FASHION MEN
Paul Smith LONDON|ポール・スミス ロンドン
テーラリングの“技”が細部に宿る
英国の伝統とモダニズムを融合したスーツライン(1)
ランウェイを賑わすコレクションブランドとしても高い評価を得ているポール・スミス。だが、このブランド最大の魅力はやはりスーツである。確かなテーラリングに裏打ちされた縫製技術と遊び心を取り入れたデザイン性。この両者を表現しているスーツラインが、ポール・スミス ロンドンだ。今回は、日本モデリスト界の権威、西岡毅氏の見立てにより、細部にまで及ぶ優れた縫製テクニックが明らかとなる。
Interview Photographs by SAYAMA Junmaru名Edit&Text by Matsumoto Yu-ka
国内では日本人向けのモディファイモデルを展開
英国のトラディショナルなテーラリングをベースに、時代の流行などを意識したスーツを打ち出すポール・スミス ロンドン。モダンなフィッティングと繊細なカラーアレンジが生みだす、洗練されたブリティッシュスタイルが持ち味のコレクションだ。
ここ日本では、インポートのポール・スミス ロンドンを国内向けにパターンメイキング。世界で唯一のモディファイモデルが展開されている。もちろん、ポール・スミス氏が生地選びから仕立てまですべてを監修。氏に認められた日本の工場にて縫製されるという、徹底されたディレクションで既存のコレクションにあらたな息吹を宿す。
モデリスト界の権威が紐解くポール・スミス ロンドンの実力
今回、ポール・スミス ロンドンのスーツがもつクオリティを検証すべく、モデリストの西岡毅氏に実際にスーツに触れてもらった。17歳より縫製を学び、アクア・スキュータムやポール・スチュアートなど、世界の名だたるブランドのフォーマルパターンを構築し、英国サヴィルロウのハンツマン社とも関わりが深い、日本が誇るモデリスト界の権威・西岡氏。現場には分解されたスーツも用意され、スーツを形作る内部構造まで、深くメスが入った。
モデリストの西岡毅氏
――このスーツの大きな特徴は?
首の付け根よりも肩先が前に出ている、日本人特有の体型に合わせて作られた前肩縫製ですね。肩先が当たらないように、ゆとりのある肩作りになっていますから、着心地も良いでしょう。アームホール部分には、丁寧に伸び止めテープがほどこされていて、型崩れしにくいですし、肩のラインも美しいです。また肩の袖付けの部分の袖山が割ってありますね。これは、伝統的な英国の服に見られるディテールのひとつで、ショルダーが盛り上がっていないストレートなシルエットが特徴です。
――内部構造を見て気付いたことは?
芯地と生地を縫い合わせたラペルのハ刺し部分の仕事です。量産を前提としたスーツは、芯地を接着剤で貼り合せてしまうものも多いのですが、こちらはミシンによるハ刺しがほどこされています。8.5cmのナローラペルに15列という非常に狭いピッチで、実に細かい作業です。この大きさのラペルですと、通常では10列程度にとどまるのですが、これはかなり丁寧なつくりです。これにより、ラペルの返りが自然になり、美しいロールに仕上がります。ソフトでいて立体的。理想のラペルと言えますね。
強度が高い建築物は基礎がしっかりとしています。洋服もおなじです。ポール・スミスのスーツは、その土台がちゃんとあります。例えば、腰ポケットや胸ポケットの袋地。ここが内側の毛芯にきちんと留めてあります。これを省略してしまうスーツもじつは沢山あるんですよね。この見えないひと手間により、クリーニングしてもバラバラにならず、美しい形状がキープされます。ベントの付け根部分のステッチ処理も、型崩れを防ぐ機能的なデザインです。
特筆すべきは、ジャケットの裏地です。これはキュプラ100パーセントの繻子(しゅす)織りと呼ばれるもので、滑りがよく、とても心地いい着用感になります。さらに細かなテーピング処理やカラーステッチ、そしてパーツごとでライナーの色を変えたりと、手の込んだ作りと言えます。この部分だけ見ても、価値のある逸品です。ポール・スミス ロンドンのスーツの魅力は、この裏地だと言っても過言ではありません。
今季のポール・スミス ロンドンを形成する3つのライン
今シーズンは、スリムフィットで人気を博すモデル「Kensington(ケンジントン)」、伝統的な英国スタイルを継承するブランドのルーツとも言えるスタイルの「Standard(スタンダード)」。これにくわえ、その両者の中間的位置づけとして誕生した、ゆるやかなフィット感が特徴のニューモデル「The Byard(バイヤード)」をラインナップする。