小さく暮らして豊かさを得る、米国発「タイニーハウス ムーブメント」(1)|SPECIAL REPORT

SPECIAL REPORT|米国発「タイニーハウス ムーブメント」とは

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SPECIAL REPORT
提唱者のディー・ウィリアムスに聞く、小さく暮らして豊かさを得る家

米国発「タイニーハウス ムーブメント」とは(1)

大きな家が当たり前の米国で、40平方メートル以下というコンパクトで移動が可能な「タイニーハウス」に移り住む人が増え、ひとつのムーブメントになっている。その可能性と暮らし方はどんなものなのだろうか。環境ジャーナリストの箕輪弥生さんが、日本で開催されたワークショップのために来日したディー・ウイリアムさんの話から探る。

Text by MINOWA Yayoi(環境ジャーナリスト)Photographs by BEN MATSUNAGA

家のために、何十年もローンに縛られるのが正解?

山中湖のほとりのキャンプ場で、車輪のついた小さな家を作っているグループがいる。年齢もさまざま、女性もいる。誰もが真剣な眼差しで作業をするものの、休憩時間は笑顔が絶えない。

彼らは、日本ではじめての「タイニーハウス」を作るワークショップへの参加者と、それを支えるサポートスタッフだ。

タイニーハウスとは、10~40平方メートルという超コンパクトなスペースに、キッチンやトイレ、ベットルームを完備し、トレーラーのシャーシに載っていて移動できるものがほとんどだ。造りはシンプルながらしっかりしていて、なかにはソーラーが装備されオフグリッド(独立型)で暮らせるものもある。自分ですべてセルフビルドすることもできるし、米国では完成品を購入することもできる。北米地域ではここ10年間で2000人を超える住まい手が生まれているという。

タイニーハウス|ワークショップ
タイニーハウス|ワークショップ

モノを手放して、外とつながり、豊かに暮らす

そして、この輪の中心にいるのが、このワークショップを主催した竹内友一さんだ。ツリーハウスビルダーでもある竹内さんは、全国でツリーハウスを作る仕事をしているなかで、どこにでも移動できて拠点になるような小さな家が欲しいと考えていた。そんなとき、プレゼンテーション番組『TED』で、ディー・ウィリアムスさんのタイニーハウスにかんする講演映像を観て、「これだ!」と感じたという。竹内さんが惹かれたのはそのコンパクトさだけでなく、ディーさんが語った「モノを手放して、外とつながり、豊かに暮らす」という提案だった。

米国では2009年のリーマン・ショックを経て、サブプライムローン問題が起き、多くのひとが家を失う事態が起きていた。そんななかで、大きな家を買って何十年もローンに縛られるのではなく、家を最小限にしても、自分が本当に大事だと思っていることに時間を使ったり、移動して自由に生きるといったことが大事なのではと気づくひとたちが現れた。そしてそのようなあたらしい暮らし方を実現するひとつの手段として“タイニーハウス”が広がっていったのだ。

竹内さんは、その後すぐに米国オレゴン州でおこなわれたディーさんのワークショップに参加し、タイニーハウスの可能性を実感したという。そして今年、日本ではじめてのタイニーハウスのワークショップを開催することになる。

自然災害の多い日本では、災害時の拠点としてどこにでも移動できるタイニーハウスは機動力が高い。また、とくに経済的に、若い世代でも手の届くタイニーハウスは暮らし方の選択肢が増えることになる。そんな日本ならでの可能性も模索しているという。

その竹内さんが、今回のワークショップのために招いたディーさんにタイニーハウスについて話を聞いた。

タイニーハウス|ワークショップ
タイニーハウス|ワークショップ

ダウンサイズして自分の生き方を変える

竹内友一(以下、竹内) どうしてタイニーハウスを建てようと思ったのでしょうか?

ディー・ウィリアムス(以下、ディー) タイニーハウスを作って引っ越すまでは、ポートランドの大きな3ベッドルームの家に住んでいたの。ほかのひととおなじように、家のために数千万円のローンを組んで建てて、実際にとても素敵な家だった。その家のことは大好きだったし、自分でいろいろと手直しもしたわ。家のことでそんなに不幸だと思ったこともなかった。ただ、ローンを支払うために仕事を辞められないという事実は恐ろしかった。そんなころ、心不全という病気で倒れ、病院のベッドで目を覚ましたとき、「私の人生はひとつしかない」ってことに気づいたの。借金を返したり、庭の芝を刈ったりするより、「ディー・ウィリアムスとして生きる」、つまり、自分らしくあることが大切なんだと実感したの。もっと楽しく、クリエイティブなひとりの人間としての世界を表現したいんだと。

竹内  暮らしはどのように変わりましたか?

ディー  うーん、たくさんのことが変化したわ。たとえば、大きい家からダウンサイズして、空間が75パーセント小さくなったの。だから自動的にたくさんの物を処分せざるをえなかった。いま何が必要で、何が欲しいのか、いらないものは何か、よく考え、違いを認識することができる素晴らしい経験だった。死ぬときに腕の中に抱えておきたいのは大切な仲間たちだけだって思ったから。

竹内  家を買うのではなく、セルフビルドのメリットは?

ディー 本来、人間はみんなビルダーだと思っているの。最近まで人びとは自然とともに暮らし、どのようにシェルターをつくり、居心地よくするのか知っていたわ。これは人間のDNAに組み込まれているはず。もちろん、家を建てるあいだはいろいろな課題と向き合うと思う。でもそのチャレンジを完遂したあとは、間違いなく大きく、強く、能力のある人間になっている。本当の自分自身を発見するの。自分たちの家づくりを通じて、そんな経験をしている人たちに会うのがうれしいわ。

竹内  タイニーハウスに住むことで地域とのつながりに変化は?

ディー  キッチンの棚も小さいので、食料品店に頻繁に行くことになって、そこが生活の一部になっていく。それはある意味お互いにの信頼関係で成り立っていて、いまは与え合う感覚が前よりもっと深く浸透している感じね。巨大な冷蔵庫やキッチンを手放した代わりに、地域の一員として暮らすことを決意したの。それがタイニーハウスに暮らすことの素晴らしさのひとつかもしれない。大家族の一員になれるという。

竹内  持続可能な暮らしのためのアイテムは何でしょう?

ディー  もし、独立したオフグリッドな暮らしを求めているのなら、電気を自給できるってことは大切ね。もちろん使用量をミニマイズすることからはじめるのだけど、太陽光発電は欲しい。雨水タンクとろ過装置、そしてコンポストトイレもあるといいかな。米国では、料理と暖房にはプロパンガスを使っているひとが多いけれど、小さな薪ストーブがあれば理想的。薪が手に入るなら、それ以上の選択肢はないと思うよ。

竹内  日本でタイニーハウスに興味がある人たちにメッセージを

ディー  自分の人生を生きる(つくりあげる)ことをあきらめないで欲しいということ。自分の思い描く暮らしをしていないことに言い訳をしないこと。実際にやってみるということが一番大切だと思う。前に進む、いろいろ考えてじっとしているんじゃなくて、ダメかもしれないけどやってみる。

私自身も、この家が本当に完成するのかとか不安もいっぱいあったけれど、それでも前に進めたの。タイニーハウスで暮らすことでこんな楽しい人生になるとは夢にも思っていなかったわ。生き方を変えたいと思うのであれば、その内なる声はいつも正しいんだと思う。たった1回の自分の人生をどうすべきなのか、大切にしてほしいの。

次回は、タイニーハウスワークショップに参加した人たちの声から日本での可能性を探る

※2014年12月21日(日)にタイニーハウスオープンハウス実施予定
場所|山中湖PICCA
詳しくは「Tree Heads & Co.」

http://simplife.jp/

竹内友一|TAKEUCHI Yuichi
Tree Heads & Co.代表。タイニーハウスビルダー。 20代はイギリスやオランダのクリエイターの下で便利屋家業。帰国後、ひとと自然をつなぐ体験プログラムの制作に専念。2008年ごろ小屋の制作開始。ツリーハウスやタイニーハウスの制作をしながら全国各地を旅している。

箕輪弥生|MINOWA Yayoi
環境ライター・NPO法人「そらべあ基金」理事。環境関連の記事の執筆や企画、東京・谷中近くのグリーンなカフェ「フロマエcafé&ギャラリー」(http://furomae.jimdo.com/)を営むなど、オーガニックな食や自然素材、自然エネルギーなどを啓蒙・実践する。著書に『節電・省エネの知恵123』『環境生活のススメ』(飛鳥新社)ほか。

http://gogreen.petit.cc/

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箕輪弥生