TAG Heuer × McLaren |タグ・ホイヤーの故郷を訪ねて
Watch & Jewelry
2015年3月24日

TAG Heuer × McLaren |タグ・ホイヤーの故郷を訪ねて

マクラーレンMP4-12Cスパイダーでスイスを走る

タグ・ホイヤーの故郷を訪ねて(1)

モータースポーツと縁の深いウォッチブランドとして知られる「タグ・ホイヤー」。今回、モータージャーナリストの大谷達也氏は、タグ・ホイヤーとパートナーシップを結ぶ「マクラーレン」の最新モデル「MP4-12Cスパイダー」に乗り込み、本社ファクトリーのあるラ・ショード・フォンへと向かった。タグ・ホイヤーの故郷で、時計作りの神髄を求めて。

Text & Photographs by OTANI Tatsuya

モータースポーツと縁の深いタグ・ホイヤー

「スーパースポーツカーのマクラーレンMP4-12Cに乗ってタグ・ホイヤーの工場見学に行きませんか?」と誘われた私は、喜んでこのツアーに参加することにした。

先に断っておくと、私の本職は自動車関連の話題をリポートするライターであって、時計は専門外である。ただし、ファンの皆さんであれば先刻ご承知のとおり、タグ・ホイヤーと自動車の結びつきはことのほか深い。

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

マクラーレンとのパートナーシップを組むタグ・ホイヤー。F1ドライバーのセルジオ・ペレス氏を中央に、左がマクラーレン会長のロン・デニス氏、そして右がタグ・ホイヤー代表取締役社長兼CEOのジャン-クリストフ・ババン氏

たとえば、1970年に製作された映画「栄光のル・マン」では主演のスティーブ・マックイーンがタグ・ホイヤー(当時ホイヤー)のリストウォッチ「モナコ(Monaco)」を腕に巻いていたし、F1チーム「スクーデリア・フェラーリ」のスポンサーとなった1971~79年にはホイヤーのロゴが“跳ね馬"に掲げられていた。

その後、1985年にF1チーム「マクラーレン」のオーナー会社でもあったタグ・グループの投資によって、社名を現在のタグ・ホイヤーに改称。1992~2003年にはF1グランプリの公式計時を担当していた。

というわけで、自動車というよりはモータースポーツと縁の深いタグ・ホイヤーだが、マクラーレンとのパートナーシップはスタートして28年が経過したいまも続いており、今回の「マクラーレンに乗ってタグ・ホイヤーに行こう!」ツアーも、両社の深い友好関係がきっかけとなって発案されたものだった。

さて、おなじスイスのジュネーヴに滞在中だった私は、定価3,000万円の高価なオープンカー、「マクラーレンMP4-12Cスパイダー」に乗り込むと、およそ140km離れたタグ・ホイヤーのラ・ショー・ド・フォン工場を目指した。

今回は時計のリポートなのでクルマの話は詳しく書かないが、これからスイスを訪れる人たちのために申し添えておくと、この国の高速道路にはスピード取り締まり用カメラ(いわゆるオービス)がとにかく多いのでご注意されたい。なにしろ、ざっと5kmに1台の間隔でカメラが置かれていたのである。

ちなみに、スイスの高速道路は制限速度が120km/h。最高速度329km/hのMP4-12Cスパイダーで走っていると、ほとんど停まっているくらいゆっくしりしたスピードに感じられたが、ここはガマン、ガマン。およそ2時間をかけて、私はのんびりと目的地まで走りきった。

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

タグ・ホイヤー(当時ホイヤー)のリストウォッチ「モナコ」を腕に巻き、映画「栄光のル・マン」の主演を務めたスティーブ・マックイーン

マクラーレンMP4-12Cスパイダーでスイスを走る

タグ・ホイヤーの故郷を訪ねて(2)

歴代の名作がずらり

ラ・ショー・ド・フォンにあるタグ・ホイヤーのファクトリーは、世界第4の規模を誇る時計メーカーとは思えないほどコンパクトなものだった。もっとも、これは巨大な自動車工場を見慣れてきた私の勝手な思い込みに過ぎない。時計はそもそも小さなものだし、同じスイスのジュラ地方、フランス国境に近いコルノルにも彼らは立派な工場を持っている。だから、門外漢の私が「小さい」と心配する必要はないのだ。

とはいえ、建物の内部に足を踏み入れてからは、文字どおりため息の連続だった。

最初に案内されたのは2008年にオープンした「タグ・ホイヤー 360ミュージアム」。照明を暗く落としたその室内には、まるで夜空に輝く星のように美しいショーケースがいくつも並べられ、そこにタグ・ホイヤーの歴代の名作がずらりと展示されていたのである。

そのなかの白眉は、なんといってもマックイーンが映画「栄光のル・マン」で使っていた本物のモナコだろう。ファンであればご存じのとおり、マックイーンは複数のモナコを所有しており、そのうちの1個は映画撮影の際、スペアとして用いられた。

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

1971年にフェラーリF1チームのオフィシャルタイムキーパーを務めたタグ・ホイヤー

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

写真左の電子時計「ル・マン・センチグラフ(Le Mans Centigraph)」も、もちろんミュージアムに展示されている

このスペアが昨年8月にオークションで799,500ドル(当時のレート:78.7円で計算しても約6,300万円!)の値がついて話題を呼んだそうだが、ここに展示されているのはスペアではなく、撮影に使われた本物とのこと。その価値は、もはや想像しただけで気が遠くなるほど高価であることは間違いないだろう。

その他にも、自動車や航空機のダッシュボード用として1950年に製作された「ヘルブ&オウタヴィア(Hervue and Autavia)」、それに1960年に製作された自動車のラリー競技用ウォッチ「モンテカルロ・マスタータイム(Monte-Carlo Master Time)」など、モータースポーツシーンなどで活躍した時計の数々に思わず目を奪われてしまう。

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

1960年に製作された自動車のラリー競技用ウォッチ「モンテカルロ・マスタータイム(Monte-Carlo Master Time)」

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

スティーブ・マックイーンが劇中で使用した本物の「モナコ(Monaco)」

また、いまからおよそ100年前の1916年に、1/100秒の精度を機械式ストップウォッチで実現していたタグ・ホイヤーは、電子式ストップウォッチの開発にもいち早く取り組んでおり、このミュージアムにも、世界初の小型電子時計で1/1000秒の精度で計測できた1966年製の「マイクロタイマー(Microtimer)」、1970年代にフェラーリがF1のテストで活用していた「ル・マン・センチグラフ(Le Mans Centigraph)」などが展示されていた。

マクラーレンMP4-12Cスパイダーでスイスを走る

タグ・ホイヤーの故郷を訪ねて(3)

タグ・ホイヤーのファクトリーに潜入

続いて、いよいよ時計工場の内部に足を踏み入れる。ここに入室する際は、大学の研究員などが身につけているのとよく似た白衣を着用しなければいけない。見学者の衣服からホコリが舞い散るのを防ぐための措置だ。

ここでは、カレラで用いられるムーブメント「キャリバー 1887」のアッセンブリーがおこなわれていたが、その光景は、ある意味で私の想像とおりであり、また別の意味では完全に想像を裏切るものだった。

はじめに“想像どおり”だったことを記すと、ほとんど目に見えないほど小さな部品を、技術者たちがひとつひとつ手作業で組み付けている様子は、まさに私が想像していた時計工場そのものだった。

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

いっぽうで“想像が裏切られた”のは、技術者たちがおこなう手作業をサポートする機器が、思いのほか現代的なものだった点にある。たとえば、細かな部品を取り扱うセクションでは、作業台の上を特殊なCCDカメラで撮影し、モニターに映し出された画像を観ながら部品を組み付ける、ということがおこなわれていた。

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

また、アッセンブリーは流れ作業で、ムーブメントは一工程ごとに隣のデスクへと移動していくのだが、この最新式ベルトコンベアの動きが極めて精密で興味深かった。というのも、このベルトコンベア、作業台を地上に見立てると“地下"に備え付けられているのだが、技術者が作業をおこなうときには、ムーブメントが地下から地上にすっと浮上し、これが終わるとすっと地下に沈み込んで隣の机に移動する、という動きを繰り返すのである。

その様子は、SF映画に出てくる宇宙船の操縦室で、必要な計器やレバー類が必要なときだけ目の前に現れ、用が済むとデスクの下にしまい込まれる動きに酷似していて、非常に未来的な印象を受けた。

マクラーレンMP4-12Cスパイダーでスイスを走る

タグ・ホイヤーの故郷を訪ねて(4)

毎時28,800回の鼓動

こうして作られるキャリバー 1887は毎時28,800振動をおこなうことで知られているが、作業の途中では、ムーブメントの発するメカニカルな音を電子処理し、どの程度の誤差があるかを計測する行程があった。

担当の技術者によれば、日差は2~8秒でなければならないと決められているそうだ。今回、一緒にツアーを回った参加者のひとりは、これを聞いて「じゃあ、オレの○○○○○を計測してくれ!」といって自分の腕から時計を外すと、この担当者に有無をいわさずに渡した。

やむなくこれを受け取った担当者が彼の腕時計を件の装置にセットすると、なんと、その日差は21秒だったのである。つまり、キャリバー 1887であれば規格外とされる誤差だ。結果を知らされた参加者が落ち込んだのは当然のこと。

もっとも、機械式時計はメンテナンスやコンディションなどによって精度にばらつきが出てくるものである。だが、この結果は実に意外だった。

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

TAG Heuer|タグ・ホイヤー

見学コースはさらに品質保証部を巡り、この工場で時間の基準とされるGPS信号を用いた特別な時計などを見せていただいたが、そこで感じられたのは、1860年の創業当時から時計の精度向上に心血を注いできた彼らの誇りとこだわりであった。

ツアーの締めくくりとして、新作のカレラを実際に手にとって眺めたとき、私はそのフェイスやケース、ブレスレットの美しい仕上がりに思わずため息を漏らしたが、それとともに、その内部で毎時28,800回の鼓動を繰り返すムーブメントの精緻さにも思いを馳せずにはいられなかった。

タグ・ホイヤー コンシェルジュ
Tel. 03-3613-3921
http://www.tagheuer.co.jp

           
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