第6回 nine SIXtyのジュエリー製作風景(1)
Fashion
2015年3月12日

第6回 nine SIXtyのジュエリー製作風景(1)

nineSIXty 加藤博照

第6回 nine SIXtyのジュエリー製作風景(1)

身に付ける人のパーソナリティーを反映した、世界にひとつしかないデザインと、作りこまれた細やかなディテールが魅力のnine SIXtyのジュエリー。
今回は代表的なモデルの製作風景を、デザイナーの加藤博照さん愛用の道具とともにお伝えしたいと思います。

文=佐藤太志(グリンゴ)写真=鵜沢ケイ

彫金から手がけるオーダーリング

今回製作するのはクロスのレリーフが入ったピンクゴールドの金属をレザーで包みこむ、ツークロスと呼ばれるモデルです。

ひとつのモデルを新たに創り出す場合は、まずは金属部分の型を作ることから始めます。
ワックスと呼ばれる蝋の成型ベースから、おおまかな形を切り出し、星の切りこみなどを入れて完成形に近づけていきます。
私が好んで使っているのは、正宗という刀のような道具。この道具はもともと、彫金や歯科技工ではなく、工芸品の透かし彫りなどで使われるもので、緻密で細やかなニュアンスを表現したいときに重宝します。

彫りこんで削る方法とは逆に、ワックスを立体的に盛り上げる方法もあります。

こちらは歯科技工でお馴染みの加工法で、バーナーで熱した鉄の器具を使い、ワックスを溶かしつつ立体的に成型していきます。削る方法と盛り上げる方法、どちらもミックスして使うことが多いですね。
バックルなどの場合は、大きな塊のワックスから削り出すことから始まるので手間と時間がかかります。

できあがったワックスをもとに鋳型を作り、今度はその鋳型をもとにシルバーやゴールドのベースを彫金。

デザインのマイナーチェンジやカスタムができるよう、もとになるオリジナルの型は保管してあります。

磨いて表面を綺麗にした金属のベースを、レザーにはめこむのが次の工程。

このタイプのモデルなら、通常使う革は表と裏で2枚。リザードを表面に使用する場合は3枚貼り合わせる、ドットタイプのモデルでは1~2枚、などデザインによって使うレザーの量はさまざまです。

ちなみにいま製作しているのは男性用で21号サイズ。

nine SIXtyのリングは、レザーを縫い合わせ、プレスして圧縮させていくので、レザーには猶予を残しておくことが必須。サイズ棒にレザーを巻きつけて、21号なら、だいたい5サイズぐらい上の26号分の長さをとり、カットして使用します。

独学で生み出した技術が生むジュエリーの強さ

カットしたレザーは、何度もサイズ棒に巻きつけることで、綺麗な円になるようクセをつけていきます。

筒型にしてレザーの端同士を貼り合わせるので、どちらの端の部分もノミのような刃物を使って削り、薄くする必要があります。そうしないと接着面が滑らかにならず、デコボコになってしまうんです。

これらの工程はすべて独学で編み出したもの。
そのとき使用する革の質や、石や木などのベースの素材により、工程の順番や加工方法も微妙に変わってきます。
オーダーのされ方によっては、製作の流れは無限に細分化されるでしょうね。

nine SIXtyのリングは、さまざまな物理的な力により形作られています。

●削り出したレザーの表面同士を貼り付けたときに生まれる摩擦の力。
●手縫いの際にぎゅっと縫いこんでいくことでかかる糸の圧力。
●大きなサイズのレザーをステッチで圧縮させるので、それが戻ろうとする膨張の力。
●レザーにRをかけるので、それに反発して戻ろうとする展開の力。

など、計算して施した、小さなリングにかかるさまざまな作用が、何年使っても決して金属や石が取れず、さらにレザーがはがれたりといった欠損を防ぐ、強さの源になっているんです。

たとえばよくあるダイヤのリングは金属のツメでとめられていますが、強い力でほじくれば外れてしまうものなんです。

ですが、nine SIXtyの場合は、さまざまな力が多方面から作用しているので、ベースが非常にとれにくい。
中にはめる石や木などの素材、その形により、ひとつひとつ力の入れよう、糸を縫いこむ角度などを千差万別に変えていくことが、なにより大切なんです。

nine SIXty

           
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