オートバイメーカーが開発したスポーツカー、X-BOW GTに試乗|KTM
CAR / IMPRESSION
2015年1月5日

オートバイメーカーが開発したスポーツカー、X-BOW GTに試乗|KTM

KTM X-BOW GT|KTM クロスボウ GT

乗り物で“スポーツ”する

オートバイメーカーKTMが開発したスポーツカー、X-BOW GTに試乗

オーストリアが誇る世界的なオートバイメーカー、KTMが開発したスポーツカー「X-BOW」。カーボンモノコックのメインフレームに、直4ターボエンジンをミドシップマウント。競技用や、スポーツ性の高いオートバイばかりを専門的に手掛けるスタッフによって生み出されただけに、その刺激の強さは本物だ。今回、通常のX-BOWにウェザープロテクションを持たせ、その名のごとく長距離ツーリングにも乗って出られるモデルとして企画された最新グレード「KTM X-BOW GT」に、嶋田智之氏が試乗する。

Text by SHIMADA Tomoyuki

KTM製のオートバイをそのまま自動車に落とし込む

この“OPENERS”というWeb Magazineの自動車のコンテンツを御覧になっているくらいだから、あなたはきっとクルマというものに対して、こだわりめいた気持ちを抱いておられることだろうとおもう。

例えばそれは、とてもあっさりと人目をさらう存在感だったり、それなりの対価を支払うに充分なクオリティの高さだったり、誰もが乗るようではない希少性だったり、望んだときに望む以上のパフォーマンスが得られるスポーツ性だったりすることだろう。それらの全てを兼ね備えていることが一番だ、と考える人も少なからずいらっしゃるにちがいない。

だが、そんな都合のいいクルマというのは、そうそう転がってるものでもない。が、ここに1台存在する。もしかするとあなたが想像しているのとは、ややちがったベクトルにあるかも知れないが、間違いなくそれらの要素は満たしてる。「KTM X-BOW(クロスボウ)GT」である。

オートバイに興味のある方であれば、KTMの名前は当然のごとく御存知だろう。オーストリアが誇る世界的なオートバイメーカーで、スポーツ性の高いオートバイと競技用オートバイばかりを専門的に手掛けており、そのラインナップには実用車など存在しない。乗り物で“スポーツ”することがフィロソフィなのだ。

だから2007年にKTMが初めて手掛けたクルマとしてX-BOWというスポーツカーを発表したときも、オートバイメーカーのKTMがスポーツカーを作ったということに驚く人はいたものの、KTMを知る人達にとっては選んだカテゴリーがスポーツカーだったということは驚きでもなんでもなかった。なぜなら、それはKTM製のオートバイをそのまま自動車に落とし込んだようなものであり、やりたいことがシンプルに伝わってきたからだ。

KTM X-BOW GT|KTM クロスボウ GT

乗り物で“スポーツ”する

オートバイメーカーKTMが開発したスポーツカー、X-BOW GTに試乗 (2)

強烈な存在感

X-BOWは、その成り立ちも非常にシンプルだ。カーボンモノコックのメインフレームにアルミ製のリアフレームを結合し、そこに直4ターボエンジンをミドシップマウント。設計にはレーシングカーコンストラクターの老舗であるイタリアのダラーラが共同開発というかたちでくわわっていて、フロントサスペンションはプッシュロッド式、車体の下面は完全にフラットとなりクルマを空力的に路面へ吸い付かせる構造。まるで2人乗りのフォーミュラカーみたいなものである。

樹脂製のアウターパネルも空力効果で車体を路面に押し付けてタイヤのグリップを稼ぎ出すようデザインされていて、下面のフラットボトム構造と合わせ、派手なリアウイングなどなくともしっかりとダウンフォースを生み出せるよう考え抜かれている。

フロントのサスペンションも含めて剥き出しとなっているモノコックと、フローティング構造でマウントされるアウターパネルによって作り出されるスタイリングは、オートバイ全般はもちろん、社屋や印刷物まで含めてKTMのデザインに関わる全てを預かるキスカ・デザインが手掛けたもの。

KTM製のオートバイとおなじ世界観でデザインされていて、独特な雰囲気を見せてるのは、だから当然といえば当然なのかも知れない。好嫌は分かれるかも知れないけど一瞬にして目を引きつけられる造形なのは確かだし、よく似たクルマというのを見つけ出すことができない。強烈な存在感である。

もうひとつの特徴は、各部のクオリティがこの手のクルマにしては驚くほどに高いことだ。カーボン製のモノコックはガッチリとした剛性がありフィニッシュも美しく、アウターパネルも精巧に作られている。

KTMのクオリティに対するこだわりはかなり強い。それはパワーユニットやトランスミッションなどのコンポーネンツをアウディから供給させるのに成功し、一時はアウディの販売網を通じてX-BOWを流通させる計画が検討されたということからも理解できるだろう。

そうして世に送り出されたX-BOWは、ワンメイクレースをはじめとするサーキット走行を楽しみ尽くすに充分なだけのパフォーマンスを持ち、街中ではその非日常的な気分をたっぷり味わえ、峠道へと持ち込めば嫌というほどスポーツドライビングを満喫できる、全方位的にスポーツできるクルマとして高い評価を受けたのだった。

KTM X-BOW GT|KTM クロスボウ GT

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オートバイメーカーKTMが開発したスポーツカー、X-BOW GTに試乗 (3)

まるでフォーミュラカーに乗ってるような感覚

さて、知ってる人には相当に評価が高いもののメジャーな存在とはいえないクルマゆえ、前置きが長くなった。話は今回の主役である“X-BOW GT”である。これは通常のX-BOWに適度なウェザープロテクションを持たせ、その名のごとく長距離ツーリングにも乗って出られるモデルとして企画された最新グレードだ。ドアどころかフロントウインドーさえ持たないX-BOWは、まるでフォーミュラカーに乗ってるような感覚があって、その刺激の強さが楽しさをさらに大きなものへ膨らませる。

けれど、風圧を小さな整流スクリーンがある程度は抑えてくれるものの、やはり風は顔を直撃するし、小石が飛んでくることだってある。出先で雨が降ってきたら濡れるしかない。スパルタンに過ぎるのだ。そこでフロントウインドーと跳ね上げ式のサイドウインドーをそなえ、100km/hのスピードにまで耐えられる簡易型ソフトトップが用意された“GT”が、シリーズに追加されたというわけだ。

このウエザープロテクション、実によくできている。3D曲面で形作られたウインドー類はだいぶ華奢に見えるのだが、実際にはかなりしっかりとしていて、跳ね上げ式ドアのようなサイドウインドーはちょっとぐらい強く閉じた程度じゃ割れそうにないし、むしろそのときのガチッと収まりのいい様子に感心させられたりする。そして窓の角度が比較的立ち気味であり、ガラスの上端に視界の邪魔をする余計な縁がなく最後まで透明なままだから、視覚的にはウインドウの存在そのものが気にならず、開放感も削がれていない。

しかも100km/hを軽く超える速度でクルージングしても風はほとんど巻き込まず、窓があることによる不快な風切り音も一切なく、小雨に見舞われたときも60km/h以上で走り続けていれば雨粒に顔が殴りつけられるようなことはなかった。ウインドウ類の高さやラウンドの具合が、極めて巧みに設計されているのだ。

こうして耐候性というものを手に入れると、X-BOWそのものの意外な持ち味がさらに輝きを増す。

もともと車体の剛性が高いうえにサスペンションがよく動くから、X-BOWの乗り心地はもちろんハードな部類に属しはするけれど、おもいのほかしなやか。路面が荒れていても、それほど不快な気持ちにはならない。それにくわえて窓がそなわったことで風を身体で受けることによる疲労がかなり軽減される。

つまりX-BOWはタチの悪いジョークでも何でもなく、誰もが想像するより遥かに快適なロングドライブをこなせるクルマとなったのである。ウェザープロテクションを手に入れたのと引き換えに失ったものというのが何ひとつおもい浮かばない。

KTM X-BOW GT|KTM クロスボウ GT

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快楽をおもいのままに貪る

けれど、それはそれ、だ。このクルマの真実はそこにはなく、スロットルを深く踏み込んでみて初めてその姿に出逢うことになる。ミドにマウントされる1,984cc直4ターボエンジンは、285hp/6,400rpmと42.8kgm/3,200rpmを発揮している。GTは窓の追加などで標準のX-BOWより50kg近く重くなっているが、それでも車重はたったの847kgだ。パワーウエイトレシオは2.97kg/hpである。これは525psの5.2リッターV10を搭載するアウディR8と、ほぼおなじ数値である。

それがどういうことかというと、素晴らしく強烈な加速力をお見舞いしてもらえる。3,000rpmを超えるか超えないかの辺りからターボのパワーが噴出しはじめたかとおもうやいなやレッドゾーンに向かって一気に炸裂していき、500ps級のスーパーカー並の勢いでドライバーをスピードの世界に急激に押し上げようとするのである。

シャシーは相変わらずの絶品。2,430mmのホイールベースに対してトレッドがフロント1,672mm、リア1,626mmとショート&ワイドで、今やスポーツカーでも常識になっているABSだとかトラクションコントロールのような電子デバイスは何ひとつそなわってないから、相当にスリリングな挙動を示す手強いクルマであるような先入観を覚える。

けれど、いかにも敏感なミドシップカーらしく鋭く正確にインを差しはするものの、実際には全体的に挙動が掴みやすくコントロールもしやすい。基本はリアタイアを軸にノーズがグイグイと内側に入り込んで曲がっていくような印象なのに、コーナリング中にパワーを与え過ぎてリアタイヤが滑り出すときも、スパッと唐突に来るのではなく、スルッと穏やかに流れ始めるのだ。

そこから先は慣れてさえしまえば、定常円旋回で目が回るまでパワーオーバーステアを楽しみ続けられそうなほどの従順さを見せてくれる。この人車一体感はやっぱり堪らない。走りの切れの良さと天井知らずの楽しさ、刺激のキツさは、窓のあるなしに関わらず強烈なのだ。

X-BOWは、オートバイでいうならネイキッドのスーパースポーツみたいなものだろうか。いずれにせよ、鮮やかな存在感を放ち、作り込みの確かさとかなりのレベルのクオリティを持ち、乗っていることだけで人々に一目置かれ、抜群のパフォーマンスを発揮してくれる素晴らしく真っ当なスポーツカーであることに疑いの余地はない。しかもこのX-BOW GTは、これまでのX-BOWと違って空模様をさほど気にする必要もなく、気持ちの趣くままにいつだって走り出すことのできるクルマだ。

たとえば美しいドレスを纏ったレディを優雅にエスコートするのには全くもって不向きだけれど、男がそれ以外の素晴らしい快楽をおもいのままに貪るには最適といえる選択肢だとおもうのである。

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KTM X-BOW GT|KTM クロスボウ GT
ボディサイズ|全長 3,738 × 全幅 1,915 × 全高 1,202 mm
ホイールベース|2,430 mm
トレッド 前/後|1,644 / 1,624 mm
重量(乾燥重量)|847 kg
エンジン|1,984 cc 直列4気筒 直噴DOHC ターボチャージド(アウディ 2.0 TFSI)
ボア×ストローク|82.5 × 92.8 mm
最高出力| 285 ps(210 kW)/ 6,400 rpm
最大トルク|420 Nm/ 3,200 rpm
トランスミッション|6段マニュアル
ギア比|1速 3.357
    2速 2.087
    3速 1.469
    4速 1.098
    5速 1.108
    6速 0.927
駆動方式|MR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン+プッシュロッド
サスペンション 後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前/後|205/40R17 / 255/35R18
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク(φ350 mm)
ブレーキ 後|ベンチレーテッドディスク(φ262 mm)
最高速度|254 km/h
0-100km/h加速|4.1秒
燃費(NEDC値)|8.3 ℓ/100km(12 km/ℓ)
CO2排出量|189 g/km
燃料タンク容量|40 ℓ
価格|1,280万円(税抜き)

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