ポルシェ マカンを知る|Porsche
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2015年2月20日

ポルシェ マカンを知る|Porsche

Porsche Macan|ポルシェ マカン

ポルシェ マカンを知る

2013年11月、ロサンゼルス東京、2つのモーターショー会場でほぼ同時にワールドプレミアを果たした、ポルシェのコンパクトSUV「マカン」。まったくあたらしいこのクルマは、SUVというカテゴリーにありながら、純血の“ポルシェ”であると謳う。その真意を確かめるべく大谷達也氏がドイツまで赴き、詳しい話をたずね、そして体感した。

Text by OTANI Tatsuya

まごうことなきポルシェの血族

11月の東京モーターショーで本邦初公開となったポルシェ「マカン」。そのプレスキットには、タイトルとして「純血ポルシェ、マカン」の文字が躍っていた。

ごぞんじのとおり、マカンはカイエンよりひとまわり小さなSUV。ポルシェはこれを“コンパクトSUV”と呼ぶが、スポーツカーではなくSUVに“純血ポルシェ”という言葉を用いた真意が当初は読めなかった。

しかし、それから1ヵ月弱。私は幸運にもドイツ・デュッセルドルフ近くのグレーベンブロイヒで開かれたマカン ワークショップに招かれ、ニューモデルのプレゼンテーションを受けるとともに、ポルシェ テストドライバーによる同乗試乗を体験するチャンスに恵まれた。そこで私が感じたのは、「もはやこの身のこなしはスポーティなSUVではなく、スポーツカーそのものだ」というものだった。

しかも、乗り心地は抜群に快適で、普通のドライバーであれば尻込みするにちがいないオフロードコースを難なく走破するパフォーマンスもあわせて発揮してみせたのである。

Porsche Macan Turbo|ポルシェ マカン ターボ 11

これまでのSUVの概念を打ち崩すポルシェ マカンとは、いったいどんなクルマなのか? ここでは、ワークショップであきらかにされた内容をもとに、その詳細を紹介しよう。

Porsche Macan|ポルシェ マカン

ポルシェ マカンを知る (2)

ベースやパーツが重要なのではない

マカンのボディサイズは全長4,699×全幅1,923×全高1,624mm。これはマカンのべースになったとされるアウディQ5」の全長4,630×全幅1,900×全高1,660mmとよく似た数値だ。ちなみにホイールベースはマカンが2,807mmでQ5は2,810mmと表記されているものの、これは日本で認証を受けるさいには5mm刻みで寸法を申告するためにおきるズレで、実質的なサイズは同一だろう。

マカンのサスペンションはフロントが5リンク式でリアがトラペゾイダル式。ワークショップ会場に展示されていたサスペンションパーツにはアーム類を中心にアウディの刻印が施されているものがおおく、この点からもマカンとQ5の基本設計が共通であることが確認できた。担当エンジニアに質問したところ、マカンには独自のホイールアライメントが採用されているものの、サスペンション ジオメトリー(サスペンションがストロークしたさいのホイールの軌跡)は、Q5と共通とのことだった。

Porsche Macan|ポルシェ マカン

front

Porsche Macan|ポルシェ マカン

rear

もっとも、私たちがよく“サスペンション”と称しているのはホイールの動きを規定するリンク類を指すことがおおい。いっぽう、ヨーロッパのメーカーはこれをアクスル(車軸)と表現する傾向が強く、ポルシェもこのスタイルにならっている。

なるほど、彼らがいうサスペンションであれば、しっかりした剛性を確保しながらも軽量かつ動きがスムーズで、理にかなったジオメトリーが実現されていることが重要であって、メーカーが誰であるかはあまりおおきな問題とはならない。それよりも、スプリング、ダンパー、スタビライザー、そしてブッシュ類を適切にチューニングし、スポーツカーらしいハンドリングと快適な乗り心地を両立させることのほうがはるかに重要なのだ。

ポルシェが選んだのが、まさしくこの手法だった。そしてこれは冒頭でも記したとおり、驚くべき大成功をおさめていた。ワークショップ会場に選ばれたADAC安全運転センターのテストコースにおいて、ポルシェのテストドライバーが操るマカン ターボは深々としたドリフトアングルを保ったまま次々とコーナーをクリアしていくのだが、SUVにもかかわらず腰高な印象を一切あたえることなく、それこそ安定しきった姿勢を保ちつづけたのである。

Porsche Macan|ポルシェ マカン

ポルシェ マカンを知る (3)

安定してドリフトもできるSUV

助手席からドライバーの様子を眺めていても、彼らがやすやすとマカンをコントロールしていることが手にとるようにわかった。まずはセンターコンソール上にあるスポーツプラス ボタン(スポーツ クロノ パッケージにふくまれるオプション装備)を押し、足回り、エンジン、ギアボックス、各種電子制御をもっともスポーティなモードに切り替える。これでスタビリティ コントロールは機能を停止し、あとはドライバーが意のままにコントロールできる状態となる。そしてゆるい弧を描くコーナーに100km/h前後のスピードで進入するさい、軽いブレーキングで前荷重にしてからステアリングを切り込んでいくと、リアタイヤの横グリップが失われ、マカンは絵に描いたようなうつくしいオーバーステアの態勢を保ちながらコーナーを駆け抜けていくのである。

このとき、ドライバーは操舵角を微妙に調整するわけでもなければ、スロットルペダルをあおってわざと不安定な姿勢をつくりだすわけでもない。あくまでも、コーナリングスピードを徐々に上げていったら自然とリアが滑り出し、そこで生みだされたひとつの平衡状態を保っているだけのようにおもえるのだ。もちろん、ドライバーの技量が相当高いことはいうまでもないが、それにしても、乗員にまったく不安を感じさせないままオンロードでドリフトしていくSUVに乗ったのは、これが初めての体験だった。

Porsche Macan Turbo|ポルシェ マカン ターボ 06

Porsche Macan Turbo

Porsche Macan Turbo|ポルシェ マカン ターボ 08

Porsche Macan Turbo

とはいえ、これはあくまでもスポーツプラスを選択してスタビリティ コントロールを解除した状態であることをあらためて確認しておきたい。

マカンにはこのほか、ノーマル モードとスポーツ モードが用意されており、スタビリティ コントロールの“オーバーステア許容度”もそれぞれのモードによってことなる。たとえば、ノーマル モードであればオーバーステアになることなく、リアは確実にグリップしつづけるほか、スポーツ モードではスタビリティ コントロールが作動しつつもわずかなオーバーステアを許容するといった具合で、ドライバーの好みや運転状況におうじて動作状態を選択できるのだ。

だいぶ話が横道に逸れた。話題をサスペンションに戻すと、マカンには金属スプリング仕様、金属スプリング+PASM(可変ダンパーシステム)仕様、エアサスペンション仕様の3種類が用意されている。

ちなみに、エアサスペンションはQ5にないポルシェ独自の設定で、これは前述の試乗車にも装着されていた。その効果は、ただ安定した姿勢を保つのに役立つだけではなく、スポーツプラスでも路面のゴツゴツをほとんど伝えないほどすぐれた快適性をもたらす。

また、ワークショップに用意された試乗車の大半がこの仕様だったことからも、ポルシェがエアサスペンションを基本としてマカンの足回りをチューニングしたことが推測できる。

エンジンはV6 3.6リッター ツインターボ(400ps/550Nm)、V6 3.0リッター ツインターボ(340ps/460Nm)、V6 3.0リッター ツインターボ ディーゼル(258ps/580Nm)の3タイプが用意され、それぞれ「マカン ターボ」、「マカン S」、「マカン S ディーゼル」と呼ばれる(S ディーゼルは日本に導入されない見通し)。今回、私はオンロードをマカン ターボで、そしてオフロードをマカン S ディーゼルで同乗試乗するチャンスを得た。

 

Porsche Macan|ポルシェ マカン

ポルシェ マカンを知る (4)

ポルシェとしての装備と省燃費性能

マカンのギアボックスは7段PDKで、4輪へのトルク配分機構は電子制御式多板クラッチによる。このうち後者は最新の「911 ターボ」にも採用されている方式で、ポルシェらしさをひときわ強くかんじるが、PDKはアウディが開発したものをベースにしているらしい。

じつは、アウディQ5は当初、デュアルクラッチ方式のSトロニックを搭載していたものの、現在はトルコン式の8段ティプトロニックに移行している。おそらくポルシェはダイレクト感を優先してデュアルクラッチ式を選択したのだろうが、今回の同乗試乗では作動がスムーズでシフトショックはまったくかんじなかった。なお、前後のトルク配分は0-100の範囲で調整可能としているが、運転状況や路面コンディションによってきめ細かくトルク配分を設定するため、たとえば「標準状態で40:60」のようないい方はできないとの説明を受けた。

ブレーキはフロントに6ピストンのアルミ モノブロック キャリパーを採用するというぜいたくな設定だ。すべてのグレードで余裕あるサイズが投入されているのも、ポルシェとしては当然のことだろう。また、オプションでポルシェ セラミック コンポジット ブレーキ(PCCB)を装着できる点も注目される。

タイヤは「S」と「S ディーゼル」がフロント235/60R18、リア255/55R18、「ターボ」はフロント235/55R19、リア255/50R19が標準となり、オプションで20インチや21インチが用意される。

ポルシェは今回、前後のタイヤサイズがことなる“ミックスド タイヤ”にあわせたセッティングを入念におこなったとの説明を繰り返したが、じつはカイエンはすべて前後同サイズなので、同社のSUVにとってこれはまったくあたらしい試みということになる。

Porsche Macan|ポルシェ マカン フロント

ちなみに筆者が“乗った”マカン ターボはフロント265/45R20、リア295/40R20というサイズのミシュラン「ラティチュード ツアー エイチピー」を装着していた。このタイヤはM+S規格(いわゆるオールシーズン)だが、オンロードでも安定感ある走りを披露したほか、オフロード(装着タイヤはサイズを含めターボと共通)でも抜群の走破性をしめした。

エレクトロニクス系ではポルシェ スタビリティ コントロールとトラクション マネージメント(オフロードモード付き)が標準装備されるほか、PASMやポルシェ トルクベクタリング プラスなどをオプションで用意。また、オプション装備のスポーツクロノパッケージにはローンチコントロール機能がふくまれており、これをつかえば0-100km/h加速は0.2秒速くなるという。

Porsche Macan|ポルシェ マカン

Porsche Macan

Porsche Macan S|ポルシェ マカン S 23

Porsche Macan S

いっぽう、省燃費技術としてはスタート/ストップ システム、コースティング機能、エネルギー回生などが搭載されるのにくわえ、運転状況に応じてフロントの冷却気採り入れ口を閉じることでエアロダイナミクスを最適化するラジエター シャッターも装備される。この結果、マカン ターボでさえヨーロッパ方式のNEDC値では10.9-11.2km/ℓという省燃費を達成している。

マカンの日本での発売は2014年後半になる見通しである。

※編集部追記(2014年1月23日)|ポルシェ ジャパンは「マカン」の国内予約を2月1日より開始すると発表した。

           
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