フォルクスワーゲンのEV、e-up! で湘南ドライブルートを試す|Volkswagen
CAR / IMPRESSION
2015年3月23日

フォルクスワーゲンのEV、e-up! で湘南ドライブルートを試す|Volkswagen

Volkswagen e-up!|フォルクスワーゲン eアップ!

フォルクスワーゲンのEV、「e-up!」で湘南までドライブルートを試す

フォルクワーゲンの電気自動車「e-up!」に、東京の中心地から郊外の湘南まで試乗した。日常の足としてガソリンエンジンの「up!」を愛用するジャーナリストの大谷達也氏に、果たしてEV仕様のe-up!はどう受け止められたのだろうか。

Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ARAKAWA Masayuki

都内から湘南まで50kmを走る

私が初めて「e-up!」に触れたのは、フォルクスワーゲンが2014年3月にドイツ・ベルリンで開催したelectrified!(電動化!)という名のイベントでのこと。

そのときの印象は、前年のフランクフルトショーでいち早く試乗した同業者が語っていたとおり、恐ろしく静かでガソリン エンジンを積む「up!」よりはるかに高級感あふれるシティコミューターというものだったが、いっぽうで路面の鋭い突起に乗り上げたときのショックはおもいのほか強く、乗り心地の点ではノーマルのup!のほうが好ましいと感じた。

それからおよそ9ヵ月が経過し、ようやく日本でe-up!に試乗するチャンスを得た。コースは、都内のフォルクスワーゲン・ジャパン本社から神奈川県藤沢市にオープンしたばかりの湘南T-SITEまでのおよそ50km。この間、都内の渋滞あり、首都高での高速走行あり、郊外の一般道ありという多彩なコースコンディションを体験できるという。

早速、e-up!に乗り込んで湘南までひとっ走りすることにしよう。

Volkswagen e-up!|フォルクスワーゲン eアップ!

Volkswagen e-up!|フォルクスワーゲン eアップ! 31Volkswagen e-up!|フォルクスワーゲン eアップ!

ちなみに、普段の足としてup!を用いている私は、このクルマの乗り心地、ハンドリング、動力性能、居住性などにとても満足していて、購入して以来の2年間でほぼ2万kmを走破した。もちろん、3気筒 1.0リッターNAエンジンのパワーは75psしかないし、185/55R15サイズのタイヤがもたらすグリップだって限られているから、まちがってもスーパーカーみたいな走りができるわけじゃない。でも、up!はこうしたスペックからは信じられないくらい元気な走りを見せてくれる。

なかでも高速クルージングなんか得意中の得意。私は年に何回か鈴鹿サーキットまで出張するけれど、片道400km近い道のりをひとりで走っていても途中で休憩したいとはおもわないし、追い越し車線のやや速い流れに身を任せていてもパワー不足を感じたことはほとんどない。

実は、大人3人とスーツケース3個を満載したup!でドイツのアウトバーンを走ったこともあるけれど、このときは160km/h前後で楽々と巡航することができた。だから、最高速度100㎞/hの日本の高速道路なんて、まったく恐れるに足らないというものである。

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「ガソリン」up!に満足している辛口テスター

しかも、私のように高速道路の自然な流れに従って走っている範囲であれば、平均燃費はやすやすと20km/ℓを越える。おかげで、up!の燃料タンクは35リッターしかないのに、往復800km近い鈴鹿往復を無給油で走りきったことが何度もあるくらいだ。

たしかにギアチェンジでギクシャクする(といってもゆっくり加速すればほとんど気にならない)し、助手席側パワーウィンドウのスイッチが運転席側にない(ただしボディが小さいから手を伸ばせばなんとか届く)といった弱点はあるけれど、長距離ドライブが得意で、街中でも使い勝手がいいup!は、私の理想に限りなく近いコンパクトカーなのである。

Volkswagen e-up!|フォルクスワーゲン eアップ!

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なんでe-up!の記事で自分のup!を褒めちぎっているかといえば、up!に対する個人的な満足度が高い分、e-up!に対する期待値もそれだけ高くなり、結果的にその評価は厳しいものにならざるをえないということをあらかじめ断っておきたいからだ。

ちなみにe-up!の価格は366万9,000円。いくら補助金が得られるとはいえ、定価ベースでいえば私のup!より200万円近く高い。それでいながら電気自動車ゆえ航続距離は185km(JC08モード)しかない。しかも、これはかなり好条件下で走ったデータであって、日常的な使用方法でここまでの長距離を走行できるとはとてもおもえない。

というわけで、e-up!には誠に申し訳ないが、非常に手強い相手にテストされることになったものだと同情したい気分になったというのが、試乗前の偽らざる心境だったのである。

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ぐっと洗練されていた日本仕様

フォルクスワーゲンの地下駐車場で再会したe-up!は、私が所有するup!とよく似ているものの(そんなの当たり前だ!)、よくよく見るとイメージはいくぶんことなっていた。少し大げさにいえば、私のup!よりも未来感が強いのである。

続いて運転席に乗り込むと、エアコンがフルオートになっていたり、シート地がちがっていたりして、ちょっとずつ高級感を醸し出している。もちろん、それだけでは200万円の車両価格差は到底埋め合わせられないけれど、「なるほど、こっちのほうが高いだけのことはある」とおもわせる説得力は備えていた。

Volkswagen e-up!|フォルクスワーゲン eアップ!

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走りはじめると、そのおもいはさらに強まる。“イグニッションスイッチ”をひねってシステムを立ち上げても、インバーターや冷却ファンなどのノイズはまったくといっていいほど耳に届かず、まさに静寂そのもの。そのままセレクターレバーでDレンジを選んでアクセラレーターを踏み込めば、e-up!は文字どおり音もなく走りはじめるのである。

市街地を走りだしてすぐに気づいた。私がベルリンで試乗したe-up!よりも、日本仕様のほうが格段に乗り心地が洗練されていたのである。ちょっとした路面の凹凸を滑らかにやり過ごすことはいうまでもなく、ベルリンで気になった鋭い突起に乗り上げても不快なショックを伝えることは皆無。まるで、車重がはるかに重い大型セダンをおもわせるような、重厚で落ち着きのある乗り心地だったのである。

EVゆえにギアボックスを持たず、したがってシフトショックが一切起きない点も実に好ましい。普段、up!に乗っているとき、ガクガクさせないスロットル操作を無意識のうちに心がけていることを、e-up!に乗って初めて実感した。おかげで、いつも肩に背負っていた荷物を下ろしたかのような身軽さと開放感を満喫することができた。

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街中ではやはりEVに乗るべきか

くわえて、これもEVだから当然といってしまえば当然ながら、走行中にCO2を一切排出しないという事実は、ドライバーを実に清々しい気分にさせてくれる。もちろん、発電所がCO2を発生していることは承知のうえ。もしもそれが石炭を使った旧式の火力発電だとしたら、できのいいハイブリッドカーに迫る量のCO2を発生させているなんて話も聞いたことがあるけれど、いまの日本ではそこまで効率の悪い発電機は使用していないはずだから、私のup!よりもまちがいなくCO2排出量は少ないだろう。

このことは、普段ハイパフォーマンスカーを乗り回して大量のCO2をまき散らしている私にとって贖罪に近い価値がある。そして「航続距離が短くても、やっぱり街中ではEVに乗るべきかな」なんておもいが脳裏をよぎったのである。

Volkswagen e-up!|フォルクスワーゲン eアップ!

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そのとき私がおもいついたのは、荒唐無稽というか、人によってはバカバカしいとおもわれるかもしれないアイデアだった。「長距離ドライブはいま所有しているup!で出かけて、市街地走行はe-up!にすれば、CO2削減にも役立つし快適性も味わえる。うーむ、up!の2台持ち。これは意外といいかも――

集合住宅に暮らす私には自宅に充電装置を設けることが難しいから、EVを日常の足に使うことは現実的とはいえない。また、いまのup!を手元に置いたまま、(補助金を得たとしても)300万円近い値段のe-up!を追加で購入するというのも経済的には苦しそうだ。でも、up!とe-up!の2台持ちを一時真剣に考えたのは事実。そのくらい、この2台は私の感性にぴったりとマッチしていて、しかもお互いに補完しあう関係にあるようにおもえたのだ。

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e-up!のよさは静粛性や乗り心地だけではない。いかにもEVらしい重心の低さを実感させてくれる操縦性、タイヤがしっかりと接地していることが伝わってくるステアリングフィールなどは、エコカーかどうかなんてことに関係なく、このクラスの水準を越えた素晴らしい仕上がりといえる。前述のとおり加速感は滑らかで、首都高を走る程度であれば動力性能にもまったく不安を感じない。

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気になる“電費” 効率は

一般的なエンジン車の燃費に相当する“電費”はどうか。マルチファンクションメーターに表示される「CONSUMPTION」のデータを見ていると、スロットルオフするたびに数値がポーンと跳ね上がって、e-up!がいじましいくらい熱心にエネルギー回生をおこなっていることがわかる。だから、加速時や巡航走行時にはCONSUMPTIONが8km/kwh台を示していても、アクセラレーターを離すと、ときには30km/kwh以上まで急上昇し、停止すれば11km/kwh前後のデータを表示しているなんてことが少なくなかった。

首都高と一般道を織り交ぜての平均電費は9.7km/kwh。「1㎞を走行するのに何whを消費するか」を示すwh/km単位で計算し直すと103km/kwhとなり、カタログに記載されている104km/kwhと偶然にも極めて近い数値となった。

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ちなみにフォルクスワーゲンは、この104km/kwhを「世界最高の電費効率」と謳っている。なお、当日の走行距離と平均速度を区間ごとに示すと、都内の一般道3.7km(10.1km/h)、首都高速および有料道路区間38.8km(61.6km/h)、郊外の一般道6.3km(17.2km/h)という配分だった。

というわけで、フォルクスワーゲンの思惑にまんまとはまり、大変e-up!を気に入ってしまった。私の個人的な事情を繰り返せば、集合住宅ゆえに自宅に充電施設を設けられないことと、その車両代を捻出できないことが購入に踏み切れない最大の理由。というわけで「そのふたつが手元にあれば、理想のup!2台持ちが実現できるのに――」と夢想する日々は今日も続いている。

Volkswagen e-up!|フォルクスワーゲン eアップ!
ボディサイズ|全長 3,545 × 全幅 1,650 × 全高 1,520 mm
ホイールベース|2,420 mm
重量|1,160 kg
電動機|EAB
定格出力|60 kW
最高出力(ネット値)| 60 kW(82 ps)/3,000-12,000 rpm
最大トルク(ネット値) |210 Nm(21.4 kgm)/0-2,500 rpm
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池
総電圧|374 V
総電力量|18.7 kWh
トランスミッション|1段固定式
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|トレーリングアーム
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッド ディスク/ドラム
タイヤサイズ 前/後|165/65R15
最小回転半径|4.6 m
価格|366.9万円

フォルクスワーゲン カスタマーセンター
0120-993-199

           
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