『Kolor』デザイナー 阿部潤一インタビュー
Fashion
2015年8月1日

『Kolor』デザイナー 阿部潤一インタビュー

kolor 2009 SPRING&SUMMER COLLECTION

着たときの感覚、素材の触感、バランスの整った服
『Kolor』デザイナー 阿部潤一インタビュー

今回、上のギャラリー写真で紹介するのは『Kolor』春夏コレクションだが、先日、次シーズンの秋冬コレクションの展示会に行った。
会場にはたくさんのバイヤーがいたが、みんな熱心にサンプルを試着して話し合っている。デザイナーの阿部さんに挨拶したら「どんどん着てみてください」と笑顔で薦められた。
最近、展示会に行って作品のようなサンプルを見ることは多いが、「着てみてほしい!」と自らいうデザイナーは本当に少ない。そこに阿部さんの自信を感じた。

まとめ=梶井 誠(本誌)

素材もシェイプもできるだけシンプルに、いい素材で、いいシェイプをシンプルに見せよう

──ブランド名の由来を教えてください

特別な意味がなくて、外来語として耳に入ったときに、「ホワイト」とか「グリーン」とか短い単語で耳なじみのいい、イメージが大きすぎて、逆にイメージしづらいものがよかったんです。

──海外でも人気の高いkolorですが、何ヵ国ぐらいで販売されていますか?

コレクションとしては、ブランド独自で年2回、パリのホテルの一室で服を見てもらっています。海外では、ロンドン、パリ、ニューヨーク、ボストン、ロス、イタリア、ロシア、アムステルダム、シンガポール、韓国、香港など20店舗ほどで販売しています。
バイヤーの反応はそれぞれちがうし、買っていくのもトレンド優先というよりお店のカラーに合わせてという傾向のほうが強いですね。

──阿部さんは日本や世界を意識していますか

海外でビジネスするときも、とくに東京は意識していません。日本人デザイナーだからなにかちがうことができるとは思わないし、トラッドもそれほど意識はしていなくて、あくまで僕が生きてきたなかでのブレザーやカーディガンの自分なりの解釈の仕方ですね。
服はつくる側も着る側もその人の美意識が出るものだし、なにを好むかはその人の価値観でしかなく、そういう意味で自分の思いは服を通してメッセージになっていると思います。

──kolorのデビューの2005年春夏コレクションから「変わっていないもの」は?

kolorを立ち上げるときに思ったのは、前のブランドを辞めて、新たにブランドをやろうと思ったわけではなく、もう一度ゼロにもどって、自分の居場所を探していこうと思ったんですね。
前のブランドは10年やっていて、それとの差別化も念頭には置いていましたが、ターゲットを設定したりという戦略的に考えることもなく「正直に、自分の気分を服で見せよう」「自分が正しいと思うことをやろう」と思いました。

──それが一番難しいことですが……

とくに最初のコレクションは、前ブランドと比較されることはわかっていましたが、変なギミックを使うのはやめようと思って、素材もシェイプもできるだけシンプルに、いい素材で、いいシェイプをシンプルに見せようと。

──それが「変わっていないもの」なら「変わったもの」は?

もちろん、変わろうという努力は毎シーズンしています。変わらなきゃいけないし、変わっていくべきだと思うけど、そう思って変えられるものでもない。変えてウソになってもイヤだし。

(↑Photo Galleryへ)

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大切にしているのは、シェイプ(パターン)、素材、縫製仕様の3つのバランス

──コレクションではシーズンテーマを設定されますか

とくにみなさんに向けて言えるようなセールス的なテーマはなくて、スタッフ間で共通認識となる感覚的なフレーズとか、ぼんやりとした定規のような方向性がぶれないものはあります。
そのテーマへのアプローチは、「昔観た映画のあのシーンのあのスタイル」というような具体的なものを広げていくこともあるし、まったく抽象的な“軽さ”とか“ケミカルさ”など糸口をつかむようなシンボリックなワードの場合もあります。

──2009年春夏のテーマは?

2005年春夏のファーストシーズンから天然素材の良さを素直に出していこうと思っていて、今シーズンはそれにポリエステル+綿のようなハイブリッドなものに興味がでてきました。ナチュラルな天然素材にケミカル素材をミックスしたり、コーディネイトのなかでミックスさせたりして、素材感には意識しています。
素材が変われば、着たときの動きや感触、見たときの感覚はまったくちがってくるので、人に与える意識が変わってきますね。

──おすすめのルックの解説をお願いします

これまでは上をタイトに、下をワイドにするバランスが多かったのですが、今シーズンは分量感のあるトップスの身頃に対して下が細いシェイプを多用しています。あとは、ドレスシャツにケミカルなパンツを合わせたり、素材の光り方が化繊に見える色をくわえながらコーディネイトしたり。
製品染めや製品洗いのアイテムも多いですね。素材のタッチ感や感触は大事で、ウールだと思って着ているんだけど、「なんか軽くてシャリシャリしていて着ていて気持ちいいんだよね」というような新鮮さを感じてほしい。そういうニュアンスを伝えるために、シェイプ(パターン)と素材と縫製仕様の3つのバランスには気を配っています。その3つのバランスで、僕たちが「いい」と思っている気分やニュアンスを感じてもらえれば……。

──好きな色はありますか

ベーシックには紺や茶。黒はあまり使いませんね。あとこの何シーズンか好きなのは、ブルーグレーやくすんだエンジ、ダルなオレンジなどですね。

──では、今後のブランドについて

服というプロダクションとしての機能性とクオリティと、時代性を感じさせるものの両方向性をバランスよくもっている服が、ひとに新しい気分を感じさせたり、感覚を変えてあげたりすると思っています。そういう部分はずっと変わらないですね。でも、こうやって言葉にするのは簡単だけど、実際につくるのは本当に難しいですね。

──ありがとうございました

アベ ジュンイチ

文化服装学院卒業後、いくつかのブランドを経て、2004年5月に設立、同年7月に2005春夏コレクションを発表し、スタートさせたのが『kolor(カラー)』。
ドレスからカジュアルまでをフォローする幅広いコレクションは、オリジナリティ溢れるカッティングとこだわりの素材選び、時代性を加味することによって、ひとつのアイテムとしての完成形を追求し、海外においても評価が高い。

           
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