティヴァル・ホールの大ホールは、ちょっと緊張した空気に満ちていた。 この日は、マッシヴ・アタックがキュレーターをつとめる音楽フェスティヴァル「メルトダウン」の2日目。マッシヴ・アタックが影響を受けて育った音楽の先達を紹介したいという意図で選ばれたアーティストたちが揃ったこのフェスの初日に演奏を披露したのは、スティーヴ・ヒレッジが率いるゴングだった。 文=吉村栄一(編集者/ライター)
YMOのTシャツを着た英国人たちと
マッシヴ・アタックのメンバーである3Dは、この2日目、彼が大きな影響を受けた、日本のバンドを招聘した。そう、イエロー・マジック・オーケストラだ。もともとは坂本龍一のソロを通してYMOの音楽を知ったという3Dは、YMOの独創性、先進性に強い感銘を受けたという。2007年のライヴ・アースでYMOの復活を知ったとき、絶対にYMOをメルトダウンに呼びたいと心に決めたそうだ。ゴング以外にもジョージ・クリントン&パーラメント/ファンカデリックやMC5、ギャング・オブ・フォー、トム・トム・クラブといった、音楽史に名前が残る多くのビッグ・ネームが揃ったメルトダウンでも、YMOは特別な存在だった。そして、それはマッシヴ・アタックにとってのみならず、この日訪れた多くの英国人観客にとっても同じだったにちがいない。 開演前のロビーでは多くの英国人ファンがYMOのTシャツを買っている。28年前のロンドン公演も観ているという古参のファンから、マッシヴ・アタックの薦めで聴いてみたら(英国の大きなCDショップや通販サイトではYMOのCDも手に入れやすい)よかったから来たという10代の観客もいる。 「以心電信」からスタートしたライヴ
フロント・アクトはオーストラリア出身のPIVOT。彼らもYMOのファンだそうだが、ロックとテクノをフィジカルに融合した演奏で客席の空気を暖めた。20分ほどの演奏はあっという間に終わる。いよいよその瞬間が近づく。PIVOTのセットが撤去されると、待ちかねたように歓声や指笛が場内に響く。 そして定刻の午後8時40分、ついにYMOの28年ぶりのロンドン公演はスタートした。曲は「以心電信」。日本語のパートもそのまま歌われる。1983年発表のYMOの名曲でスタートした公演は、その後もYMOの曲、スケッチ・ショウやソロの曲と、日本でのHASYMOのライヴとほぼ変わらない演目とアレンジで進んでいく。80年代のテクノポップやエレクトロのYMOの面影を期待して来たファンは、おそらく最初は面食らっただろう。PAの不調もあって、公演の最初はなかなかに緊張した空気に満ちていた。最初にYMOが海外でライヴをした70年代末もこのような感じだったのではないかと想像できたほどだ。 しかし、中盤、それまでカオスパッドでリズムを奏でていた高橋幸宏がドラム・セットに座り、スネアを一発叩いてからはそれまで遠慮がちだった客席もどんどんヒートアップしていった。このロンドンではじめて演奏されたHASYMOの新曲「TOKYO TOWN PAGES」「THE CITY OF LIGHT」での生のグルーヴに対する客席の熱い反応は強烈だった。また、こちらもYMOとしてはじめて演奏された「チベタン・ダンス」では、バックのスクリーンにダライ・ラマのメッセージが投影され、YMOが過去のバンドではなく、いまを生きるバンドであることがはっきりと示された。この曲で大歓声がわき起こった瞬間は、観客にとっても、YMOにとっても、とてもメモリアルな瞬間だったと思う。 「スペース・インベーダー(ファイヤークラッカー)をやってくれ!」「コズミック・サーフィンが聴きたい!」というような親しげな歓声も飛ぶなか、こうしたリクエストこそかなえられはしなかったものの、YMOの28年ぶりのロンドン公演は大成功に終わった。
そして4日後には、スペイン・ヒホンでのライヴだ。YMOとしてのスペインでのライヴはこれが初。実はヨーロッパのほかの国からもライヴのオファーが殺到したそうだが、どうにもスケジュールが合わず、ロンドン以外ではこのヒホンが2008年唯一の海外公演となった。 公演前日、ロンドンからフライトして到着したヒホンの地は、ホテルの周りこそなにもないひなびた町で、メンバー一同気落ちしたそうだが、クルマでしばらく行くと美しい海と景色が広がる素敵な保養地だったという。おいしいレストランで英気を養ったYMOは、ここですばらしい演奏を聴かせる。緊張のロンドンにくらべて、最初から熱い。演目を一部カット、曲順も変えて流れをスムーズにしたほか、ロンドンでの熱狂に影響を受けてかさらに生演奏の割合が増えている。観客の反応もすばらしい。 自分が好きなYMOはどちらのYMOなのか
今回リリースされるロンドンとヒホンの2種類のライヴアルバムは、2008年6月第3週の日曜日と木曜日という短いインターバルでのYMOの2公演の模様をそれぞれ完全収録した作品だ。この短期間で、2つの表情のライヴを見せたYMO。スタジオ作品でのYMOとはまたちがう、屈指のライヴバンドとしてのYMOの魅力にあふれたこれらの公演のうち、自分が好きなYMOはどちらのYMOなのか。年の瀬にふと浮世を忘れてそんなファン談義に耽りたくなる、かつての、そしていまのYMOのすべてのファンにうれしいクリスマスプレゼントだろう。
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