連載|体感する読書~THE READING EXPERIENCE~|第9回「人生の1ページ」
LOUNGE / BOOK
2015年2月10日

連載|体感する読書~THE READING EXPERIENCE~|第9回「人生の1ページ」

連載|THE READING EXPERIENCE
今月の3冊|Jan. 2014

第9回「Life before Camera〜人生の1ページ〜」

人生を左右する本との出合い。それは一瞬の出来事かも知れません。そんな特別な1冊を求めて世界を駆け巡るブックハンター、twelvebooksの濱中敦史さんがセレクトした写真集・作品集を3冊ご紹介します。見てよし、触ってよし、飾ってよし。ようこそ、体感する本の世界へ。

カメラの前に立って「はい、ポーズ」。これがポートレートの基本姿勢。いまなら、すぐにパソコンで仕上がりを確認して、見つけた粗をマウスで取り除くこともできる。今回はそうした模範的なポートレートとは一線を画す3冊を紹介する。世にも不思議なポートレートの世界、とくとご覧あれ。

Selected by HAMANAKA Atsushi (twelvebooks)Photographs by JAMANDFIXText by TANAKA Junko (OPENERS)

01

 不気味さが笑いに変わる?

twelvebooks|Jan. 2014 『The Hidden Mother』

なんの変哲もないポートレートかと思いきや、うしろになにやら怪しい影が……。ご安心を。影の正体は、子どもたちのお母さん。撮影に多くの時間を要した19世紀、途中で子どもが飽きたり、動き出したりしないように、布をかぶってうしろから支えていたという。それを知った途端、不気味さよりも滑稽さが際立ってくる。もちろん彼女たちは真剣そのもの。出生率が低かった時代に、わが子の元気な姿をカメラに収めようと、心して撮影に臨んだはずだ。だが人の感覚とは不思議なもので、見てはいけないと思えば思うほど、そちらに目を奪われてしまう。昨年リンダ・フレグニ・ナグラーが発表したのは、そんな“影武者”にスポットを当てた作品集『The Hidden Mother』。子どもたちの陰に身を隠していた彼女たちが、2世紀近くのときを経て輝き出す。

『The Hidden Mother』
作者|リンダ・フレグニ・ナグラー(Linda Fregni Nagler)
出版社|MACK(www.mackbooks.co.uk)
サイズ|238 x 286 mm / ダストカバー付きソフトカバー
ページ数|432ページ
価格|8190円
販売先|twelvebooks 全国取扱店舗
2013年刊

02

 主張するポートレート

twelvebooks|Jan. 2014 『There's a Place in Hell for Me & My Friends』

南アフリカ生まれのピーター・ヒューゴ。紛争や貧困、環境問題など、アフリカが抱える問題をパンチの利いたビジュアルで表現する新鋭写真家だ。新作『There's a Place in Hell for Me & My Friends』に収められているのは、彼と彼の友人のポートレート。一見するとシンプルなモノクロ写真のようだが、皮膚の色素(メラニン)を強調する特殊な処理を施し、傷や日焼けの跡を浮き立たせている。いまはなにか“欠点”を見つければ、フォトショップですぐに修正できる時代である。その欠点をあえて強調した彼の写真は、完璧な美しさを追求する現代社会へのアンチテーゼのようだ。

『There's a Place in Hell for Me & My Friends』
作者|ピーター・ヒューゴ(Pieter Hugo)
出版社|OODEE(oodee.net)
サイズ|225 x 282 mm / ハードカバー
ページ数|144ページ
価格|8190円
販売先|twelvebooks 全国取扱店舗
2013年刊

03

 究極のひとり遊び

twelvebooks|Jan. 2014 『bukubuku』

「Selfie(セルフィー)」という言葉をご存じだろうか? 名門オックスフォード大学発行の「オックスフォード英語辞典」が、2013年の流行語に選出した言葉だ。自分で自分を撮影した写真、つまり自分撮りを意味する。この場合、特にスマートフォンやウェブカメラで撮影して、SNSにアップロードしたものを指すそうだが、約20年前、スマートフォンを水中カメラに持ち替え、1カ月間ひたすら自分撮りをした男がいた。写真家の深瀬昌久である。しかも舞台は浴槽のなか。生涯をとおして「自分とはなにか」を追求しつづけた深瀬は、この浴槽のなかでも、手を替え品を替えひたむきに自分と向き合った。それは孤独なようで、どこか胎児を思わせる自由さと安心感を漂わせている。

『bukubuku』
作者|深瀬昌久(Masahisa Fukase)
出版社|Hysteric Glamour(www.hystericglamour.jp)
サイズ|260 x 228 mm / ハードカバー
ページ数|83ページ
価格|5250円
販売先|ラットホールギャラリー
2004年刊


濱中敦史|HAMANAKA Atsushi
twelvebooks代表。2010年3月、現代写真を中心に、独自のスタイルをもつ出版社やアーティストの活動をプロモーションするプラットフォームとして、「twelvebooks」を設立。洋書や洋雑誌の国内流通を手がけるほか、写真展の企画や選書、ディレクションまで、書籍やイメージに関わる活動を展開する。www.twelve-books.com

濱中敦史|HAMANAKA  Atsushi

Photo by Daisuke Hamada

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