連載・岡部美代治|Vol.15 夏の汗と上手に付き合うコツ
Beauty
2015年1月28日

連載・岡部美代治|Vol.15 夏の汗と上手に付き合うコツ

Vol.15 夏の汗と上手に付き合うコツ

大手化粧品メーカーの研究部門と商品開発部門にて、数々の優秀コスメ誕生にかかわってきた岡部美代冶さん。女性の美に対するあくなき探求心と鋭い視点、そして研究者ゆえの造詣の深さを活かして、さまざまな「美容の疑問」を、科学的見地から解説していただきます。

語り=岡部美代冶
写真=JAMANDFIX

爽やかな春が終わり、ジメジメした梅雨から夏にかけて、汗のにおいが気になる季節。みなさんはどのような「汗対策」をしていますか? どんなに抑えたくても、汗を止めることはできません。そこで今回は、汗と上手につきあい、夏を快適に過ごすヒントを教えていただきました。

Q.汗をかく仕組みを教えてください。

まず、皮膚の表面にはいくつかの分泌腺がありまして、代表的なのが毛穴の奥にあって皮脂を分泌する「皮脂腺」、そしてもうひとつが皮膚表面で水分を出している「汗腺」です。この汗腺から分泌されるのが「汗」になります。では、どんなときに汗が出るかといいますと、まずは暑いとき。「汗腺」は体温調節の役割をもっていますので、汗をかき、汗が蒸発することで体を冷やします。余談ですが、犬や猫には汗腺がありません。夏の暑い日など息切れしているようにハァハァしているのは、息で体温調節をしているためです。

Q.なるほど。では、汗に種類はあるのですか?

「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」から分泌される2種類があります。「エクリン汗腺」は成分のほとんどが水分で、わずかに塩分、乳酸ナトリウム、尿素をふくんでいます。汗がしょっぱいのは塩分をふくんでいるためですね。そして乳酸ナトリウムというのは肌がもっている天然保湿成分です。汗をかきやすい夏、乾燥しにくくなるのは、乳酸ナトリウムが肌に潤いを与えるためといえます。だったら肌が乾燥せずに好都合と言いたいところですが、そうは言っていられないのがアンモニアによる匂いです。「汗臭い」という現象の原因のひとつに、尿素がバクテリアに食べられることで発生するアンモニアの匂いが挙げられます。

Q.「アポクリン汗腺」から分泌されるのはどのような汗ですか?

「エクリン汗腺」から分泌される汗の匂いの原因はバクテリアの分解によるものでしたが、「アポクリン汗腺」から分泌される汗は、多くの場合匂いをもった濃厚なものです。たとえば、ワキガはアポクリン汗腺からの分泌物が強い匂いをもっているひとに多くみられます。体質によるものなのでひとそれぞれですが、欧米のひとにとくに多いですね。これはフェロモン臭とも言われていまして、「ジャコウジカ」など強い匂いをもつ動物がいるように、かつては匂いによって自分の存在を示す、または異性を引き寄せるためにあったものの名残とも考えられています。


Vol.15 夏の汗と上手に付き合うコツ

Q.アポクリン汗腺からの汗はどのようなときに出るのですか?

肌下にアポクリン腺という管のようなものがあるのですが、そのなかにある汗腺の細胞が熟成すると細胞質をふくむ分泌物が出されるのがアポクリン汗腺からの分泌です。なので、なにかのきっかけがあってということではなく、熟成したものからじわじわと出てきます。

Q.汗腺の数や活動は身体の部位によってちがうのですか?

ちがいます。たとえば「エクリン汗腺」は体温調節が目的ですから、汗が蒸発しやすい額や背中などに多くあります。それに対し、「アポクリン汗腺」はおもに脇や陰部などの限られた部位にあります。たとえば脇下などの蒸れる部位には雑菌が多くいますので、その雑菌が汗を分解することによってさらに匂いが強くなってしまうこともあります。

Q.なるほど。ということは、デオドラント製品というのはとくに「アポクリン汗腺」から分泌される汗に対して開発されているのですね。

そのとおりです。アポクリン汗腺の匂いをいかに抑えるかがポイントになるでしょう。デオドラント製品には、雑菌によるタンパク質や尿素成分の分解を阻止することを目的とした殺菌剤、そして汗の出口を引き締める効果のある成分が配合されています。

Q.汗の出口を塞いでしまって、身体に悪影響はないのですか?

基本的にはありません。じわじわと汗を分泌する毛穴を“一時的”に引き締めて出にくくするだけですから、最終的には外に出されます。さきほども言いましたが、匂いの原因のほとんどは雑菌ですから、出た汗が雑菌によって臭くならないようにすることがメインです。ただ、夏の汗のケアとしては、デオドラント製品ばかりに頼るのではなく、その日のうちに洗い流すこと、清潔に保つことなにより大切です。

Q.最後に、夏の汗と上手に付き合うコツを教えてください

汗の役割である体温調節をおこないやすくすることがポイントですね。たとえば汗が蒸発しやすい服装を心がけること。それと、脇毛を剃るのは雑菌を増やさないという意味で効果的だと思います。発汗は生きるために不可欠ですから、止めることはできません。それをまずは受け入れて、汗と上手につきあうことが、夏を快適に過ごす近道だと思います。

岡部美代冶オフィシャルサイト
「美」の科学 「ビューティサイエンスの庭」
http://www.kt.rim.or.jp/~miyoharu/

           
Photo Gallery