パトリシア・ウルキオラが手がける「モルテーニ」の旗艦店|MOLTENI&C TOKYO
DESIGN / FEATURES
2015年4月30日

パトリシア・ウルキオラが手がける「モルテーニ」の旗艦店|MOLTENI&C TOKYO

MOLTENI&C TOKYO|モルテーニ 東京
パトリシア・ウルキオラが手がける「Molteni&C」の旗艦店

イタリア家具の最高峰と日本文化の融合(1)

イタリア屈指のクオリティを誇るインテリアブランド「Molteni&C(モルテーニ)」。創業から80周年を迎える歴史のなかで培ってきた技術力をベースに、収納家具を中心としたハイエンドな家具をつくりつづけている総合ブランドである。なかでも建築家・デザイナーとの協働から生み出される先進的デザイン、そして確かな品質へのこだわりによって育まれた開発力はほかの追随を許さない。

その「モルテーニ」が3月14日、東京・南青山に日本初の旗艦店をオープンした。内装デザインは、世界でいま最も注目されるデザイナーのひとり、パトリシア・ウルキオラが担当。プロダクトや家具をはじめ、ファッションブランドのショップ、ホテルのプロジェクトで国際的に評価されてきた彼女が、日本ではじめて内装デザインを手がけたとあって大きな話題を集めている。親日派でもある彼女の感性を通して、繊細かつダイナミックに表現された、日本におけるモルテーニの世界観。あらたな空間に込められたブランドの魅力を探る。

Photographs by JAMANDFIXText by MAKI Mika

穏やかなライフスタイルを感じさせる空間

フラッグシップショップ「モルテーニ 東京」がオープンしたのは、南青山でも根津美術館の庭園に隣接する閑静なエリア。ショップは1階と地下の2フロアからなる空間で、収納を中心にテーブル、ソファなどをライフスタイルのシーンごとに展示する。1階はリビング・ダイニング、地下1階にはベッドルーム、ウォークインクローゼットを含むナイト・リビングのアイテムを展開。

店内にはパトリシア・ウルキオラをはじめ、ロン・ジラッド、ロドルフォ・ドルドーニほか、複数の著名建築家・デザイナーによる収納や家具が配される。それぞれを語れば言葉が尽きぬほど独創的なデザインや機能を備えつつ、モルテーニの哲学に貫かれた家具が調和する様はシンプルでいて美しい。真の上質を知るイタリアらしい、穏やかなライフスタイルを感じさせる空間となっている。

Molteni&C Is Coming to Town!

和の道具にイタリアの照明ブランド「FLOS」の名作をコーディネートしたインテリア

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吹き抜けの「ウッドゥン ウォール」とキャラメル色の階段が描くグラデーションが美しい

1階と地階、2つの層をつなぐ吹き抜けの階段には、ショップ全体の“背景”として木製の装飾壁「wooden wall(ウッドゥン ウォール)」がダイナミックに広がる。パトリシアが京都・光明院の丸窓からインスピレーションを得たという、高さ7メートルにおよぶ格子状の装飾をガラスの壁に施したのびやかな演出で、隣接の借景により和やかな空気感をつくっている。明るくモダンな雰囲気の1階から吹き抜けの階段へ。風合い豊かな杉材で表現された円と格子に迎えられるように、よりプライベート感のある地階フロアへと降りていく空間構成だ。

また、モルテーニでは近年、イタリア・デザインの巨匠ジオ・ポンティの名作家具を復刻製造していることから、彼へのオマージュとして、幾何学模様をモチーフにした可動式のガラス製間仕切り「Gio Ponti Screen(ジオ・ポンティ スクリーン)」をデザイン。パトリシア・ウルキオラの感性をとおして表現された歴史あるイタリア・モダンのエッセンスは、和の要素と見事に溶け合い、空間を軽やかに演出している。

モルテーニはミラノ北部に位置するブリアンツァ地方で1934年に創業。イタリアを代表する高級家具メーカーのなかでも、卓越した技術力とクオリティで知られ、世界中の建築家やデザイナーから一目を置かれるハイブランドだ。その品質へのこだわりは、同社の主力アイテムであるシステム収納を実際に触れてみれば納得がいくだろう。

内部のパーツまで美しく精巧なつくりで、洗練を極めたデザイン。独自開発によって特許を取得した数々の機構により、扉やスライドドアの開閉は驚くほど静かで、軽くなめらかに動く。空間を演出する美しさと両立する、細部まで考え抜かれた機能性。そのクオリティが、ものを収納するという日常の行為を実にエレガントなふるまいに変えてくれるのだ。

南青山に誕生したモルテーニの世界観を体感できるスペースを、ぜひ実際に訪れていただきたい。

MOLTENI&C TOKYO|モルテーニ 東京
営業時間|11:00~19:00
定休日|水曜・祝日
東京都港区南青山6-4-6 Almost Blue B棟 1F
Tel. 03-3400-3322
http://www.molteni.jp/

パトリシア・ウルキオラ「モルテーニ 東京」を語る

MOLTENI&C TOKYO|モルテーニ 東京
パトリシア・ウルキオラが手がける「Molteni&C」の旗艦店

イタリア家具の最高峰と日本文化の融合(2)

詩情あふれる多彩な表現力、女性らしい柔らかな美しさと大胆な発想力で、多くの人を魅了するパトリシア・ウルキオラ。スペインに生まれ、建築とデザインを学んだミラノを拠点に活躍する彼女のデザインには、日本をモチーフにしたものも多く、大の親日家として知られている。「モルテーニ 東京」のオープンにあわせて来日したパトリシアに話を聞いた。

English

ディテールを大切にする日本のものづくりに惹かれて

「日本にはもう何度も訪れていて、個人的に南青山はとても好きなエリアです。それは、最先端のファッションブランドが顔をそろえる街だから、というわけではなく、大きなショップの隣にシャツを縫製している小さい工房のようなショップがあったりする。そういう2つのリアリティが混在しているところが面白いと思うのです。

そのなかでも『モルテーニ 東京』の立地はすばらしいですね。都市にありながら、近接して根津美術館の竹林や庭の緑がある。そんなところから着想を得て、内装のメインエレメントにしたのはウッドゥン ウォールという木の壁です。京都の光明院にある丸窓から見た日本庭園がとても美しかったので、それをモチーフにしたものですが、この壁越しに、モルテーニの世界と根津美術館の緑がつながって見えるところがとても気に入っています。まるでこのショップの“シークレットガーデン”みたいでしょう?

Molteni&C Is Coming to Town!

杉の格子に丸窓のモチーフを組み込んだ“木の壁”は、見る角度によって表情を変える繊細なデザイン

吹き抜けの壁は全面ガラスになっていますが、地階の下側はあえてダークミラーにしています。外を通るクルマや人が行き交う都会の風景は視界から消しているので、まるで静かな庭のなかにいるように感じられる。それと同時に、日本の都市という外部環境とモルテーニのイタリア的な室内環境との境界線、フィルターのような役割もあります。そして高さ7メートルの壁は、1階と地階の空間をひとつにつなぐ背景の役割も果たしています。1階の入口から入ったお客様に『どうぞ下の階もご覧下さい』と視覚的に導いて、もてなすイメージを出したかったんです」

彼女がはじめて日本を訪れたのは20年以上前のこと。ショップのディスプレイをサポートする仕事で、まだ学生のころだったという。そのときにはじめて日本の文化に触れて以来、講演や京都でのエキシビション、青山のスパイラルホールでのインスタレーションなど、数々のプロジェクトで来日を重ねている。

「東京、大阪、京都、札幌……。毎回、街の雰囲気の違いや日本文化の奥深さを知り、訪れるたびにあたらしい日本の要素が自分のなかに入ってくるような気がしています。日本のものづくりや文化はディテールを大切にするところが好き。

たとえば、いま私がお茶を飲んでいる和紙の紙コップには、とても日本らしいデザインのバランスがあります。テクスチャーが柔らかくて、口に触れても優しい。これがアメリカだったら、ただのプラスチックカップになっているかもしれないですよね。そんなに高くないモノだけど、自然素材を使ったこだわりがある。私にも近い感覚があって、日本の文化からデザインのインスピレーションを得ることはたくさんあります」

Molteni&C Is Coming to Town!

復刻されたジオ・ポンティのパーソナルチェアは、パトリシアもお気に入りの一脚

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ショップの1階は自然光に満ちた明るいリビング・ダイニングのシーン構成。システム収納が空間を立体的に演出する

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地下1階に展示されたウォークインクローゼットは、内部までこだわり抜いたディテール美が光る一点

日本における、モルテーニの世界観をカタチに

今回の内装デザインのプロジェクトは、モルテーニからの熱いラブコールにパトリシアが応える形でスタートした。製造責任者のジョバンニ・モルテーニは、日本ではじめてのフラッグシップを手がけるのに、日本好きで和のセンシティビティを理解しているパトリシア以外の人選は考えられなかったと明かす。そして、モルテーニとの付き合いも深い彼女に対してのリクエストは、“日本における、モルテーニの世界観”をつくること。

「日本でモルテーニのショップをつくるなら、イタリアのライフスタイルを見せるだけの場ではなく、日本という場所がもつエモーション(情感)の部分を必ず取り入れたいと思いました。ウッドゥン ウォールは、それを表現するエレメントになったと思います。壁のテクスチャーや床の色も、モルテーニのコーポレートカラーであるアントラチーテという濃いグレーを基調にして、杉の木の色との調和を考えています。

そういう意味では、和風建築の色調に似ているかもしれませんね。寝室のワードローブと階段に使ったキャラメル色はとてもあたたかい印象で、いま一番気に入っている色。実は、このショップのオープニングレセプションにジャスパー・モリソンが来てくれて、『僕もいま進行中のプロジェクトで、こんなキャラメル色を使っているんだ!』と言っていたんです。偶然にも、友人でもある彼とおなじ色を使っていることを嬉しく思いました」

こうした和の要素に対して、間仕切り壁「ジオ・ポンティ スクリーン」は、イタリアの歴史的な文化の要素をくわえたもの。このスクリーンを採用したのは「モルテーニ 東京」がはじめて。これから各国のモルテーニのショップに順次展開していく予定だという。

「ジオ・ポンティはイタリアのモダンデザインを牽引したエンジンのような存在で、私も心から尊敬しています。このスクリーンは、彼がデザインに使っていた幾何学的な要素をモチーフにした私なりのファンタジー。少し遊び心もくわえて、可動式の間仕切り壁をつくりました。

イタリアと日本、モダンとクラシックが美しいバランスで調和しながらジョイントする。そんな空間をイメージしています」

Molteni&C Is Coming to Town!

幾何学模様をあしらったガラス製の間仕切り壁「ジオ・ポンティ スクリーン」

空間にさまざまな要素を織り込みながら、ブランドの世界観を表現したパトリシア。店内には彼女がこれまでにデザインした収納、テーブル、チェアなどのプロダクトもコーディネートされている。

「モルテーニとは20年近く前からの付き合い。プロダクトデザインのプロジェクトでも、その開発力と技術力を信頼しているからこそ、着想できることがたくさんあります。2004年に発表したテーブル『ダイヤモンド』は、厚さ1ミリのアルミ板を折り曲げて脚部を作るのですが、私は折り紙で形をつくって『これを作りたい』ってそのまま見せたんです。もちろんそれを実現する技術はなかったのですが、モルテーニとコラボレーションすることで、折り紙のフィロソフィーを守りながら別の形で製品化することができました。これはすべてのクライアントとできることではないですね。すべてのプロジェクトは、2つの手ではなくて4つの手でつくるものだと考えています。2つはデザイナーのアイデア、2つはクライアントの技術力と開発力。それが必要だし、信頼しあえることがとても大切なんです」

長きにわたるモルテーニと、パトリシアの信頼関係があって完成したショップは、和の感性を絶妙にジョイントしたイタリアのモダンを体感できる空間だ。ここを訪れ、モルテーニの家具にはじめて触れる人の心にも、その世界観がつくるライフスタイルの寛ぎがすっと染み入るような、特別な場所になっている。

Molteni&C Is Coming to Town!

Patricia Urquiola|パトリシア・ウルキオラ
スペイン・オヴィエド生まれ。マドリード工科大学で建築を学んだあと、イタリアにわたりミラノ工科大学でアッキーレ・カスティリオーニに師事。1989年に卒業後は、デパドヴァ社の製品開発やマジストレッティとのコラボレーションほか、多くのプロジェクトに携わる。2001年に自身のスタジオを開設。感性豊かな表現と建築家としての多彩な経験を生かして、インテリア、ショールーム、レストラン、ホテルプロジェクトなど、さまざまな分野で国際的に評価を受けている。MoMAパーマネントコレクションをはじめ、各国の美術館に作品が展示されている。

MOLTENI&C TOKYO|モルテーニ 東京
営業時間|11:00~19:00
定休日|水曜・祝日
東京都港区南青山6-4-6 Almost Blue B棟 1F
Tel. 03-3400-3322
http://www.molteni.jp/

           
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