柳本浩市|第18回 熊谷彰博氏(ALEKOLE)に「プロダクト発想」をきく(前編)
Design
2015年5月15日

柳本浩市|第18回 熊谷彰博氏(ALEKOLE)に「プロダクト発想」をきく(前編)

第18回 熊谷彰博氏(ALEKOLE)に 「プロダクト発想」 をきく(前編) 1

プロダクトデザイナーを迎えての対談企画、3人目のゲストは熊谷彰博さんです。オウプナーズでも商品発表などでたびたび登場し、若手でもとくにがんばっているデザイナーです。この世代のデザイナーのなかでもとくに会う機会が多い熊谷さんですが、実際彼のプライベートな部分はあまり聞いたことがないので、そのあたりを掘り下げてみたいと思います。

Text by 柳本浩市

ひとにきちんと伝えるために、グラフィックデザインに力を入れた

柳本 僕のオウプナーズでの連載「How to see design」でお話をうかがった寺山紀彦さんと海山俊亮さんは、2000年以降の「droog design」に影響を受けているんですね。「droog design」(1993年に設立された、オランダ発のデザイン集団。リチャード・ハッテン、マルセル・ワンダース、ヘラ・ヨンゲリウスらオランダを代表するプロダクトデザイナーを輩出し、その後、ダッチデザインシーンを牽引してきた)との出合いによって、デザイナーになるという自覚が芽生えたそうです。まずは彼らと同世代でもある熊谷さんが、デザイナーとしてなにに影響されたのか、教えていただけますか?

熊谷 僕の場合は「droog design」は知ってはいたものの、とくに影響を受けたというのはないですね。インパクトを与えてくれたクリエイターは……「ora-ito(オラ・イト)」(2000年ごろから企業の商品や広告を勝手につくり、ウェブ上で発表。ヴァーチャルなデザインを実際のプロジェクトへと進化させ、大きな話題を呼んだ。個人のプロジェクトではじまった「ora-ito」であるが、現在はデザインオフィスへと成長。パリに拠点を構える)です。「ora-ito」が企業のデザインを勝手にして、それをウェブで公開していたころですね。当時はリアルタイムでずっと追っていました。こういうことができることを世の中に知らしめながら、それが仕事として成立するというのに衝撃を受けましたね。

柳本 なるほど。たしかに熊谷さんは生粋のプロダクトデザイナーではないですよね。どちらかというとグラフィックのアプローチが強い。

熊谷 学校では建築やインテリアを学んでいたんですが、プレゼンテーションするときに、ボードや資料が必要になってきて、ひとにきちんと伝えるためにと、グラフィックデザインに力を入れるようになりました。そうしていくうちに、グラフィックの世界にも興味を惹かれていきましたね。仕事の量も絶対数が多いですし(笑)。

柳本 「コンペに勝つ」という実践的なスキルを求めていったら、結果としてグラフィックデザインの仕事をしていたと。その後、再び立体へのアプローチに変化していったのには、意識の変化があったのですか?

熊谷 当時は完全なグラフィックデザインというわけでもなかったんですが、イニシャルコストを考えるとグラフィックデザインであれば、まだ僕自身のクリエイションができたので。その後、体力がついたということもあり、2次元から3次元へとシフトしていったといった感じです。柳本 これまで熊谷さんと仕事をさせていただいて感じたことなんですが、じつにクライアント慣れしていますよね。コンセプチャルにプロセスを考えて、クライアントときちんと話しながら折り合いをしっかりつけていくタイプかと。コミュニケーション能力がとても長けていると思います。若いながらも大企業と仕事しているし。

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第18回 熊谷彰博氏(ALEKOLE)に 「プロダクト発想」 をきく(前編) 2

柳本 2008年には「DESIGN TIDE」にて、オリンパス社のカメラバッグ(CBG-2)を発表しましたが、デザインすることになった経緯をお聞かせ願いますか?

熊谷 ちょうどその1年前の「DESIGN TIDE 2007」に参加したときに、僕が展示していた会場のすぐ近くで、オリンパス社のカメラプロモーションの企画展がありました。そのときにたまたま遊びに行きまして。そこでのちのカメラバッグの担当者となる方に出合いまして。その後、オリンパスの周辺アクセサリーをデザインする企画にて「いいカメラバッグがなくて」という話から、カメラバッグを提案した次第です。本当に偶然が偶然を呼んで……立ち話から。

「OLYMPUS CAMERA BAG / CBG-2」

柳本 それも熊谷さんのコミュニケーション能力の賜物でしょう。偶然をチャンスに変えられるって。「OLYMPUS CAMERA BAG / CBG-2」ですが、年齢層が高めの方にも評判がいいそうですね。

熊谷 「シンプル、ユニセックス、カメラメーカーこその機能性」というお題がありました。そこでカメラを入れるバッグは帰宅した後にカメラを出す機会は少なく、そのまま保管していることに気づきました。そこで据え置きになる筒状のフォルムで、上からレンズも取り出せ、速写できるデザインになりました。年齢層が高い方にご好評いただいているのは、「飯盒(はんごう)を彷彿とさせる」というのもあるらしいです(笑)。

柳本 飯盒……(笑)。やはり写真(一眼レフなどでの撮影)を「趣味」にしている方は、機材の金額なども考えると年齢層は高くなりますよね。「アマチュア以上プロ以下」で写真に取り組んでいる方々にフォットしたんでしょうね。ところで「カーボン」をモチーフにしたアートよりの作品(SPACE DEBRIS)がありましたが、それについてもお聞かせいただけますか?

熊谷 カーボンのシートを扱う会社から、「端材でなにかできないか?」というお話をいただきました。カーボンといえど端材であれば品質保証はされたものではない。そこで軽くて引っ張りに強い特性を活かしたモビールをつくりました。現状ではサイズ感が定まらないのと、個人的にもっと素材に向き合いたいと思っています。

柳本 巨匠だと渡辺力さん、若い世代だと藤城成貴さんもですが、モビールをつくっていますよね。家具のような実用性もなく、また価格帯も安いというわけではない。熊谷さんがモビールへと意識が向いたきっかけはありますか?熊谷 たしかに機能があるわけでもなく、ただ吊るすだけ。ときに空間にとっては無駄かもしれません。でもその無駄感が魅力に思えてしまうんですね。僕の場合は、モビールは宇宙への憧れ。男の子が「スペース」的なものや、重力に解き放たれた感覚に惹かれているのと同じです。僕にとって宇宙は少し前まで怪しい存在でしたが、だんだんと身近に思うことが増えてきまして。モビールをつくったのは、そんな個人的な心境からですね。


「SPACE DEBRIS」

熊谷彰博|KUMAGAYA Akihiro
熊谷彰博|KUMAGAYA Akihiro

デザイナー。1984年東京生まれ。グラフィック/プロダクト/空間などのコンセプトメイキング/ディレクション/デザインに携わり、伝えることをつくる。

主な仕事にオリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」、KDDI iida LIFE STYLE PRODUCTS「Design Sheet」「EHON TRAY」など。グッドデザイン賞、DDA賞、SDA賞など受賞歴多数。

http://alekole.jp

次回は「熊谷さんがなぜ就職しないでデザイナーになったのか」、「コミュニケーション能力の原点はどこにあるのか」に迫ります。お楽しみに。

           
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