スポーツシリーズを完成させるマクラーレン「540C」|Mclaren
CAR / MOTOR SHOW
2015年4月24日

スポーツシリーズを完成させるマクラーレン「540C」|Mclaren

McLaren 540C Coupe|マクラーレン 540C クーペ

スポーツシリーズを完成させるマクラーレン「540C」

マクラーレンが新型モデル「540C」を上海オートショーで発表した。今月初頭の「570S」からつづけざまに登場した新型は、どういう位置づけなのか。現地で発表の瞬間にも立ち会った大谷達也氏のリポート。

Text & Photographs by OTANI Tatsuya

ライバルは911GT3

4月1日開幕のニューヨークショーでニューモデル「570S」を発表し、アルティメイトシリーズ「P1」、スーパーシリーズ「650S」につづく第3のモデルレンジであるスポーツシリーズの展開を開始したマクラーレン・オートモーティブは、オート上海2015のプレスデイにあたる4月20日にスポーツシリーズ第2弾の「540C」を発表した。

570Sの価格は2,556万円、540Cは2,188万円と発表されており、現在のマクラーレンの主力モデルである650Sにくらべるとおよそ500-1000万円安く、ポルシェ「911ターボ」ないし「ターボS」とほぼおなじ価格。ただし、製品開発担当役員のマーク・ヴィネルズ氏は「911ターボはスポーツカーというよりもラグジュアリーカー。私たちのライバルとなるのはおなじ911でもGT3のほう」と570Sならびに540Cのポジショニングを説明する。

McLaren 540C Coupe|マクラーレン 540C クーペ

McLaren 540C Coupe|マクラーレン 540C クーペ

ちなみに911GT3の価格は1,912万円だから発表された2台よりもやや安いが、例によってモデル名がそのままエンジンの最高出力を示すマクラーレンのほうがパワフルで、車重は1,313kgでGT3の1,430kgよりも100kg以上軽量。というわけで、どちらがいいかはさておき、911GT3や911ターボ/ターボSに強力なライバルが登場したことだけはまちがいなさそうだ。

570Sと540C(Sはスポーツ、Cはクラブの意味)は、650Sと基本的に共通のパワープラントを用いるものの、V8 3.8リッター ツインターボエンジンは30パーセントのパーツがあらたに開発されたという。

たとえば、650Sより低くなった最高出力に対応してターボチャージャーが小型化されたほか、エグゾースト マニフォールドは650Sの溶接式から鋳造製に置き換えられている。

いっぽうのギアボックスは650Sとほぼ共通だが、マクラーレンの代名詞というべきカーボンモノコックは新世代の「モノセルII」へと生まれ変わった。これはサイドシル部分をより低く、より狭くすることで乗降性の改善をはかったものだが、モノコックの剛性はカーボンの板厚を上げるなどして同等に保たれているようだ。

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スポーツシリーズを完成させるマクラーレン「540C」 (2)

スポーツシリーズは乗り手を選ぶ

もうひとつの注目点が、650Sの特徴でもあったプロアクティブシャシーではなく、より常識的なアンチロールバーを採用したことにある。

プロアクティブシャシーは、4輪のダンパーの油圧回路をたがいに接続することで乗り心地を損ねることなくコーナリング時のロールを抑制する機構。スポーツシリーズでこれが採用されなかったのは主にコストが理由のようだが、スプリング、ダンパー、ブッシュなどをていねいにチューニングすることで、乗り心地の低下を最小限に抑えながらマクラーレンらしいスポーティなハンドリングを実現したという。ちなみに、俊敏な身のこなしを可能とするため、ステアリング ギアボックスのギア比は650Sよりも高められているようだ。

McLaren 540C Coupe|マクラーレン 540C クーペ

McLaren 540C Coupe|マクラーレン 540C クーペ

シャシー面ではタイヤが650Sの前後=235/35R19/305/30R20から225/35R19/285/35R20へとサイズダウンされたことも注目される。これはエンジンパワーの低下に対応したという側面もあるが、前述のヴィネルズは「より容易に限界域に到達できることを目指した」とも説明している。

さらに彼は「全般的に高いパフォーマンスを発揮する650Sは99パーセントの人々が安心してドライビングを楽しめるだろうが、スポーツシリーズではドライバーがより積極的にドライビングにかかわることを前提としているので、ひょっとすると50パーセントの人々にしかマッチしないかもしれない」と語っていたので、スポーツシリーズは乗り手を選ぶスーパースポーツカーといえるかもしれない。

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スポーツシリーズを完成させるマクラーレン「540C」 (3)

P1の流れをくむ完成形のデザイン

スポーツシリーズのスタイリングは全体的には650Sとよく似ているが、細かく見ているとエッジがよりシャープになり、贅肉をそぎ落としてぎゅっと引き締まっているかのような印象を与える。マクラーレンが“シュリンク ラップト”と呼ぶこのデザイン手法はP1で初めて登場したもの。

じつは、650Sのベースとなった「MP4/12C」は、フランク・ステファンソン氏やロブ・メルヴィル氏といった現デザイナー陣がマクラーレンにくわわる以前にほぼ完成していたもので、シュリンク ラップトという考え方は用いられていない。

その後、650Sへと生まれ変わる際にステファンソンやメルヴィルによって細部に手がくわえられたが、基本的なデザインは12Cから引き継いでいるだけに、完全に彼らの作品とは言いがたい側面がある。その意味からいえば、スポーツシリーズ(とP1)こそ、ステファンソンとメルヴィルが本当にやりたかったことを実現したデザインだといえる。

McLaren 540C Coupe|マクラーレン 540C クーペ

McLaren 540C Coupe|マクラーレン 540C クーペ

インテリアでは、メーターパネルに液晶ディスプレイが全面的に採用されたほか、センターコンソールは途中で上下に2分割された形状となっており、軽快な印象を与えるデザインになっている。

それ以上に見逃せないのが、前述したサイドシルの改良による乗降性の向上と、キャビンスペースの拡大である。

このうち後者にかんしては、Aピラーを外側に移すことで室内幅を拡大するとともに、室内長も650Sより11mm延長している。なお、Aピラーの移動が可能になったのは、後述するエアロダイナミクスの改良により、全幅を大きく拡大することなくサイドウィンドウをより外側に移設できたからだとマーク・ヴィネルズ氏は説明する。

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スポーツシリーズを完成させるマクラーレン「540C」 (4)

バリューフォーマネーの点で優れたスーパースポーツカー

カーボンモノコックと並ぶマクラーレンのもうひとつの特徴であるエアロダイナミクスは、650Sのような可変式ではなく固定式とされたが、あたらしい手法の導入によって空力効率を改善し、空気抵抗の増加を最小限に抑えつつ必要となるダウンフォースを確保した。

その手法のひとつが、“フライング バットレス”と呼ばれるもの。これはCピラーをボディから浮き上がった形状とすることで、サイドウィンドウに沿って流れるエアフローをエンジンカバー上に流し込み、リアエンドのテールダックによる空力効果を高めてダウンフォースを増加させるとともに、リアウィンドウの後方に発生する渦を弱めて空気抵抗の低減を図るというもの。

650Sではリアウィンドウがなだらかに下降するデザインだったため、ここに沿って流れるエアフローもリアエンドに向かってスムーズに進んでいったが、スポーツシリーズのリアウィンドウはほぼ直立しているためにこの後ろ側に気圧の低い領域が生まれ、周囲から流れ込む気流によって強い渦が形成され、これが空気抵抗となることが見込まれた。フライング バットレスは、リアウィンドウの後方にボディ側面から速い気流を流し込み渦の発生を最小限に抑えるもので、極めて巧妙な手法だといえる。

McLaren 540C Coupe|マクラーレン 540C クーペ

McLaren 540C Coupe|マクラーレン 540C クーペ

もうひとつの特徴が、ドアパネルの一部をやはりボディから浮かせた形状にする“フローティング ドア シェル”である。これはボディサイドの比較的高い位置に沿って流れる速いエアフローをボディサイドのエアインテークに取り込み、効率よくラジエーターに冷却気を取り込むもので、このためドアが薄型化され、前述したサイドウィンドウとAピラーの外側への移設が可能になった。この部分のデザインは、視覚的にもボディサイドのアクセントになっている。

また、ボディパネルの大半をアルミ製としたことも650Sとの大きなちがいだ(650Sは大半がコンポジット製)。素材をアルミとしたのはおそらくコスト削減のためだろうが、熱したアルミを空気圧のちからでモールドに沿わせるスーパーフォームという製法により、アルミを用いながらも深く折れ曲がった形状の前後フェンダーを作り出した。また、これらのパーツは表面の精度が高く、いかにも高級そうに見えることも特徴のひとつといえる。

エンジンの最高出力が下がり、サスペンションやエアロダイナミクスのコストダウンが図られてはいるとはいえ、そのいっぽうで利便性が向上し、デザインも魅力的な570Sと540Cは、ひょっとすると650Sの立場が危うくなるのではないかと心配されるくらい、バリューフォーマネーの点で優れたスーパースポーツカーといえるだろう。

           
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