新作「ラナ」にみるジャーマンプロダクトの魅力|STOWA

STOWA|新作「ラナ」にみるジャーマンプロダクトの魅力

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STOWA|ストーヴァ

デザイン対談|建築家 谷尻 誠 × ライター 柴田 充

新作「ラナ」にみるジャーマンプロダクトの魅力(2)

すべてのインダストリアルデザインは、バウハウスが原点

柴田 谷尻さんの発想ってホントおもしろい。建築というのが本来、生活という抽象的なものを具象化することだからでしょうか。とくに心がけていることは?

谷尻 いい違和感を設計することだと思います。「思い通りにならない思い通り」とか。デザインするというのは思い通りであり、想像したとおりのかたちには、人はあまり感動しません。でもいろいろな人の思考やノイズも含めて、そこに化学反応が起きてひとつのかたちになった時は感動するんですね。自分が考えているはずでも、そうではない道を辿ってできあがったものには。

モノづくりというのはひとりの思考に閉じないようにして、異なる意見やノイズを入れながら、いいものにたどり着く方法論のように思います。

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見た目の重厚感やシャープな印象に対し、腕に付けてみると軽く装着感も優れる。この意外感も魅力、と谷尻氏はいう

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「ラナ」ウォッチはデザインばかりでなく、「ウッドペッカーレギュレーター」と呼ばれる独自の緩急針を採用する

柴田 「ラナ」ウォッチのデザインを少しみてみましょう。文字盤はシンプルな三針、ドットインデックスはサイズを変えることで流れる時間を表現しています。なんといっても特徴的なのはケースのフォルムです。ラウンドケースの両サイドを大胆にカットし、直線をくわえていますが、ラグやストラップに連なることで違和感を与えません。

ストーヴァのオーナーであり、エスリンガー氏とパートナーシップを組んだ時計師のヨルク・シャウアー氏はもともと彫金師であり、造形的な完成度もその技術ノウハウから生まれています。

谷尻 そうなんですか。彫金という伝統技術のバックボーンがあったから、モダンなデザインやテクノロジーを内蔵していてもどこかアナログ感が伝わってきます。そこに「あたらし古い」という価値が生まれているのですね。

柴田 おもしろいのはシャウアー氏とエスリンガー氏は親子ほども年が違いますが、同郷でシャウアー氏の父がかつてエスリンガー氏にデザインを依頼したこともあるとか。本人もアップルファンで、フロッグデザインの近くに通学し、時計づくりをはじめた頃からエスリンガー氏に手紙を出して時計づくりの意見を聞いたそうです。

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谷尻 つくり手同士が世代を超えて、しかも時間をかけて関係が生まれているというのはいいですね。しかも手紙を出すなんてアナログなところも。たしかに「ラナ」ウォッチは手にしていると金属だけど温かい。やわらかいシャープさとでもいうか、ツンデレデザインでしょう(笑)。矛盾という魅力であり、そのコントラストに人は惹かれます。

柴田 でもエスリンガー氏のアイディアを形にするにはかなり苦労があったとシャウアー氏はいってました。時計はウェアラブルなので装着感にもこだわらなければいけない。そこでケースは2ピースにして、手首に触れる部分と表面のベゼルは別体にしています。フローティングディスクと呼ぶそうですが、たしかに軽快感が出た。これはデザインと製造を両立するなかで生まれた魅力でしょうね。ちなみに建築では設計とクライアントの意向の折り合いはどうつけているんですか。

谷尻 結局プロがプロになった瞬間が一番まずいんでしょうね。自分が正しいと思ってしまい、そこでユーザビリティが見えなくなってしまう。だから依頼主のユーザーとしてのコメントに耳を澄ませて、その言葉のなかでももっとも本質的なことを捕まえて具現化しなければいけないと思っています。

柴田 でも時計はまだつくり手が自分の個性や主張を表現しているプロダクトだと思いますよ。おもしろいのは10年ほど前にはじめてシャウアーさんと会った時、ドイツ人で金属加工出身というから、イカつい人物を想像していたのですが、会ってみるとすごく穏やかで、握手すると手がとてもやわらかい。道理でシャウアーさんの時計にはどこか温もりがあって、その虜になるとなかなか離れられないという理由がわかりました。

谷尻 そうか。人となりが出るのですね。僕も次のステージに行くためにはもっとわがままをいわなければいけないかも(笑)。

柴田 ストーヴァというブランドは80年近い歴史がありますが、休眠状態だったのをシャウアーさんが8年の準備期間を経て復興しました。これまではアーカイブを主体にしたラインナップでしたが、エスリンガー氏とのパートナーシップを皮切りに、デザインというファクターから、よりエモーショナルなブランドに変わりつつあります。谷尻さんはウォッチデザインに興味はありますか?

谷尻 機会があればやりたいですね。でもひねくれ者なので、そもそも時計ってなんなんだろうというところから考えはじめるでしょう。世の中が想像しているもののかたちに対して、本来の目的や機能を掘り下げて考えると、いままでとはまったく違うかたちが生まれる可能性があります。最終的には時計の姿をしているけれど、違うものとかを確信犯的にやってしまうかも。

Jörg Schauer|ヨルク・シャウアー
1968年生まれ。ドイツのフォルツハイムの学校で彫金師の専門教育を受け、宝飾加工と時計組み立ての技術を習得。その後、27歳で自らの名を冠した時計ブランド「シャウアー」を設立。2004年に「ストーヴァ」を買収。現在に至る。
Hartmut Esslingen|ハルトムット・エスリンガー
1944年生まれ。フロッグデザイン創始者。1980年代から90年代初頭にかけて初期のアップル製品のデザイン「スノーホワイトプロジェクト」を支えたプロダクトデザイナーのひとり。そのほかソニー、ルフトハンザ、ルイ・ヴィトンなど多くの企業のプロダクトデザインに貢献。
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rana(ラナ)
ケース|ステンレススチール
サイズ|H43×W37mm
ムーブメント|自動巻きムーブメント(Cal.ETA-2824、クロノメーター認定)
パワーリザーブ|40時間
ストラップ|ラバー
防水性|10気圧
価格|62万6400円

TiCTAC 恵比寿プレスルーム
Tel. 03-3449-8462
http:www//tictac-web.com/german_watch_2015/

谷尻 誠|TANIJIRI Makoto
建築家。1974年広島生まれ。SUPPOSE DESIGN OFFICE 代表。94年穴吹デザイン専門学校卒業後、設計事務所勤務を経て、2000年に建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE。共同代表の吉田愛とともに、広島・東京の2カ所を拠点とし、住宅、商業空間、インスタレーションなど、国内外問わず多くのプロジェクトが進行中。現在、穴吹デザイン専門学、広島女学院大学、武蔵野美術大学、昭和女子大学で講師も勤める。

柴田 充|SHIBATA Mitsuru
男性ファッション誌やライフスタイル誌などを中心に活躍中の敏腕ライター。クルマ、ファッション、腕時計、音楽など、あらゆる男性の嗜好品に精通。製造現場まで足を運び、勢力的に取材。モノに関して深い造詣をもつ。

vol.1|新作「ラナ」開発秘話インタビュー記事を見る