悪天候の中で勝利をものにしたアストンマーティン|Aston Martin
CAR / FEATURES
2015年1月15日

悪天候の中で勝利をものにしたアストンマーティン|Aston Martin

Aston Martin|アストンマーティン

WEC第6戦「富士6時間」レース/2013年10月19日~20日 富士スピードウェイ

悪天候の中で勝利をものにしたアストンマーティン

アストンマーティンは、世界最高峰の耐久レース「WEC(世界耐久選手権)」のLMGTE-ProとLMGTE-Amの2クラスに「V8 ヴァンテージ」をもちいて参戦している。多くのファンが開催を待ち望んだ、日本ラウンドWEC第6戦「富士6時間」レースに密着し、常にレースと供に歩む「アストンマーティン」というブランドの魅力と、チームの戦いを報告する。

Text by SAKURAI Kenichi

もっともコンペティティブで熱い戦い

現在のレースで、世界選手権の名がつくものはわずか4つしかない。ひとつは自動車レースの最高峰F1(フォーミュラワン世界選手権)、もうひとつはWRC(世界ラリー選手権)、残るふたつはWTCC(世界ツーリングカー選手権)とWEC(世界耐久選手権)である。

レースのカテゴリーは大きくふたつに分けられる。レース専用に設計されたプロトタイプレーシングカーのLMPと、市販スポーツカーをベースにしたLMGTEである。その中でさらにLMPは2クラスに、LMGTEはドライバーによってLMGTE-ProとLMGTE-Amの2クラスに分けられる。

Aston Martin 2014 FIA WEC Round6 6 Hours of Fuji|アストンマーティン WEC第6戦 富士6時間 レース 12

Aston Martin 2014 FIA WEC Round6 6 Hours of Fuji|アストンマーティン WEC第6戦 富士6時間 レース 7

世界最高峰の耐久レースだけあって、どのカテゴリーもトップ争いは熾烈だが、なかでも、もっともコンペティティブで熱い戦いを繰り広げるのが、GTカーで争われるLMGTEクラスだといわれている。

特に、プロドライバーを対象とするLMGTE-Proクラスには「ポルシェ 911 RSR」を筆頭に「フェラリーリ458イタリア」、「アストンマーティン V8 ヴァンテージ」などのスポーツカーが参戦。

規定でメーカーの直接参戦が禁止されているため、見た目上はあくまでも独立したレーシングチームでの参戦となっているが、実際のチームは、いずれもメーカー直系のワークスチーム的な存在だ。つまり、この戦いは、チーム名はともかく、メーカーやブランドの威信をかけたガチの勝負であると言っても過言ではない。

Aston Martin|アストンマーティン

WEC第6戦「富士6時間」レース/2013年10月19日~20日 富士スピードウェイ

悪天候の中で勝利をものにしたアストンマーティン (2)

1台でも前にポジションをあげる

特にLMGTEのマシンは、誰もが知る市販のスポーツカーがベースで、改造範囲も規定により制限されているので、長時間の耐久レースとは思えない、激しいバトルが展開されている。

今回インタビューに応じてくれた「アストンマーティン レーシングチーム」のダレン ターナー選手は、「かつては燃費を向上させるために、計算して抑えた走りをおこなっていたこともありますが、いまは常に全開です。流してラップタイムを平均化するという作戦はほとんどなくなり、その瞬間瞬間で出すことができる最高のパフォーマンスで戦っています。

(ル・マン24時間レース以外は)6時間という長丁場であっても、1時間のスプリントレースと何らかわらないドライビングとパフォーマンスが我々ドライバーには要求されるのです。それだけにマシンにもドライバーにも過酷なレースといえるでしょう」と話す。

Aston Martin 2014 FIA WEC Round6 6 Hours of Fuji|アストンマーティン WEC第6戦 富士6時間 レース 36

Aston Martin 2014 FIA WEC Round6 6 Hours of Fuji|アストンマーティン WEC第6戦 富士6時間 レース 18

天候やマシンのダメージによる「作戦」はあっても、耐久レースならでは燃費やポジションをキープするための「作戦」はもはや存在しないのがWEC。「もしも作戦というものがあるとすれば、それは1台でも前にポジションをあげる。躊躇なく抜くために最大限の努力をするということです」とダレン ターナー選手。そのコメントからも、WEC(耐久レース)とは名ばかりの、6時間にも及ぶ激しいスプリントレースであることが窺える。

「今シーズンは、チームもマシンもかなり調子を上げてきているので、常にチャンピオンも狙える位置にいます。ただ、正直に話せば、高速サーキットである富士と今のタイヤのマッチングは、ベストではありません。我々のタイヤは、どちらかといえば、もっとテクニカルなコースに向いているのです。

だからこそ反対に、富士の結果如何では、チャンピオンが確実なものとなるといえるでしょう。もちろん我々はチャンピオンを目標に戦っているので、まずはここで負けないことが重要です。そして残りのレースを確実にものにすることで、目指す勝利へと近づけるのです」

Aston Martin 2014 FIA WEC Round6 6 Hours of Fuji|アストンマーティン WEC第6戦 富士6時間 レース 15

Aston Martin|アストンマーティン

WEC第6戦「富士6時間」レース/2013年10月19日~20日 富士スピードウェイ

悪天候の中で勝利をものにしたアストンマーティン (3)

アストンマーティンのDNAをより身近に感じる

10月19日(土)。富士スピードウェイで開催された日本ラウンド、WEC第6戦「富士6時間」レースの予選では、気にされた天候の悪化もなんとか免れ、タイムスケジュール通りプログラムが進行していった。

注目の「アストンマーティン レーシングチーム」は、予選で#97ダレン ターナー、ステファン ミュッケ、フレデリック マコウィッキ組が1分39秒114のタイムをたたき出しLMGTE-Proクラストップに、それにペドロ ラミー、リッチー スタナウェイ組の僚友#99が1分39秒591のタイムで続いた。LMGTE-Amではブルーノ・セナ、クリストファー ニギャルド、クリスティアン ボウルセンの駆る#95が1分40秒824でこちらもクラストップを奪取。決勝に向けて、ともに絶好のポジションを獲得した。

Aston Martin 2014 FIA WEC Round6 6 Hours of Fuji|アストンマーティン WEC第6戦 富士6時間 レース 40

Aston Martin 2014 FIA WEC Round6 6 Hours of Fuji|アストンマーティン WEC第6戦 富士6時間 レース 28

予選当日のサーキットには、多くのアストンマーティン・オーナーも来場。パーキングスペースには、最新の「アストンマーティン」ラインナップの姿も見受けられた。こうしたオーナーたちのために、エクスクルーシブな雰囲気のVIPラウンジも用意されているのも、WECならでは。世界最高峰の耐久レースという特別な世界観に、ラグジュアリーなブランドが欧米の例を見ても明らかである。

ラウンジでは、常にレースとともに歩んできた歴史を持つ「アストンマーティン」のDNAをより身近に感じるとともに、サーキットで魅せるダイナミックなパフォーマンスを存分に味わうことができた。もちろん、アストンマーティンのオーナーたちもスタンドに詰めかけた多くのファンと供に声援をチームに送ったほか、参戦ドライバーとの写真撮影などの機会が設けられ、WECを心から楽しむことが出来たようだった。

また、予選の合間には、FIAが主催するレーシングドライバーによるレーシングタクシー(同乗走行)やサイン会も開催された。

アストンマーティンは、このレーシングタクシーに「アストンマーティン ラピード S」と「アストンマーティン ヴァンキッシュ」を提供し、来場したファンに富士スピードウェイのフルコースで「アストンマーティン」のパフォーマンスを味わってもうことができた。

Aston Martin|アストンマーティン

WEC第6戦「富士6時間」レース/2013年10月19日~20日 富士スピードウェイ

悪天候の中で勝利をものにしたアストンマーティン (4)

不完全燃焼となる幕切れ

活躍が期待された翌10月20日(日)の決勝当日。しかし、前日の夕方から降り出した雨が、激しくなり、富士山の姿も見えないほどの悪天候に、レースは3度に渡って赤旗中断。セーフティカーが先導しながらレースは周回を重ね、わずか16周でレースは成立、終了してしまった。

Aston Martin 2014 FIA WEC Round6 6 Hours of Fuji|アストンマーティン WEC第6戦 富士6時間 レース 50

Aston Martin 2014 FIA WEC Round6 6 Hours of Fuji|アストンマーティン WEC第6戦 富士6時間 レース 49

「アストンマーティン レーシングチーム」には、不完全燃焼となる幕切れを迎えてしまったが、#97ダレン ターナー、ステファン ミュッケ、フレデリック マコウィッキ組はLMGTE-Proでクラス優勝、LMGTE-Amクラスでは#95ブルーノ・セナ、クリストファー ニギャルド、クリスティアン ボウルセン組がクラス優勝、#96のスチュワート ホール、ジェイミー キャンベルウォルター、ジョナサン アダム組が2位を獲得。日本での結果は残した。

2013年の残り2戦、#97および「アストンマーティン レーシングチーム」は、富士ラウンドに続く上海ラウンドで優勝したものの、最終のバーレーン・ラウンドで残念ながら無得点に終わり、惜しくも年間優勝を逃しその栄誉をフェラーリに献上してしまった。勝てるシーズンを落とし、2位に甘んじた今シーズンの雪辱を来季はぜひとも期待したい。

           
Photo Gallery