フランス シャンパーニュ紀行|Cahpter 2|通が好むスタイルにうちのめされて
LOUNGE / EAT
2015年3月23日

フランス シャンパーニュ紀行|Cahpter 2|通が好むスタイルにうちのめされて

Jacquesson|ジャクソン

通が好むスタイルにうちのめされて

シャンパーニュを飲むという快楽的な行為の最中に、「この泡にどんな哲学が込められているか?」などとストイックな考えは浮かばないものだ。浮かんだとしても口にするのは野暮というもの。もし、それほどのシャンパーニュに出会ってしまったら、快楽主義たるフランス人がするように「マニフィック!(スバラシイ)」と、それも抑えた声で目を見開いて言うしかない。言葉もない味わい、なぜこんな味になるのか? 一体どんなコンセプトで? など、ものの見事に想像を超えてしまうジャクソンのシャンパーニュ。最初のひと口で、「ジャクソン哲学」ともいえるちょっと出会えないような独創的なスタイルにうちのめされてしまうのだ。事実、試飲では「美味しいんだけど何て言ったらいいかわからないほど強烈なインパクト」という初体験の静かな空気で一杯、やや緊張してしまったほどである。

Photo&Cooperation by Kenichi SaitoEdit&Text by Yumiko Akita

五大シャンパーニュのひとつに並ぶ実力

今や、クリュッグ、ボランジェと並んでシャンパーニュ三指と呼ばれるジャクソンは、エグリ・ヴーリエ、ジャック・セロス、サロンと共に賞賛されるメゾンである。1798年にジャクソン家により創業、ナポレオンの結婚式でも振る舞われ、メダイユ・ドールを授与されるなど時の権力者に愛されたこのメゾンは、シャンパーニュのミュズレ(王冠)やキャプシュル(キャップシール)を始めて用いたことでも知られている。あのクリュッグの創業者、ヨーゼフ・クリュッグが創業前に醸造技術を学んだのもジャクソンだ。1800年代に経営上の問題で縮小、売却などを経た後、1974年に現当主ジャン・エルヴェ氏の父が倉を拡大し、その後1988年に父から現当主が譲り受けて今に至る。

327_04_jaquesson
327_08_jaquesson

こだわりとチャレンジはとどまることなく

ジャン・エルヴェ氏の類稀なる探究心とテロワールの追求、「父のシャンパーニュづくりを超えようとした」と語る氏は、自分の代になってから多くのチャレンジを行い、「ぶどう畑、栽培、醸造、瓶詰めなどすべてを変えました」と言う。

まず畑はリュット・レゾネ(減農薬栽培)で、除草剤は使用せず、畝と畝の間に草をわざと生やし、ぶどうの樹が草と競合して養分を吸収するよう、特定の種を蒔いて選択的に草を生やしている。ぶどうは30haのうち自社畑が20haで自社畑の内訳は、アイ、アヴィズ、オワリーの3つのグラン・クリュ、ディジィ、オヴィレ、マロイユ・シュル・アイのプルミエ・クリュ。契約栽培農家も自社畑の近所にあるため生育管理も行き届くという。グラン・クリュとプルミエ・クリュの選りすぐりのぶどうを丁寧に圧搾し、ぶどう果汁は一番搾りのよい部分だけを使用。ほかは捨てワインとして大樽の風味を消す為に使用したり、ネゴシアンに売ってしまう。9割を樽で1割をステンレスで発酵。などなど数え上げればきりがない。

キュヴェで表現する独創的なシャンパーニュ

ワインジャーナリストの斉藤氏は「あの規模で工業主義的な生産手法に手を染めず、メゾンを維持していけるというのは驚異的なこと。スタンダード・キュヴェと言われる売れ筋の定番商品を持たず、複数年の原酒をブレンドするノン・ヴィンテージでさえ、どの年のワインをベースにどの年のワインをブレンドしているのかが明確にわかる。シャンパーニュで考え得るベストを尽くしたこの玄人っぽさ、水晶をなめているような硬質感、光沢は独創的」と語る。こだわり抜いた、その年その年のキュヴェ毎に醸造、ブレンドして瓶詰めされた商品は、あたかもデザインされた工芸品のようであり、丹念に手で削られた彫刻のようでもある。

「時」を飲むという愉楽

今回、ジャン・エルヴェ氏が当主となった1988年の記念すべきヴィンテージ、デゴルジュマン・タルディフを試飲できた。21年の時を経て、冒頭であげた「マニフィック!」なシャンパーニュになっていた。緊張していたせいか、氏のサーヴによってさらにミラクルが加わった気もする。ワインは「時」を飲むものであり、飲む「時」によって、そこに誰がいてどんな場面であるかによって、味覚の記憶の鮮烈さが変わってくる。その特別な愉楽の意味を知る事のできるシャンパーニュとの出会いは決して多くはない。

jacquesson_bottle_l
jacquesson_glass

デギュスタシオン記録

Cuvée 733 キュヴェ733
ぶどう品種|シャルドネ50%、ピノ・ノワール25%、ピノ・ムニエ25%
参考価格|7875円

ベースとなるヴィンテージによって全く異なるテイストの、キュヴェ番号が商品名となったシリーズ。2000年以降安定した品質とその年のいちばんよいシャンパーニュをつくることをコンセプトにこの商品名を採用。キュヴェ733は、2005年の原酒をベースにブレンドされて出荷される商品。同じワインで熟成期間を変えたものを4年後にリリースする予定とか。強烈な果実香が立ちのぼり、華やかな泡にカスタードの香りも。

Vintage 2000 ミレジム 2000
ぶどう品種|シャルドネ50%、ピノ・ノワール50%
来年リリース予定

アヴィズのグラン・クリュのシャルドネ、ピノ・ノワールはヴェルズネィ(20%)、ディジィ(20%)、アイ(10%)を使用。ブリオッシュの香りと豊かな果実味、余韻も優雅で長い。

Avize-Grand Cru 2000 アヴィス・グラン・クリュ 2000
ぶどう品種|シャルドネ100%
参考価格 |1万2600円

アヴィズのグラン・クリュから厳選されたオーガニック栽培の3つの区画(ラ・フォス、シャン・カン、ネメリー)のシャルドネを100%使用。花やシガーなどまとわりつく、むせかえるような芳香、ボリューム感と酸味とのバランス、熟成感が見事。

Dizy Terres Rouges Rosé 2004 ディジィ・テール・ルージュ・ロゼ 2004
ぶどう品種|ピノ・ムニエ71%、ピノ・ノワール29%
参考価格|2万3100円

ドラピエも採用しているセニエ法と同じく、黒ぶどうから色を抽出するためのマセラシオンを経てこの深い色が誕生した。フランボワーズやりんごの香り、まるでよく熟したぶどうの粒を食べているようでいて、すっきりした味わい。酸も立ち、パワーがありながら軽やかでチャーミングな印象。

Dégorgement Tardif 1988 デゴルジュマン・タルディフ 1988
ぶどう品種|ピノ・ムニエ42%、シャルドネ37%、ピノ・ノワール21%
参考商品

特別なヴィンテージのみ生産する長期熟成スタイルの三部作の初ヴィンテージ。生産量600本のミレジム1988年は3種のぶどうをブレンド。1989年、1990年が続けてリリースされている。今回は2009年10月にデゴルジュ(熟成中に沈殿した澱を抜く作業)したばかりのせいか、20年瓶内熟成をしていたとは思えないほどフレッシュ。ジャスミンの香水をなめているような強い花の香り、カスタードの風味など複雑でコクのある味わい。

取材協力|
Jacquesson
68 rue de Colonel Fabien 51530 Dizy
www.champagnejacquesson.com
サロン・ド・ヴィノフル
Tel. 03-5795-2553

日本問い合わせ先|
ヴァンパッシオン
Tel. 03-6402-5505

           
Photo Gallery