イル ミーチョ、深谷秀隆が志す「世界一美しい靴」|il micio

il micio|日本人が靴の本場で表現する、モノづくりの極み

FASHION FEATURES

il micio|イル ミーチョ

イタリア・フィレンツェで活動するシューデザイナー、深谷秀隆

日本人が靴の本場で表現する、モノづくりの極み

世界一美しい靴を作ること。シューデザイナーの深谷秀隆氏は、10代のころからその夢を胸に抱き、靴づくりをつづけてきた。彼は、「il micio(イル ミーチョ)」を立ち上げ、2005年に日本人としてはじめて、イタリアでビスポークのシューズメゾンを設立。以降、美術作品と言っても過言ではない独創的な靴の数かずを生み出している。そのクリエイションの源泉に迫る。

Text by IWANAGA Morito(OPENERS)

誰にも真似できない靴づくりを探求する

芸術の都、イタリア・フィレンツェ。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ・ブオナローティら、後に天才と称される芸術家を生んだこの街には、いまでも手仕事の伝統工芸が息づき、モノづくりの精神に満たされている。

ilmicio|イルミーチョ

シューデザイナーの深谷秀隆氏は、1999年にフィレンツェへ渡り、自身の念願を叶えるべく、靴づくりをはじめた。立ち上げたブランドの名前は「il micio(イル ミーチョ)」。イタリア語で「子猫」を意味するこの言葉には、気高さを備え、誰にも媚びず、自由な精神をもつ猫のように、自らの靴づくりを追求したいという思いが込められている。

誰にも真似できない、自分にしかできない靴づくりがしたい。その強い意志のもと、彼は2005年に日本人では初となるイタリアでのビスポークシューズメゾンをオープンさせた。

イル ミーチョの靴は完全オーダーメイドで製作される。採寸から仕上げまで、すべての工程を深谷氏が手がけるのだ。顧客ひとりひとりに合わせて作られるその靴は、足に吸い付くようなフィット感、しなやかなライン、エレガントなデザインが宿り、靴を履いている当人のみならず、それを目にしたものすら魅了する。

深谷氏がこれまでの作品のなかから、2足の靴を紹介する。まず、オープン当初から存在する “ロシアンレインディア” と呼ばれる希少な革を使用したウイングチップのモデル。いまでは失われた帝政ロシア時代のなめしの技術を使ったトナカイの革は、ほぼ入手が不可能な素材。加工が困難だというこの素材を使用した一足は、野趣を残した豪奢な表情に、美しく成形されたフォルムが相まって、圧倒的な存在感をはなっている。

ilmicio|イルミーチョ
ilmicio|イルミーチョ

2足目は、まるで高級木材を切り出したようなルックスのホールカットシューズ。これは牛革に、着物の『有松絞』の技術をほどこしたものを素材としている。愛知県出身の深谷氏が、地元の伝統工芸であるこの技術を、職人に依頼して素材に加工させた。なかでもこの絞りの技法は『嵐絞り』といい、嵐の雨の激しさを表現しているという。素材そのものの美しさを生かすため、デザインを最小限に抑えることで、外形のラインの美しさも際立っている。

10周年を記念しておこなわれたアートピースの展示会

深谷氏が、日本人としてはじめてヨーロッパでビスポークの店を構えて、2015年1月で10周年となった。これを記念し自身のモノ作りの集大成を発表するエキシビションを、フィレンツェのマリーノ•マリーニ美術館で開催した。

誰もやっていない、おもしろいことをやる。その思いのもと、彼が考えたのは、靴の彫刻の展示。木型を削って形づくる靴作りは彫刻に通ずるものがある。このアイデアを予てから親しかった同美術館のディレクター、アルベルト氏に相談したところ、賛同を得て、今回の企画が実現したという。

ilmicio|イルミーチョ
ilmicio|イルミーチョ

テーマは “誕生” “ひねくれ者” や “叫び” など人間のもつさまざまな感情を靴で表現することだ。木材やブロンズにたいしておこなう彫刻の技術のみならず、普段の靴づくりから得たものを活かした作品。それは、私たちの既成概念を見事に打ち壊してくれる、クリエイティビティに満ちていた。

職人としてアーティストとして、自己の世界観を追求しつづける深谷氏は、フィレンツェという地で進化をつづける。「世界一美しい靴を作ること、それはデザイン、バランス、それを支える確かな技術、そして何よりもそれを履く人に大きなよろこびをもたらす靴」と語る深谷氏。イル ミーチョの靴を履いたとき、きっと、その言葉の意味を実感できるはずだ。

il micio di Fukaya Hidetaka
Via de’Federighi 6R, 50123 Firenze Italia
Tel. +39 (0)55-212-295
info@ilmicio.com

深谷秀隆|FUKAYA Hidetaka
1974年、愛知県東海市に生まれ。名古屋モード学園に入学し、在学中より名古屋のシューズメーカー、松田繁太郎氏に師事し、靴作りを学ぶ。同学園を首席で卒業し「クリエイター・オブ・ザ・イヤー」を受賞。その後上京し「Kensho Abe」のデザイナーを務める。98年、靴作りを学ぶためイタリアに渡り、シエナにてアレッサンドロ・ステッラ氏に師事。99年、フィレンツェに移り、ブランド「イル ミーチョ」を立ち上げる。2003年よりフィレンツェの老舗セレクトショップ「タイユアタイ」のシューズデザインを手がける。05年に、自らのショップをフィレンツェにオープン。