第1回 モノ作りがライフワークになるまで
Fashion
2015年3月12日

第1回 モノ作りがライフワークになるまで

nineSIXty 加藤博照

第1回 モノ作りがライフワークになるまで

はじめまして。nine SIXtyデザイナーの加藤博照です。
記念すベき連載の第1回目、私がnine SIXtyというブランドを立ち上げるまでに至った経緯をお話ししたいと思います。思いかえせば、偶然と幸運な出会いが重なり、自分でも不思議な感じがします。

文=佐藤太志(グリンゴ)写真=鵜沢ケイ

アトリエにて

歯科技工からジュエリー製作の道へ

いまとはまったく逆なんですが、小さいころは工作やプラモデルなどモノ作りの類いが大嫌い。外で遊んだり、部活で体を動かしたりする方が好きな子供でした。
転機が訪れたのは、歯科技工士の専門学校に入学した後のこと。私の実家は歯医者で、なにか家のためにできることはないかと考え選んだ進路なんですが、学校に入ってみて、モノ作りの面白さに開眼、どっぷりとはまってしまいました。金属を加工する歯科技工の道具は、アクセサリー製作の道具にも適したものがほとんどで、ファッションに興味のあった当時の自分は、自分のためのアクセサリーを作り始めるようになりました。ちなみに、このころの歯科技工の道具はいまだに製作で活躍しています。

「人と同じデザインは身につけたくない」という思いからスタートして、ジュエリーを支えるベースの作り方から編み出し、すべて独学で製作。本格的な彫金の学校に通う学生からみれば「それ違う!」なんてつっこまれるかもしれません。

専門学校で金属が加工できることを知り、実家の診療所に併設されている歯科技工の工房に入り浸っては製作に没頭。歯科技工の専門学校を卒業した後は、スタイリストやプロのロッククライマーなど、ちょっぴり変わった仕事に携わるかたわら、自分なりのアクセサリー製作を続けていました。

クライミング用のロープをモチーフにしたりなど、自分が影響を受けたものをデザインに反映させるのが好きでしたね。あるとき、仲間を通じて革専門のファッションブランドで勉強をさせていただく機会があり、それが革との出会いになりました。革は生き物だ、というのがそのときに得た私の持論。レザーウォレットなどの小物を製作するときでも、革の切れ端はたくさんできてしまいます。すべて処分されるのをみていて、「かわいそうだな」と思ったのがはじまり。それらの小さな革切れをすべて持ち帰ってみて、自分のアクセサリー製作に生かせないかと思案してみることに。
初めはただ丸くして縫製するだけ。「リングにするのは不可能」と周りのファッション関係の知人にもいわれたんですが、試行錯誤を繰り返し、革のリングに石をはめる製法を考案することに成功。結果、ジュエリーとしての意匠登録を取得することができました。

革と石の融合、nine SIXtyの誕生

初めて革のリングにはめた石はターコイズ。母親の持ち物だった比較的大きなターコイズをかなづちで割って小さくし、綺麗な球形になるよう研磨して仕上げました。これがいまに通じる、nine SIXtyの原型といえるモデルでしょうね。その後、自分だけではなく、周りの仲間たちからオーダーを受け、すこしずつほかの人のためのジュエリーを製作するようになっていきました。

nine SIXtyという名前が自分のブランドに使われるようになったのは、それから4年後のこと。当時、私は旅行も兼ねてですが、タイにジュエリーの買い付けに行っていて、膨大な数のシルバーや宝石を目の当たりにし、手で触れる毎日を過ごしていました。
そんなとき思いついたのが、ジュエリーで使用するシルバーの純度のほぼ中点である「96%」という数字を、自分のブランドに冠したらどうかということ。「96」という数字は陰陽のマークのようにひっくり返しても同じ。どんな状況においても変わらないナチュラルな精神姿勢を大切にする、自分のモノ作り観を象徴するような記号としてピッタリだなと考えたんです。

それから、シルバーやゴールド、プラチナなどの金属、ダイヤ、ターコイズ、オニキスといった鉱物、それ以外にもウッドや陶器など多種多様な素材に積極的にアプローチするようになりました。リングのベースで使用するレザーにおいては一般的なオイルドレザーのほかに、リザードやクロコダイルなど、さまざまなレザーでのデザインの可能性を模索。鉱物や金属をはめこむステッチのパターンをいくつも編み出し、世界にひとつだけのオーダーメイドのジュエリーを製作するブランドとして現在のnine SIXtyになりました。私自身、モノ作りがライフワークになっている毎日を過ごしております。

次回は私自身が思い入れのあるnine SIXtyのモデルと、ルシアン・ペラフィネとの出会い、自分自身のデザイン観についてお話してみたいと思います。

nine SIXty

           
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