三原康裕│日本モノづくり 第5回 TASAKIのジュエリー(3)
Watch & Jewelry
2015年7月28日

三原康裕│日本モノづくり 第5回 TASAKIのジュエリー(3)

MIHARAYASUHIRO × HUSAM × TASAKI

第5回 TASAKIのジュエリー(3)

ファッションデザイナー三原康裕さんが、日本の誇る工場や職人を訪ね、日本でしかつくれない新しいモノを生み出す画期的な連載企画「MEANING MADE IN JAPAN MIHARAYASUHIRO」、通称MMM。今回登場するのは総合宝飾メーカー「TASAKI」。2010年春夏コレクションで発表し高い評価を得た、「MIHARA YASYHIRO×Husam el Odeh」×TASAKI」のメンズジュエリーでコラボレーションした日本宝飾界の重鎮である。まず今回は、三原さんが思い描くメンズジュエリーをつくるために「TASAKI」を選んだ理由、そこにかける熱き思いなどをお伺いした。

文=細村剛太郎写真=溝部 薫(HAWK EYE WORKS)

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『TASAKI』の原点、真珠に魅せられて

創業者である田崎俊作が、養殖真珠加工販売をはじめたのが1954年(昭和29年)。1959年に会社組織に。総合宝飾メーカーへと転生した現在でも日本屈指の真珠生産、加工販売会社である。オウプナーズ一行は真珠加工課真珠担当の追風知公さんの先導で、真珠部門の見学を開始した。

真珠を大きくわけるとマベ真珠、アコヤ真珠、白蝶真珠、黒真珠、淡水真珠と貝の種類に分かれ、それぞれが養殖方法も違う。主にマベ真珠、アコヤ真珠が日本で養殖されている。アコヤの場合は中国、ベトナムでも養殖は盛んだが、『TASAKI』では日本産がほとんど。白蝶真珠の場合は、南太平洋、インドネシア、フィリピン、黒蝶真珠の場合はトンガが少量、ほとんどがタヒチ産。淡水真珠は日本でも霞ヶ浦で一部やっているが、ほとんど中国産。

アコヤ、黒蝶、白蝶は貝の内蔵の中に核を入れ、真珠層を分泌させて真珠を形成する方法。真珠層自体が貝殻成分を生成する外套膜、いわゆるヒモというわれる部分にあるDNAが真珠の色を決める最大の要因となっている。非常に綺麗な色を放つが、貝の外套膜が真珠に反映すると考えればいい。つまり真珠層のレインボウカラーが綺麗なほど、いい真珠ができる。アコヤ真珠、黒蝶真珠、南洋真珠の場合は、ここの外套膜を1~2mm小さく切り、核と呼ばれるものを真珠の内部に入れてそのDNAを入れる。

マベ真珠は奄美養殖場で全生産量のほとんどをつくっている。マベ真珠の場合は、ほかの種類とはちょっとちがって、貝殻に核を直接貼りつけて真珠層を盛り上げる方法でつくる。

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真円真珠の場合、30mmといった大きなものは、とても希少で値段も張る。基本的に、業界では真円真珠で、均一に安定して真珠層を巻くものが良しとされる。色のコントロールは難しいが、サイズや形は融通が利く。さまざまな形があり、ドロップ型やでこぼこしたバロック真珠と呼ばれるものもある。

真円尊重の業界ではクズ珠とされるものも、大きく特殊で美しいものは一品ものとして使うこともあるらしい。白蝶真珠なら白い珠が良品であり、貴重な黒蝶真珠なら孔雀の羽色とされるピーコックカラーが、さらに最高色とされている。

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さらに真珠選定の現場に進むと、TASAKIの高いクオリティーの真珠は、下の写真のように真珠の選定を職人の眼と手でおこなっていた。形、色、照り、サイズ、キズなどで分けていく。キズの具合でも5〜6段階あるという。すべて入れると何百種になるというほど。選定された真珠は、ネックレスのように姿を変える。真珠に開けられた0.7mmの穴に、強度のあるポリエチレンの2本の糸が通され、ひとつひとつナッツと呼ばれる結び目で固定される。素通しするとくくり目がしなやかにならない。結び目を入れることにより、いろいろなタイプの結びをつくれるという。これだと切れたりしたときも、バラバラにならず、簡単そうに見えて高度で緻密な熟練を要する業である。

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「職人さんがピンセットで真珠をはねていくのですが、手の動きだけでも凄い。それで繋ぐとき中心が一番綺麗で大きめなものを使い、“自然に見えるように端に向かい小さな珠になります”といわれ『そうですね』と応えましたが、じつは区別がつかなかった(笑)。そのくらいの精巧さなんです」と三原さん。

選別の仕事はだいたい5年ぐらいの研鑽を積めばできるようになるという。三原さんはこんな質問を職人に投げかけた。

「見慣れてくるとちょっとの違いがわかるようになるのですか?」するとこう答えた。
「ええ、それが“仕事”ですから」。

特化した専門の能力を極限まで極める高い意識。こんな職人が『TASAKI』の現場では、組織的に自分の仕事を無言で淡々と日々こなしているのだ。

「そこまで神経がなれることは凄いことです。まさに職人だなと思います。いろいろ見て、ジュエリーとは高価な宝石や貴金属を使うだけでないことがわかりました。職人の技や研ぎ澄まされた勘でさらなる美しさを抱き、使う価値のあるものです」。

人を魅了する『TASAKI』真珠の美しさは、ものづくりの総合力の賜物なのである。もちろん三原さんは、今回の“メンズジュエリー”にも真珠が配されたモデルをつくっている。

次回は驚きの展開が待っている! ヒントは祐真朋樹さん。こうご期待!

           
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