連載|丸若裕俊の“旅のモノ語り”~同行逸品~|ゲスト 菊地市郎|ThreeBond
LOUNGE / ART
2015年2月2日

連載|丸若裕俊の“旅のモノ語り”~同行逸品~|ゲスト 菊地市郎|ThreeBond

連載「同行逸品」|丸若裕俊がゲストと繰り広げる“旅のモノ語り”

同行五人目|菊地市郎(「ジ エアポートストア ユナイテッドアローズ」ディレクター)

大事なモノは、旅を通して知る(1)

伝統的な匠の技と、最新の技術力を融合・投影したプロダクトをプロデュースする、丸若屋代表の丸若裕俊氏。彼をホストに、毎回異なるゲストが“旅に同行(どうぎょう)するモノ”を持参して、旅について語らう企画、「同行逸品(どうぎょういっぴん)」。本連載をサポートするのは、“旅には、人と人をくっつける力がある。それは 旅仲間同士の絆であったり、旅行者と地元住民の絆であったりする”――そのように考える工業用シール剤・接着剤メーカーが「スリーボンド」だ。連載最終回となる五人目のゲストは、(株)ユナイテッドアローズが手がける「THE AIRPORT STORE UNITED ARROWS(ジ エアポートストア ユナイテッドアローズ)」のディレクター、菊地市郎氏を迎えた。同ショップは2010年に成田と羽田にオープン、現在では関西空港を加え、“空港にある特別なユナイテッドアローズ”として広く認知されている。

※「同行逸品(どうぎょういっぴん)」とは、四国遍路の言葉「同行二人(どうぎょうににん)」からヒントを得たタイトルです。常に弘法大師と一緒に巡礼しているという意味で、笠などに書きつける語のことです。選び抜いた逸品とともにその人の旅がある――そんなイメージを表現しています。

Photographs by JAMANDFIXText by KASE Tomoshige (OPENERS)

ギリギリ納得できる価格

丸若裕俊(以下、丸若) 菊地さん、今日はサンダルですね。

菊地市郎(以下、菊地) 飛行機での出張の時は、家を出る時からこの「ビルケンシュトック」(※1)を履いています。今日は飛行機に乗る時の服装で来たんですよ。

丸若 旅する時の格好で来てくれたんですね。さすがです(笑)。そう、サンダルじゃないと飛行機はきついですよね。

菊地 ずっと座っていると脚がむくみますし。スリッパよりサンダルのほうが男っぽいというか。

丸若 ユナイテッドアローズ(以下、UA)さんが手がけている「THE AIRPORT STORE UNITED ARROWS(ジ エアポートストア ユナイテッドアローズ、以下、TAS)」があるのは、羽田と成田と、関空ですよね。

菊地 最初は成田で、2010年の7月でした。まだ3年半くらいですね(取材時)。オープンして1年ほど経ってから、僕が担当するようになりました。

丸若 お店を作ったきっかけを教えていただけますか。

菊地 空港という国の玄関口に、UAの商品を紹介する場所を作る、というのが目的でした。それから駅ナカ、サービスエリアへ広げていこうと。公共の交通機関の施設の中に、自分たちの店を出す――その始まりが空港だったのです。

丸若 空港の中に参入するというのは、かなりハードルが高いのですよね。

菊地 今では空港内の商業施設もかなり増えましたが、以前はいわゆる、土産店しかなかったですしね。最初は本当に大変でした。

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株式会社 ユナイテッドアローズ 「THE AIRPORT STORE UNITED ARROWS(ジ エアポートストア ユナイテッドアローズ)」ディレクターの菊地市郎氏

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本連載のナビゲーターを務める丸若裕俊氏

丸若 旅に行く前はテンションが上がっていますし、だからこそ忘れ物も多くなります……そんななかで空港に旅のグッズが売っているというのは、いいですよね。でも日常生活の中で「旅のグッズを買いに行こう」、という気持ちにはなりにくいかもしれません。

菊地 人それぞれだとは思うんですが、旅に行くとなると、旅先のことをインターネットで調べたり、持って行くものをインターネットで購入したり。「準備をする人」は、多いと思います。

丸若 インターネットを利用する人は僕も多いと思うんですよ。だからこそリアルな店舗特有の難しさがありますよね。そんななかで立地として有利なのは、やはり空港でしょう。

菊地 ただ、限りなく万全に近い準備をしている方々に来てもらうことになるので、普通じゃないもの、面白いものじゃないと、ダメなんだろうなと。このオレンジ色のスピーカー(※2)は、5000円。音が良くてコストパフォーマンスが高いし、何よりデザインがいいんです。

丸若 これは旅に持っていくということを考えると絶対に欲しいですね。

菊地 もっと品質がいいものはありますし、音にこだわったらきりがない。実は、個人的にかなり忘れ物が多いんですよね。ホテルに置いてきてしまったり。だから、たとえなくしたとしてもギリギリまた買える価格のものがいいんですよ。

丸若 そこは重要ですね。

菊地 国内の旅はまた違う部分もありますが、海外は、限られた荷物の中で最善を尽くす、というか。なくしたら困るものは持って行くべきではない気がします。海外で紛失すると、まず出てきません。

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"スイス・Lenco社のBluetooth対応ポータブルスピーカー「BTS-110」"

丸若 100%出てこないと思ったほうがいいですよね。いいものであるほど出てこない。とはいえ菊地さんが持ってきてくれたモノは、どれも実に興味深い。このスピーカーはどこで知ったんですか?

菊地 展示会で見つけたんです。旅を楽しむ人たちは、本来現地でお金を使うつもりでいると思うんです。が、旅に行く前にギリギリ使ってもいい価格で、欲しいな、買ってもいいな、お土産にしてもいいなって思えるのがポイントなんです。

丸若 小型のスピーカーってすごく増えてきているじゃないですか。これからもどんどん伸びていくはずです。どこでもいい音が聴けるって、大切なことですよね。海外のホテルでも、それだけで一気にパーソナルスペースを作ることができて、落ち着けます。

今、iPhoneのスピーカーが壊れていて、音が出ないんですよ。明後日から(取材時)の旅はつらいです(笑)。ボーズなどのスピーカーもすごくいいと思うんです。でも、なくした時のショックが大きい。

菊地 旅先でそういうことがあると、旅が台無しになりますし(笑)。

丸若 そしてこのスピーカーなら、まだ出てくる可能性がまだある。ボーズだったら100%戻らないでしょうね。

菊地 オレンジもいいんですが、白と黒もカッコいい。僕がオレンジなのは、当然、UAのカラーだから(笑)。

丸若 さすがです(笑)。そして先ほどから気になっているのですが、この板のようなものは……。

菊地 「グリッドイット」(※3)という商品で、アメリカのブランドです。僕は元々バイヤーをやっていたので、TASのディレクターに就任したとき、最初、旅行専門の展示会に行こうと思いまして。調べてみたら、シカゴに旅グッズの専門の展示会があったんです。その展示会ではピンと来るものは見つからなかったんですが、その後、いろいろと買い付けに回ったんです。

ニューヨークに「Flight001」という店があるのですが、アメリカに駐在してるうちのスタッフに「ぜひ行った方がいい」って言われて。その店に置いてあったんです。これは当時購入したもの。現在TASの店頭では、同じ型の黒を展開しています。

丸若 これはどうやって使うんですか?

菊地 こまごましたものをまとめるために、使います。ペンだったり、コードだったり。小袋に分けて収納するのは面倒ですし、ラフにまとめておけるので便利なんです。

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米Cocoon社が手がけるアイデア収納グッズ「グリッドイット」

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「ザ・ランドレス」から発売されている「ファブリックフレッシュ Classic」

丸若 すごいですね、発想が日本人じゃないですね。このむちゃくちゃな感じ。

菊地 ゴムに通しているだけなんですが……旅に持って行く配線類はとても多いですよね。携帯電話、スマートフォン、パソコン。そんなコード類を全部まとめておける。

「グリッドイット」が目の前にあるとなぜか、ゴムで留めたくなるんですよね。何かに「入れろ」と言われると、「入れるものか」と思いますが、これはついまとめたくなる。

丸若 「使いたいと思わせる」って、すごい機能ですよね。ただ履きやすさだけを追求するなら、スニーカーなんてたくさんの色はいらないわけじゃないですか。履きたいと思わせる機能をそれぞれが担っている。

菊地 そして「何だろう?」って思わせることも大事。店頭で「グリッドイット」を見たお客さんは、だいたい「これ何ですか?」と尋ねてくるそうです。

このサイズと、半分くらいのサイズの2種類があります。機能は「挟む」というシンプルなものなんですけども、発想によって使い方が全然違ってきます。好きに挟んでください、ということです。

丸若 ここに挟まれているのはフレグランスですか?

菊地 ザ・ランドレスの「ファブリックフレッシュ」(※4)。ラベンダーと、何種類か香りがあるんですけど。いわゆる、ファブリーズみたいなものです。

丸若 ケミカルな感じではなくて、ナチュラルな香りですね。

菊地 食事をしたあとって、匂いがつきますよね。そのあと商談で、同じジャケットを着ていかなければいけないって時に、ちょっと吹きかけておくと、匂いが緩和されます。フレグランスとはちょっと違うんですけども、出張時や、洗濯に出せないときに便利です。お薦めですね。

丸若 これもTASで売っているんですか?

菊地 売っています。お土産としても、手ごろでいいんですよ。

※1 ビルケンシュトックの定番モデル、「チューリッヒ」を愛用。飛行機に乗る時はもちろん、ホテルでも活躍してくれるという。

※2 菊地氏が所有するBluetooth対応のポータブルスピーカー「BTS-110」は、スイスのLenco社のもの。1946年創業、スピーカー、ターンテーブル、ラジオなどのサウンドプロダクトを手がけるメーカーだ。もちろん「THE AIRPORT STORE UNITED ARROWS(ジ エアポートストア ユナイテッドアローズ、以下TAS)」でも取扱いがある。記事のなかで紹介したオレンジを含め、計3色で展開。

※3 さまざまな長さのゴムが縦横無尽に張り巡らされた「グリッドイット」は、米Cocoon社が手がけるアイデア収納グッズだ。本来デジタル製品やその付属ケーブルを収納するために開発されたというが、使い方は自由。化粧品、筆記具などを挟むこともできるので、使う人次第というわけだ。硬く厚みがあるので、簡単に折れ曲がることはない。カバンに収めるのも容易で、取り出して壁に吊っておくことも可能。こちらもTASでの取り扱いがある。

※4 2004年にデビュー、ニューヨーク発のファブリックケアのスペシャリティブランドが「ザ・ランドレス」だ。各種の洗剤をはじめとして、柔軟仕上げ剤、しわ取りスプレー、アイロン用仕上げスプレ
ーなど、さまざまな商品をラインナップする。菊地氏が愛用するのは「ファブリックフレッシュ Classic」(60ml)。抗菌・消臭効果のあるミストだ。

連載「同行逸品」|丸若裕俊がゲストと繰り広げる“旅のモノ語り”

同行五人目|菊地市郎(「ジ エアポートストア ユナイテッドアローズ」ディレクター)

大事なモノは、旅を通して知る(2)

※「同行逸品(どうぎょういっぴん)」とは、四国遍路の言葉「同行二人(どうぎょうににん)」からヒントを得たタイトルです。常に弘法大師と一緒に巡礼しているという意味で、笠などに書きつける語のことです。選び抜いた逸品とともにその人の旅がある――そんなイメージを表現しています。

Photographs by JAMANDFIXText by KASE Tomoshige (OPENERS)

こいつとは離れられない

丸若 菊地さんは、旅はどの地域に行くことが多いですか?

菊地 ヨーロッパが多いですね。

丸若 旅や出張に頻繁に行くようになる前と後では、どういう変化がありましたか?

菊地 荷物はなるべく軽くするようにしています。1日1都市レベルで、どんどん移動するんですよね。ハードな出張の場合、今日はペルージャ、明日はミラノ、明後日はナポリ、という感じで。そうなると荷物を持って移動することが、とにかくつらい。

必要最低限のワードローブというか、「これがあれば大丈夫」というのが決まってくるんです。以前は持っていった荷物の3分の1くらい、着ない服があったりしました。

丸若 持って行ったモノがうまくハマったときって、仕事もうまくいくことが多い。冷静に、いろいろ見えているんですよね。仕事も旅支度も、うまく判断できたときが、醍醐味ですよね。

菊地 たくさんのモノを持ちたいっていうよりも、ひとついいモノを持ちたい。セレクトを研ぎ澄ましていきたいですね。限られたギアを選ぶ作業をしたいんです。

丸若 旅だけじゃなく、日常もそうですよね。

菊地 例えば皿を買おうというときに、これだけあればいい、余計なものを持たないようにすることが、旅の練習にもなっている。そこが一番変わった点かもしれないですね。

丸若 この連載は旅をテーマにしているんですが、旅の相棒って、流行り廃りだけではないセレクト基準が入るんですよ。しっかりと自分の判断で選んでいると思うんですね。そういうのって大切だし、面白い。そこを共有できたらいいな、と。そんななかでこの枕は、かなりの使用感を、感じます(笑)。

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写真左の青いボトルは、ナチュラルミネラルウォーター「ソラン・デ・カブラス」だ(スリーボンド貿易株式会社 http://www.threebond-trading.co.jp/)

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菊地氏の一番の旅の相棒、「エボリューション ピロー」

菊地 この対談のコンセプトがそこだと思っていたので、持ってきました。使い込んでいてお見苦しいのですが、毎回の旅の相棒なので。「エボリューション ピロー」(※5)という、アメリカの携帯用の枕です。

丸若 結構なサイズですね。これを選んだ理由はなんですか?

菊地 普通の枕は空気を入れるので、パンパンになるんですよ。寄り添っても「なによ」みたいな感じで跳ね返してくる。でもこれは、いわゆる低反発なんですね。優しいんです。とにかく優しいんです(笑)。

丸若 (着用しつつ)ものすごいフィット感です……(笑)。

菊地 この枕は通常のものより「高さ」があり、空気を抜いてもさほど小さくならないので、かさばります。しかしこの使い心地は、代わるものがないんですよね。

丸若 ほかの枕を使った時とは、使用後の感覚は違いますか。

菊地 全然違います。僕は基本的にエコノミークラスなので、きちんとした体勢をとって寝ないと、首を寝違えたりするんです。以前、出張時にひどく寝違えて、仕事に集中できなかったことがありました。だいたい深夜便で出て、朝ホテルで荷物を落として、すぐ仕事というパターンが多い。ですので、飛行機のなかではぐっすり眠りたい。

僕がTASのディレクターになって、初めて訪れた展示会で見つけたんですが、とりあえず一回使わないとオーダーできないからと、その場で売ってもらいました。まずシカゴからニューヨークへ行く間に使いましたが、時間が短くてちょっとわからなかったんです。で、ニューヨークから東京に帰るときに使って、「これはいい」と。3年くらい使っていまして、結構な大きさで邪魔だなとも思うんですが、こいつとは離れられない、っていう。

丸若 いくらなんですか?

菊地 3800円です。ほどよい値段で、心地いい。TASみたいなお店で扱うモノは、「安いけど気が利くね」というほうがいいように思います。いわゆる「ユナイテッドアローズ」という店とは、ちょっと違う店なんですよね、TASは。

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英・バウアーズ&ウィルキンス社のヘッドフォン「P5」

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ヘッドフォンを試聴する丸若氏

丸若 旅用の、本当の便利グッズだけを売っている店も必要だと思うんです。でも、こういうコンセプトを持ったTASのような店って、世界のエアポートにはないんですよね。

菊地 そういうサジ加減の店が、意外にないんですよね。で、次がこのヘッドフォン。TASで取り扱っているモノではないのですが(笑)。

丸若 オシャレなのが出てきましたね(笑)。

菊地 ユナイテッドアローズの六本木 メンズストアで扱っているんです。バウアーズ&ウィルキンスのヘッドフォン(※6)。ノイズキャンセル付きでとにかく音がいい。そしてやっぱりカッコいいんですよ。

丸若 ちょっと着けてみてもいいですか? (装着して)ノイズキャンセルが入っている状態ですが、全然聞こえないですね、周りの人の声が。想像よりもすごいです。

菊地 聴く曲にもよるんですけど、いろいろと使ってみて、音の入り方がよかったんですよ。それにイヤフォンを長時間つけていると、耳が痛くなるじゃないですか。ヘッドフォンのほうが、疲れが少ない気がします。

丸若 最初のサンダルの話に戻りますが、疲れないように注意するという点では、やはり靴も脱いだほうがいいですよね。

菊地 脱いだ方がいいし、僕も最初は靴を脱いでいたんですよ。ただ、また靴を履くと、かなり窮屈に感じる。ならば、サンダルにしてしまおうと。

丸若 若いころ旅をしていた時は、スリッパやサンダルを買うという発想がなかったですね。10代や20代前半は、飛行機のトイレに行くときは裸足でした(笑)。

菊地 ヨーロッパってホテルの部屋の中でも、靴を履きますよね。でも僕らは家に帰ったら靴を脱ぐ。そのほうが疲れがとれますので、部屋の中ではこのビルケンシュトックです。それにヨーロッパの建物って、床が冷たくてすごく寒い。このビルケンくらい(ソールに)厚みがないと、ちょっとつらいです。

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飛行機での出張時は、家を出る時からビルケンシュトックのサンダルを着用するという菊地氏

自分を見つめ直すことができる

丸若 いろいろとお話を伺いましたが、共感できることばかりでした。菊地さんがモノを通して、何を大切にしているのかが、とてもよく分かりました。特に、菊地さんがこの「エボリューション ピロー」を愛する人だったというのは、とても嬉しかったですね。「エボリューション ピロー」、MVPです。

菊地 その枕は、僕がTAS担当してからずっと取り扱っている商品でもありますので、すごく愛着があるんです。ただ、この「エボリューション ピロー」というネーミングにも、ロゴの書体にもツッコミを入れてくれたのは、丸若さんだけです(笑)。

丸若 ですよね(笑)。でも、UAでそんなセレクトがあるんだ、っていうのが伝わったら面白いじゃないですか。ワクワクすると思うんですよ。

菊地 結構知られていないですし、そこまでPRしたこともないですからね。

丸若 お店のコンセプトって、オープンした時以外は、そんなアピールする時はないですものね。ところで先日羽田のTASにおじゃましたんですが――レジの後ろに外の抜けが広がっていて、すごいですね。借景ですよね。

菊地 会計しているときに、飛行機が見える。一度、もっと場所を広げて商品を出そう、って話があったんです。レジの奥にも商品を置こうと。でも一応ディレクターなので(笑)、「ちょっと待ってくれ」と。会計しているときに見える飛行機を、お客様が楽しんでいるという話を、スタッフから聞いていたので、商品は置かないことにしたんです。

丸若 空港にいることを感じなくなっちゃう。

菊地 本当にそうなんです。自分も実は、そこの意識がなかったんですよね。会社の売り上げを伸ばすことにはもちろん意味がありますし、商品を増やすことも決して悪いことではない。でも、レジの奥の抜けは残したんです。「いいね」と言ってくれる人がいて、よかったと思います。

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丸若 個人としてでも、TASのディレクターとしてでもいいのですが、旅に持って行くモノを、どう選んでほしいと思いますか?

菊地 旅は、基本的に限られたモノしか持ち運びできません。おそらくそのときに選ぶモノって、その人にとって本当に大事なモノであるはず。逆に言うと、自分にとって本当に、一番大事なモノは、旅を通して知ることができるのではないか、と思います。

モノだけではなく、旅をすると、自分を見つめ直すことができます。それも旅の楽しみです。自己実現と自身の成長のために、これからも旅を続けていきたいですね。

丸若 本連載のサポーターである、スリーボンドホールディングスの土田さんを含め、これまで6人のゲストを迎えてきました。それぞれの旅支度はまったく違って、コンパクトな人もいれば、膨大な人もいる。やっぱり“その人”が垣間見えるから、面白いんですよね。

菊地 取材をお受けする時に、この(同行逸品の)ページを知らなかったので、対談の主旨を聞いて面白いコンセプトだと思いました。本当に。ただの旅じゃなくて、自分が店を手がけているから余計に思うんですけれど、旅に持って行くモノって、やはりその人そのもの、という気がします。

自分をお金で表すと決して高くないし、ほどほどなんだなと。自分の持って行くモノを見ると、自分の身の丈を感じる。そういうことなんだ、と思いますね。

丸若 自分と同じレベルのモノじゃないと、安らげないですよね。ガウンを持っていっても、おそらく着ないですから。

菊地 たまにこの(バウアーズ&ウィルキンスの)ヘッドフォンが恥ずかしくなるのは、そういうことなんだなと。逆に、このヘッドフォンに合う自分になろう、といった感覚になるんですね。買ってみたはいいけど、少し無理してる、みたいな。

丸若 全然そんなことないですよ。でも、偶然、飛行機の中で菊地さんに会ってみたいですね。意外にまんざらでもない顔でこのヘッドフォンをつけていたりして(笑)。次の出張は、どちらへ?

菊地 来月(取材時2013年12月)から、イタリアのフィレンツェに行って、ミラノに行って、そのあとロンドンに行って、スコットランドに行ってから帰国します。

丸若 お忙しいとは思いますが“いい旅”になりそうですね。ありがとうざいました。

※5 菊地氏が3年以上愛用し、一番の相棒と評価しているのが「エボリューション ピロー」。一般的な携帯枕に比べてかなり高さがあり、いわゆる低反発仕様なので非常にクッション性が高い。こちらも「THE AIRPORT STORE UNITED ARROWS(ジ エアポートストア ユナイテッドアローズ)」で購入可能だ。

※6 1966年、ジョン・バウアーズとピーター・ヘイワードにより、英国南部の港町ワーシングにて設立されたバウアーズ&ウィルキンス社。ハイエンドなオーディオ、スピーカー、イヤフォンなどを手掛けるメーカーである。菊地氏が使用しているのは「P5」。贅沢で心地よいフィット感、自然かつ繊細なサウンドが魅力のモデル。

菊地市郎|KIKUCHI Ichiro
1973年生まれ。千葉県出身。1998年にユナイテッドアローズに入社。ユナイテッドアローズ 二子玉川、原宿本店 メンズ館にて販売を経験した後、2002年にバイヤーに就任。バイヤー時代には洋服や雑貨といった幅広い分野にてバイイングを行い世界中を駆け巡る。2011年に、観光、リゾート、ビジネスなど、さまざまな“旅”をイメージしたショップ「ジ エアポートストア ユナイテッドアローズ」のディレクターに就任。ショップにはUNITED ARROWS
グループの多数の商品群の中から選び抜いたアイテムや、空港限定のオリジナルブランドなど、バラエティに富んだ商品が揃う。http://www.united-arrows.co.jp/airport/index.html

丸若裕俊|MARUWAKA Hirotoshi

1979年生まれ。東京都出身。日本の現代文化をしつらえる 「株式会社丸若屋」代表。普遍的な"美しさ"と今という"瞬間"を、モノとコトに落とし込む事で現代に則した価値を導き出す。伝統工芸から、「北嶋絞製作所」を始めとする最先端工業との取り組みまで、日本最高峰との"モノづくり"を行う。「九谷焼花詰 髑髏お菓子壷」(金沢21世紀美術館所蔵)、「上出長右衛門窯×JAIMEHAYON」(ミラノサローネ出品)、「PUMA AROUND THE BENTO BOX」を主導。 http://maru-waka.com

[連載「同行逸品」サポーター]
土田耕作|TSUCHIDA Kosaku

1977年生まれ。東京都出身。株式会社スリーボンドホールディングス 取締役 兼 スリーボンドファインケミカル株式会社 代表取締役社長。人と人の絆が生まれるメカニズムを調査・研究する“くっつく絆メカニズム”を企画。さまざまな分野で活躍する方々とのインタビューを通じて、モノとモノをくっつけるだけでなく、ヒトとヒトをくっつける研究に励む。丸若氏とのつながりも、“くっつく絆メカニズム”より生まれた(「ThreeBond presents くっつく絆メカニズム Webサイト」 http://929kizuna.com/)。現在はこの企画を発展させた活動として“Creators' Bonding”を展開している。

「Creators' Bonding Web」
http://www.creators-bonding.com/


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スリーボンド
http://www.threebond.co.jp/

工業用シール剤・接着剤メーカー。日本/アジア/中国/欧州/北中米/南米と、世界を6極に分けた地域統括制をとり、自動車産業を中心に電気・電子産業、インフラ産業などさまざまな分野でグローバルに展開している。

丸若屋
http://maru-waka.com/
http://h-maruwaka.blog.openers.jp/
https://www.facebook.com/maruwakaya
公式Sumallyページ「円游庵」にて丸若屋が手がけたプロダクトなどを公開中
http://sumally.com/maruwakaya_enyuan

           
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