風から作ったガスで走るアウディA3 g-tron 後編|Audi
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2015年4月16日

風から作ったガスで走るアウディA3 g-tron 後編|Audi

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

持続可能な社会にむけたアウディの取り組み

風から作ったガスで走るアウディA3 g-tron 後編

持続可能な社会の構築の柱として、自動車のCO2排出量削減に真剣に取り組んでいるアウディ。A3 スポーツバック gトロンは、その結実したひとつのかたちとして、ドイツを実際に走っている。風力で発電した電気でつくったガス「e-gas」をつかえば、そのパワーの源は理論上、CO2排出量ゼロだという。後編では、大谷達也氏が実際に試乗して、そのメリットをかんがえる。

Text by OTANI Tatsuya

アウディがCO2削減に取り組む、そのバックグランドに迫る前編はこちら

CNG(e-gas)とガソリンのバイフューエル モデル

今回は、まずデュッセルドルフにて「A3 g-tron」をピックアップ。これに試乗して、およそ250km離れたヴェルルテにあるe-gas生成工場を見学した後、再びA3 g-tronでデュッセルドルフまで戻るという充実したメニューが用意されていた。

最初にA3 g-tronについて紹介しよう。エンジンは日本仕様の「A3」と基本的におなじ排気量1.4リッターのTFSIで、ギアボックスは6段Sトロニック。その最大の特徴は、ガソリンと天然ガスのどちらでも走行できるよう、容量50リットルのガソリンタンクと合計14.4kg分のe-gas(もしくは天然ガス)を貯蔵できる2本のガスボンベを積んでいる点にある。

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

このガスボンベは、内側からポリアミド、カーボンファイバー、FRPの3層構造となっており、おなじボンベをスチールで製作した場合に比べて70パーセントも軽い27kgに仕上げられている(1本あたりの重量)。

A3 g-tronのもうひとつの特徴は、e-gasとガソリンを自動的に切り替える仕組みを設けたことだ。A3 g-tronは、まずはe-gasを優先的に使用する設計となっている。そのほうが環境に優しいのだから当然だが、やがてe-gasを使い切ると自動的に燃料を切り替えることになる。

つまり、2種類の燃料で走行するバイフューエル モデルで、この点、私が個人的に「電気とガソリンの両方で走るバイフューエル モデル」と位置づけているプラグイン ハイブリッド カーと共通しているのだが、最大のちがいは、プラグイン ハイブリッド カーが電力だけで走行できる距離が30-50km程度に留まっているのに対し、A3 g-tronはe-gasだけで400km以上も走行できる点にある。

つまり、従来のガソリン車とほとんど変わらない距離をe-gasだけで走行できるのだ。だから、日常の使い勝手で不便を強いられることなく、環境に優しい暮らしができるわけだ。

さらにA3 g-tronはガソリンだけでも900kmの航続距離を有しており、その合計は実に1,300kmにもなる。最新のクリーンディーゼル並みの“足の長さ”といえるだろう。

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

持続可能な社会にむけたアウディの取り組み

風から作ったガスで走るアウディA3 g-tron 後編 (2)

e-gasは、おサイフにも優しい

もっとも、A3 g-tronを走らせるのに特別な技術や知識は一切不要。フューエルリッドを開けると、そこにはe-gas用とガソリン用の給油口が用意されているので、それぞれの給油装置(給ガス装置?)を使って燃料を補給すればいい。

私も天然ガスの補給を実際にやってみたが、給ガス装置の先端を押し込むと自動的に結合される仕組みのためあっけないほど簡単だった。なにしろ、ドイツでは少なくない数の人々が普通におこなっていることなのだ。私たち日本人にだっておなじようにできるのは当然のことといえる。

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン 015

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン 007

ちなみに、ドイツでの天然ガスの値段は1kgあたり1ユーロほど。A3 g-tronは100km走行するのに3.2-3.3kgほどの天然ガスを消費するので、1kmあたりの燃料代は4円少々(1ユーロ=140円で計算)。いっぽう、ドイツのハイオクガソリンは1リットルあたり230円以上(!)もするので、かりにリッターあたり20km走るとしても燃料代は1kmあたり12円近くになる。たとえ日本の現在のガソリン価格(170円/ℓ)をあてはめても8.5円だ。天然ガスのほうが圧倒的に経済的であることがわかる。

なお、現在e-gasを購入できるのはA3 g-tronのオーナーで、しかもe-gasを使用できる会員のメンバーになった者に限られる。このためには月に15ユーロ(約2,100円)の会費を払わなければならないが、そうすることであなたが給油した燃料は、ただの天然ガスからとびきり環境に優しいe-gasに変わったのと実質的におなじことになる。

たとえば、1ヵ月に500km走ったとして、燃料費は天然ガス代の約2,300円とe-gas会費の約2,100円で合計4,400円ほど。おなじ距離を走るには25リットルのガソリンを消費するので、日本の価格を適用しても4,250円となり、e-gasの場合と互角だ。

ただし、e-gas会費はガスの使用量に関係なく一定だから、さらに走ればe-gasのほうがガソリンよりも燃料代は安くなる。たとえば月1,000kmなら、ガソリンであれば燃料費は8,500円だが、e-gasだったら6,700円で済む。つまり、e-gasは環境に優しいだけでなく、おサイフにも優しいのだ。

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

取材日のガソリンスタンドの価格表。軽油が1.439ユーロ、ガソリン(Super/Super Plus)は1.649-1.689ユーロ、天然ガス(Erdgas)が1.059ユーロ

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持続可能な社会にむけたアウディの取り組み

風から作ったガスで走るアウディA3 g-tron 後編 (3)

普段使いにまったく不足はない

ところで、A3 g-tronはガスの残量が減ると自動的にガソリンに切り替わると前述したが、どちらの燃料を使っても出力はまったくおなじになるように制御されているという。私も実際にe-gasとガソリンの両方で走行してみたが、パワー感はまったくといっていいほど変わらなかった。

では、A3 g-tronはどのくらい速いのか? 0-100km/h加速は10.8秒(A3 1.4 TFSIは9.3秒)だというので、決して俊足の持ち主ではないが、日常的な使い勝手からいえばまったく不足はなく、市街地だろうがアウトバーンだろうがスムーズに走行できる。

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

ちなみに最高速度は197km/h。私自身もアウトバーンの速度無制限区間でスピードメーターが200km/hに到達したことを確認しているので、これは掛け値なしのデータだと請け負える。

室内のノイズレベルはe-gasでもガソリンでもまったくおなじで、じつに静か。乗り心地は日本仕様のA3 1.4TFSIより一段階ソフトな印象でとても快適だった。

ドイツでの価格は2万5,900ユーロ(約360万円)からなので、決して安くはないが、プラグインハイブリッドよりは大幅に安い。環境問題に関心のある向きにはじつに魅力的な選択肢だといえる。

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持続可能な社会にむけたアウディの取り組み

風から作ったガスで走るアウディA3 g-tron 後編 (4)

実証のために工場まで建設

およそ2時間のドライブでヴェルルテに到着し、アウディe-fuelのプロジェクトマネージャーであるヘルマン・ペンク博士のプレゼンテーションを受けた後に施設を見学した。

敷地面積は4,100平方メートルというから、ちょっとした公園並みの規模だ。その中心となっているのは、水を電気分解する電解槽で、この施設には2MWのものが3基設置されている。そのほか、ここで得られた水素をメタンガスにするメタン発酵装置、熱制御装置などがレイアウトされており、複雑に金属パイプが巡らされた様子は化学工場そのものに見える。

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

しかも、この施設はアウディ自身の投資で建設されたものなのだ。別に彼らはここで生成したe-gasを販売して儲けようとしているわけではない。再生可能エネルギーによるメタンガスの化学合成が事業として成立することを実証するために、莫大な投資をしてこの工場を建設したのだ。ちなみに、ここ1ヵ所だけで1,000-1,500台分のアウディA3 g-tronが消費するe-gas(年間走行距離が1.5万kmの想定)を生産できるという。

けれども、アウディが研究開発した技術を活かし、商業ベースでメタンガスの化学合成をおこなおうとする企業はまだ現れていないらしい。

冒頭で述べたとおり、CO2削減はいっときの猶予もなく対策を打たなければならない重要な問題である。しかし、その必要性を“リアル”に受け止められる人々は、まだ少数派のようだ。

アウディは自らパイロット工場を作り上げて、現実味の薄い問題を目に見える形にして浮かび上がらせた。大切なのは、私たちがしっかりと目を見開き、その事実を自らの問題として受け止めることにあるのだ。

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

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Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン
ボディサイズ|全長 4,310 × 全幅 1,785 × 全高 1,427 mm
ホイールベース|2,637 mm
トレッド 前/後|1,542 / 1,514 mm
重量|1,280 kg
エンジン|1,395cc 直列4気筒 DOHC 直噴ターボ
圧縮比|10.5 : 1
ボア×ストローク|74.5 × 80.0 mm
最高出力| 81 kW(110 ps)/ 4,800-6,000 rpm
最大トルク|200Nm(20.4kgm)/ 1,500-3,500 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(Sトロニック)
駆動方式|FF
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|4リンク
タイヤ|205/55R16
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ディスク
トランク容量(VDA値)|280-1,120リットル
最高速度|197 km/h
0-100km/h加速|10.8 秒
燃料タンク容量|(ガソリン)50リットル   (CNG)14.4kg
燃費(EU値)|(ガソリン)5.0 ℓ/100km(およそ20.0km/ℓ)   (CNG)4.9 ㎡/100km
CO2排出量|(ガソリン)115 g/km   (CNG)88 g/km

           
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