Truefitt and Hill|トゥルフィット&ヒル|モニターレポート|橋本記一(小学館『メンズプレシャス』編集長) ロンドン本店体験記(前編)
Beauty
2015年3月12日

Truefitt and Hill|トゥルフィット&ヒル|モニターレポート|橋本記一(小学館『メンズプレシャス』編集長) ロンドン本店体験記(前編)

トゥルフィット&ヒル モニターレポート

橋本記一(小学館『メンズプレシャス』編集長) ロンドン本店体験記(前編)

王室御用達かつ世界最古の理髪店

小学生のころ観たテレビドラマで、維新後の東京の床屋に、隠居した勝海舟が毎日のようにヒゲを剃るためだけにやって来ては、市井の人々と話すというのがあって、それを観たときに、「ヒゲだけ剃ってもらいに散髪屋に行くなんて、めちゃめちゃ贅沢やなあ」と、恐ろしく大人の世界をのぞき見たような気になった記憶がある。そのころは、東京の街にも京都の西陣あたりにも、床屋でヒゲだけ剃ってもらう旦那衆が多くいたのだろう。ジェントルマンズ倶楽部ひしめくロンドンのセントジェームズストリートには今も、そんなヒゲだけを剃りに来る男たちがいるし、そんな伊達男たちが通う理髪店があると聞いて、行ってみた。

写真と文=橋本記一

さあ、店内に入ってみよう

アドレスはまさにセントジェームズストリート71番地。ロンドンの中心、名だたるジェントルマンズ倶楽部がいくつもならぶ高貴な空気の漂う地域だ。向いにはジョン・ロブの本店があるし、数々の王室御用達店ひしめく地にある。もう、これだけで“ジェントルマンへの道”が開けた気がするではないか。

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日本で販売されているものと同じ化粧品がならぶ
理髪師のカウンター

その理髪店の名は「トゥルフィット&ヒル」なんと1805年創業。ギネスブックに登録された、世界最古の理髪店なのだ。

1805年というとイギリスでは有名なトラファルガーの海戦が行われた年だという。日本では、文化文政年間というから、あの篤姫が生まれる30年ほど前のことになる。それから脈々と続く200年以上のこの店の歴史には、ニコライ皇帝、ウエリントン公、ウインストン・チャーチルと、まるで「歴史の教科書か!?」と言いたくなるような顧客がズラリ。ケーリー・グラント、オスカー・ワイルド、フランク・シナトラも顧客だったという。

さあ、店内に入ってみよう。王室よりのワラント(証明書)をいただいていることを感じさせる品格ある青い扉を開くと、まずはグルーミングキットやメンズコスメの売り場があり、イタリアやフランスからの観光客でにぎわっている。ヨーロッパの男たちにとってここが特別な場所であり、観光名所にもなっていることがわかる。ヘアカットをしたり、シェービングをしたりする理髪スペースはさらにその奥だ。その手前には、これこそ、名高き“ロイヤルワラント(王室御用達証明証)”が燦然と輝く。

社会的地位に関係なく、どの顧客もすべて同じ顧客である

理髪スペースは、華美ではなく、マホガニー調ウッドを使ったシックで落ち着いた雰囲気。髪を切ってもらったり、ヒゲを剃ってもらったりする席は計4つ。何よりの特徴は、店内に飾られた肖像画や肖像写真の数々。日本のお店なら、単なる飾りでしかない肖像画や写真が、ここでは実際にこの店に通った歴史的偉人、著名人であるというから恐れ入る。しかも、ジョージ5世やフィリップ殿下、チャーチルなどその偉人ぶりがまた凄い。その偉人たちに見下ろされながら、ヒゲを剃ってもらうことになるのだ。

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この店の広報担当のグラハム・バーバー(芸名ではなく本名!)によると、ここトゥルフィット&ヒルの揺るぎないポリシーは、「社会的地位に関係なく、どの顧客もすべて同じ顧客として扱う。どんなお金持ちも、どんな偉い人も、“ただひとりの例外”を除いて、すべてこの店に来ていただいて、この場でヘアカットもシェービングもさせていただいております」なのだそうだ。

セレブリティは自邸にヘアデザイナーを呼んで髪を切ることも珍しくないこの国にあって、もっとも名声ある理髪店がこのポリシーを貫いているのは奇跡に等しい。

店内に飾られた肖像画の数々

「そうはいっても、政府の要人も来られるわけだから、僕らのような一般の客と隣り合わせて、髪切ってもらうわけにはいかないでしょう?」と聞いてみた。

グラハムは顔色ひとつ変えず、「エックスプライムミニスター(前首相)の場合は、まずSPが先に入ってきて店内をチェックされまして、それからご本人様が入っておいでになりました。特別室があるわけではありませんので同じように、ここに座っていただいておりました」

「え! じゃあぼくがヒゲを剃ってもらうのに座った同じ椅子に、一国の首相が座っていたかもしれないってこと!?」

「はい」グラハムの答えはあまりにも素っ気ないが、それだけに真実みが伝わってくる。

「じゃあ、ぼくが座った椅子にチャーチルも座ったかもしれないの!?」

質問の声は絶叫に近くなっていく。

「いえ、15年前に若干の改装をしておりますので、それはないかと存じます」

ガーーーン、しかしブレアとは同じ椅子だったかもしれないと思うと、王室御用達かつ世界最古の理髪店でのシェービングに、ますます期待が高まっていくのだった。

トゥルフィット&ヒル モニターレポート
橋本記一(小学館『メンズプレシャス』編集長)_vol.2
につづく

トゥルフィット&ヒル

           
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