連載・柳本浩市|第32回 西澤明洋氏とブランディングデザインについて語る(前編)

連載・柳本浩市|第32回 西澤明洋氏とブランディングデザインについて語る(前編)

How to see design

柳本浩市×西澤明洋対談

なぜ私がブランディングデザインの仕事をするようになったのか

第32回 西澤明洋氏とブランディングデザインについて語る(前編)

前回の田子さんのデザインマネジメントにつづき、今回は「ブランディングデザイン」というちょっと聞き慣れないお仕事をされている西澤明洋さんです。デザインを語る上で、ブランディングなど見えない部分も総合的に考えた計画が必要不可欠になっています。そんなブランディングデザインについて、西澤さんに詳しくお聞きし、デザイナーや組織がどう考えるべきかのヒントを探ってみたいと思います。

Text by YANAGIMOTO Koichi

「本当にこれからの分野なんです」(西澤)

柳本 学生時代に建築を学んでいた西澤さんが、なぜブランディングデザインの道に進んだのか。その経緯をお聞かせ願えますか。

西澤 わかりました。では今日は、なぜ私がブランディングデザインの仕事をするようになったのかと、ブランディングデザインの将来の話をしていこうと思います。普段はそういった話はあまりしないので不慣れですが……よろしくお願いします。
私はもともと、京都工芸繊維大学というところで建築を学んでいました。今は京都大学に行かれましたが、当時は建築家の岸 和郎先生もいらっしゃって、そういうなかに4年間在籍していたので、将来は建築家になるんだ、と思って勉強していましたね。当時の校風も「男なら独立してアトリエ」という学校なので、自分もいずれ建築家になるものだと思っていました。

ただ、所属していたのが山内陸平先生の研究室でして、この先生は京都工芸繊維大学にはじめて「デザイン経営工学科」という学科を立ち上げた方なんですね。山内先生に師事していたことで、建築と同時にデザインマネジメントの勉強をはじめたんです。

柳本 デザインマネジメント、ですか。

西澤 はい。デザインマネジメントというのは、本当にこれからの分野なんです。たとえば、日本では1980年代のCIブームに端を発していて、そのころから企業が取り入れはじめました。日本で学術的な研究がはじまったのは私が学生のころからで、まだ十数年前の話です。この「デザインマネジメント」を学ぶための学科ができたのは、母校の京都工芸繊維大学が日本で一番最初だったんです。それまでそんな学科や学部なんてどこにもなかった。デザイン科の1コマくらいで教えられることはあっても、きちんと「学科」として体系的に研究がはじまったのは、私の在学中からでしたね。

そういう気運を目の当たりにして、これは面白いなと。で、その「学科」の立ち上げ時に、山内先生とその後を引き継がれた藤戸幹雄先生のお手伝いに入ったんです。

ティーチングアシスタントという、学部生を教える立場で先生の補助をさせていただいたり、論文なんかも書いていくうちにデザインマネジメントをもっと研究していこうと思いました。一応、籍は「建築」の方にあったのですが、大学院時代はデザインマネジメントにどっぷりでした。デザインマネジメントの研究が、建築なんかよりもずっと面白いと思ったんですね。

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柳本 そうですか(笑)。もともとはなぜ建築を志したのですか。

西澤 たとえば、デザインをまったくわからないひとにとって「デザインってどんなもの?」と聞くと、アートみたいな感じを想像しがちなんですよ。すごいスケッチを描いたり、曲線を描いたり。でも建築はどちらかというと「秩序」なんですよ。「秩序の美しさを作る」みたいなところがありまして。たとえば都市計画もそうですし、建築にしても構造があってこそのデザインになるし。そういった秩序立てた工学的な話もありつつ、美しさを追求して、かつ実用的っていうのが、建築を面白いと思ったところですね。

で、デザインマネジメントはそれよりももっと面白いと思ったんですね。建築がコントロールできる世界は、ハードのみなんですよ。たとえば、OB訪問なんかで卒業生に話を聞きに行くじゃないですか。大手の設計事務所とか、独立してやっている先生とか。そういった人たちに話を聞くと、みんな仕事の範囲が「建物を作って終わり」なんですよね。それに対して、ソフトの部分までタッチできるのがデザインマネジメントなんです。「企業活動そのものをデザインしていく」というか。ここがデザインマネジメントの本域だなと。そこにすごく魅力を感じました。

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「企業経営をどのようにデザインするか」(西澤)

柳本 建築からデザインマネジメントにシフトして、卒業後はどうされたんですか。

西澤 就職活動は建築方面はいっさい受けていません。もう完全な路線変更で(笑)。大学院時代にはもうデザインマネジメントしか勉強していませんでした。

柳本 卒業制作は。

西澤 卒業制作は建築でしたね。大学は四年間建築でしたので。大学院からは論文で生態的デザインをやっていました。いわゆるエコロジカルデザインなんですけど、もう少し広義のエコロジカルデザインを研究していました。

柳本 それで、建築ではない就職活動となると。

西澤 まずはデザインマネジメントをきちんとやっている会社を調べましました。まずぱっと思い浮かんだのが広告代理店でしたが、ここだけは絶対にやめておこうと思いました。「広告業」を主体にしたコミュニケーションというのは、まずセンターに「広告」ありきとなります。広告が主な収益源になるので、広告が機能しないということは業態としてあり得ない。だから、どんなことをやっても最後は広告に行き着くようなビジネススキームになっている。

私が研究していたデザインマネジメントとは、「ブランディング」を中心にみることであり、企業の本質というのは広告ではありません。広告というのは企業コミュニケーションのなかでも枝葉の話で、使えたら使うけれど、使わなくてももちろんいいもの。デザインマネジメントとは、企業経営をどのようにデザインするかということが重要になります。

柳本 なるほど。

西澤 ほかにもコンサルタント会社は一応候補に考えました。しかし、ああいったところはデザインしないんですよ、コンサルするだけで。そっちの分野も興味があったし、勉強していたので行けたのかもしれないですけど、私は「デザイナー」になりたかったんです。つまり「デザインしない=形を作らない」という点でコンサルタントもちがうなと。やはりデザインとは最後に形を作ることだと思うので。

今「形のないデザイン」とか「広義のデザイン」とか言いますけど、当然そう思うこともありますし、そういう段階のデザインも大事にしていますが、それでも私は、デザインとは最後に形にすることだと思っているんですね。アウトプットが勝負なんです。そこに携われないのは本意ではないなと思いました。それでここまで考えていくと、専門分野に特化した職種ではなくて、一度企業に勤めてものづくりに全体的にかかわらないとダメだなと思うようになりました。それでメーカーにいこうと決めたんですね。日本はものづくりの国なので。

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「デザインマネジメントを極める」という大きな目標

柳本 かなり具体的に考えた進路ですね。

西澤 ものづくりの分野で国際的な競争力と自社の技術もあって、企画もデザインも販売まで一貫してやれる、一連のフローをもっている企業がいいなと思いました。となると電機メーカーか自動車メーカーしか思いつかなかったんです。今の自分からすれば中小企業でももっと面白いところが挙げられるんですが、当時は学生だったのでそこまではわからなかった。

まず、入社したらスタイリングばかりやらされると聞いていたのでクルマはないなと思いました。それはデザインマネジメントの本質ではないので。それで、電機メーカー。電機のなかでもソニーや松下のようにコンシューマー中心にやっているところよりは、広く公共機器までふくめてやっている東芝、日立、三菱、富士通、この辺かなと。幅広い視点でなんでもやろうと決めて、縁あって東芝に入ることができました。東芝には2年間在籍していましたね。

柳本 東芝ではどんな仕事をされていたんですか。

西澤 東芝のなかでは社会インフラや事業開発をやるチームにデザイナーとして所属していました。そこはあまり新卒が入るようなところではなくて、普通は7、8年のキャリアを経て行くようなところでした。仕事も事業開発のプロポーザルとかも担当しなくてはならないですし。

私の場合は建築が根っこにあったので「プレゼンや空間デザインもできるだろう」ということで引っ張っていただいて。そこでいろいろなプロジェクトにかかわらせていただきましたが、これがめちゃくちゃ面白かったわけですよ。しかし逆に物足らなかったのは会社のブランディングにあまり触れられないことで……東芝自体のブランディングなんですけど。

柳本 それはずいぶんと大規模な「ブランディング」ですね。

西澤 私としては少なくとも事業ブランドのデザインくらいはやってみたいわけですよ。でも入社2年目の若造にそんな責任は任せてくれない。当然ですよね(笑)。 でも自分としてはすごくできると思っているので、企業ブランディングをすぐにでも手がけるために東芝をやめました。これが独立したきっかけで、それから「ブランディング」を専門にするデザイン会社を作ろうと決意して、このEIGHT BRANDING DESIGNを立ち上げました。

これは私の個人的な目標なのですが、大学を卒業して社会に出る際に、「デザインマネジメントを極める」という一生をかけて追求するような大きな目標を立てています。今もまだ道半ばです。EIGHT BRANDING DESIGNでは、デザインマネジメントのなかの一つの分野である「ブランディング」の分野を掘り下げることを会社のミッションとしています。ですので、ブランディング以外の仕事は基本的に受けない体制になっています。いろんな企業のコミュニケーションをデザインにより良くしていったり、企画までお手伝いしたり、必要であれば経営のアドバイスまで踏み込むこともあります。そういった形でブランディングデザインにより、クライアントおよび社会に貢献していくことが私たちの仕事です。

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西澤明洋|にしざわあきひろ
ブランディングデザイナー。1976年滋賀県生まれ。株式会社エイトブランディングデザイン代表。
「ブランディングデザイン」という視点のもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動をおこなっている。「フォーカスRPCD®」というリサーチからプランニング、コンセプト開発までふくめた一貫性のあるデザイン開発手法は、多方面より高い評価を得ている。
主な仕事にプレミアムクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、信州味噌「ひかり味噌」、近畿日本鉄道「上本町YUFURA」、キリンビバレッジ「生茶」など。グッドデザイン賞、PENTAWARDS、THE ONE SHOWをはじめ、国内外の受賞多数。 著書に『ブランドをデザインする!』(パイ インターナショナル)、『ブランドのはじめかた』、『ブランドのそだてかた』(ともに日経BP社/共著 中川 淳)。
http://www.8brandingdesign.com/

ABOUT
YANAGIMOTO Kouichi

幼少のころ、植草甚一に影響を受けジャズと古本に目覚め、その後小学校1年生のときに発売された『Made in USA cartalog』でアメリカ文化の虜に。 そのころから古着と家具などを集めはじめる。その後、現在に至るま …