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2008.03.13

スペシャル企画

野宮真貴 × 菊地成孔『エレガンスな対談』VOL.1

2008年4月3日よりはじまる、野宮真貴リサイタルVOL.2『エレガンス中毒』。
本企画の第1回は、主演の野宮真貴さんと音楽監督の菊地成孔さんに、リサイタルの音楽的な部分を中心に、2008年2月にタワーレコード限定でリリースされたCDに収録された菊地さん作詞・作曲による『年上の男』と『年下の男』のこと、そしておたがいの「年上」「年下」のイメージについてお話していただいた。



文=金子英史(本誌)
Photo by Jamandfix


──こんかいリリースされたCDは、おふたりのコラボレーションというカタチですが、制作の経緯からお聞かせください。

野宮 こんど、開催するリサイタル『エレガンス中毒』で、菊地さんに音楽監督をやっていただくことになったので、そのためにテーマ曲とも言える2曲を書いてもらったんです。CDに収録されている曲がそれです。

──菊地さんはプロデュースということで、曲について野宮さんとはどんな話をされましたか?

菊地 このリサイタル自体は今年で2回めで、昨年(07年)はゲストでチラっと出演したんですよ。なので、大体どういうモノかというのはわかっていたんです。そこで、まずはキー曲というか、CDに収録された2曲をつくったんです。
この曲にかんして僕がこころがけていたのは、野宮さんには素晴らしい業績があるわけで、その過去の業績とおなじことをやってもどうしようもないですから、いままで聴いたことのない感じのことをやろうと漠然と思っていましたね。
とはいえ、このふたりでコラボレーションというより、プロデュースの湯山玲子さんとロマンチカの林巻子さんと野宮さんと3人の女性のチームワークによるものなんですよ。

野宮 そうなんです。菊地さんが音楽監督をやっていただけることが決まってから、その女性3人のチームでいろいろとアイデアを出しあって、リサイタルの大体の演出案はもう決まっていたので、曲をあたらしく書いてもらうのだったらこういう曲みたいなイメージがあったんです。それをお伝えしてつくっていただいたという感じですね。


菊地 だから、ふたりでこのCDをつくったという感じではないんです。リサイタルありきで、しかもそれが湯山さんと林さんと野宮さんというチームでガンガンやっていくというものだったので、今回は僕は御用聞きというか、いい意味でチャーリーズ・エンジェルのボスレー役ですよ(笑)
「この曲は何分にして欲しい」とか、「着替えが入るから間奏を長めに」とか、具体的な要望があって、それに対して曲を作ったという感じです。

──ギター色の強い『年下の男』、それに対比するようにチェンバロのゴシックなメロディで構成される『年上の男』。これが菊地さんがイメージするエレガントな音楽ということでしょうか?

菊地 僕が現場に御用聞きに行く前から決まっていたのが、『年下の男』と『年上の男』の歌が2連作みたいになっているということだったんです。

野宮 決まっていたというよりは「そういうものが欲しいんです!」という感じで、でも曲調とか歌詞の内容はお任せしました。

菊地 枠組はそういう感じで、アイデアとしてはそれが最初にあったんです。ただピチカート・ファイヴのころの野宮さんって、年齢も無いし、何もない、ドールみたいな感じだったんですけれど、今回は年齢の設定もちょっと生々しいというか。もちろん二十代ってことはないんですけれど(笑)、三十代、四十代というのを漠然と設定した女性と、すごく若い男と、すごく歳を取った男との恋という以外は、あとはお任せみたいな感じでお話をいただいたんです。
ただ、オトナっぽいという全体的なムードが必ずあって、あとは踊ったり、衣装を着替えたりとかがあるわけですよ。そこで曲をつくるときに頭のなかで考えていたのは、ちょっとストリップ・テイストめいているという感じだったんです。まあ、ロマンチカの林さんが演出をやるんで、可愛く、ポップなイメージではないとは思いましたけれどね。

野宮 演出がだんだん具体的になってきたんだけれど、ちょっとエロすぎ?!みたいな(笑)。

菊地 だよね(笑)。
最初から「エロくなるぞ!」みたいな兆しはありましたけれどね。

野宮 曲もエロいし。

菊地 詩の内容もエロいしね。

──楽曲的には、『ピンクパンサー』のサントラとか、ミュージカルの『キャバレー』のような雰囲気を感じたのですが、やはり意識しているんですか?

菊地 そうです。詳細には打ち合わせてはいないんですけれどね。結局、あうんの呼吸みたいな感じで、だんだんとエロい方向に向かっていったんですよ(笑)。たぶん、いままで野宮さんはストリップ・テイストな音楽をやっていなかったわけですからね。どちらかというとキラキラしていたから。
林さんもよろこんでそういう風にしようかなってなって、雪だるま式に子どもが見れない世界になってしまったんですよ(笑)。まあ、多少エロくかまえても、今回の催しにはいいかなとはおもいますけれどね。

──歌詞の「年下の男」とは「青山の地下クラブで出会った」という設定なんですが、それは菊地さんが考えられたわけですよね?

菊地 そう、ぜんぶ考えた。

──どういうシチュエーションから、この歌詞が生まれたのでしょうか?

菊地 そんなに意味はないんだけれどね(笑)。
野宮さんのいままでされていた仕事──少なくともピチカートに関しては、小西康晴さんがつくりあげた世界なんです。それはいい意味でおとぎ話というか、あまりエグくないですよね、そこが良かったんですよ。
だけど、おなじことをやって単なる模倣になったら面白くないので、もうちょっと生々しいというか、どこで出会ったとか、何となく歳も分かるし、やっていることも恋とかではなくて、もっと濃密な関係にしようと思ってこの歌詞にしたんです。

──この歌詞を見たとき、野宮さんの最初の印象はどうでした?

野宮 「オー、こう来たか!」って感じだったんですけれど、歌詞が来たのが、たしかね──。

菊地 もう録るときね(笑)。

野宮 そう(笑)! レコーディングの当日、スタジオで渡されました。

菊地 事前に出してNGをくらわないように当日わたしにして、もう変更はきかないぞ! みたいな感じですよ(笑)。
野宮 ぜんぜんOKでしたけれどね(笑)。

──歌詞から、この『年下の男』に対する野宮さんのイメージがMっぽい感じがしたのですが、それは菊地さん的に何らかの野宮さんのイメージがあったのでしょうか?

菊地 いや、SとMというのが顛倒(てんとう)するというイメージだったんですよ。野宮さんがSかMかといったら、それはもうパブリックイメージではSですよね、どうしても。

野宮 そうなんだ(笑)。

菊地 ピチカート・ファイヴの歌詞に出てくる女の子って、すごく高慢でこわいSの女の人で、男の人がMという世界だったと思うんです。野宮さんがソロになられたときはSもMもないラグジュアリーな感じだったんですけれど、とはいえ野宮さんがMというのはあまり想像がつかないじゃないですか? だからといって、また今回も野宮さんがSで男がMだってやっちゃうと、いままでと何も変わらない。リアルなことを言えば、SとMはちょっとしたキッカケでひっくり返るんだと、そこがダイナミックなんだということを表現したかったんです

──なるほど。

菊地 だから『年下の男』は、男はSのつもりでいて、野宮さんはそれまでは女王だったんだけれど、出会った瞬間にSとMが逆転して、初めてその男に顔とか踏まれたりされて、それにすごく興奮して関係していくんだけれども、やっぱりSに戻っちゃう。
男が弱くて最終的には女が男を軽蔑するという、SとMが一瞬のうちに入れ替わるということをやったんです。それはいままでなかったんじゃないかな。

野宮 たしかにいままでそれはなかったし、私生活でもないな(笑)。


菊地 野宮さん、じっさいはすごくヘルシーな人なんだよね(笑)
いろんなパブリック・イメージがね、どうしてもあるよね。マリリン・モンローだって、素であったら普通の気のいいオネイちゃんだったりとかさ、別にセックスシンボルでもなんでもないんだよね。というか、あの人はセックスをぜんぜん出来なかったとかあるからさ。素で会ったらそういうもんなんだって。


野宮真貴

歌手、エッセイスト、女優、モデル、ナレーター、ファッション・デザイナー。
81年、ムーンライダーズの鈴木慶一プロデュース『ピンクの心』でデビュー。その後、ポータブル・ロックのヴォーカリストとして活躍。東京ニューウェイヴ・シーンの歌姫として愛される。90年、ピチカート・ファイヴに3代目ヴォーカリストとして参加。2001年、解散。
ソロ・アルバム2枚目『レディ・ミス・ワープ』(02)を皮切りに、ディナーショー・スタイルの『ドレスコード』(04)、完全フロア対応の『PARTY PEOPLE』(05)などの趣向を凝らしたアルバムを発表し、草野マサムネ、槙原敬之、クレイジーケンバンド、須永辰緒、菊地成孔、m-flo、FUTON(バンコク)……といった多種多様なアーティストたちとのコラボレーションにより、あらたな魅力が花開いている。

http://www.missmakinomiya.com

菊地成孔

音楽家/文筆家/音楽講師。
音楽家としてのデビューは85年。04年初のソロ・アルバム「デギュスタシオン・ア・ジャズ」とセカンド・ソロアルバム「南米のエリザベス・テーラー」を発表。各々のステージアクトの為に「クインテット・ライブ・ダブ」と「ペペ・トルメント・アスカラール」を結成。05年映画音楽界にデビュー、その後1年間で4作品を手掛ける。
著作デビューは03年、「スペインの宇宙食」(小学館)。以後、精神分析学から服飾文化史、音楽理論史など、膨大な知識と妄想を駆使した饒舌な文体で、異形の批評家/エッセイストとして著書多数。
音楽講師としては、04〜5年にかけて東京大学教養学部非常勤講師。06年からは国立音楽大学の非常勤講師(ジャズ理論史)に就任。
双子座のAB型。日課は散歩とストレッチ。好きな食材は鮪、鴨、メロン。ワインはサンセールのロゼ、パルファムはテュエリー・ミュグレーの「エンジェル」を常用。フォワグラは私財と共に自宅冷蔵庫に大量に保管してあるので大丈夫。

http://www.kikuchinaruyoshi.com/

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