ジャガー XFに試乗|Jaguar
CAR / IMPRESSION
2014年12月4日

ジャガー XFに試乗|Jaguar

Jaguar XF|ジャガー XF

ジャガーは足がちがう

ジャガー XFに試乗

ジャガーのラインナップでは、もっとも小さなセダン「XF」は、ジャガーのあたらしいファミリーメンバーだ。メルセデス・ベンツ「Eクラス」が代表する、Eセグメントに属し、2007年、いちはやくモダンでダイナミックなデザインを採用して登場した。以来、デザインの変更エンジンの変更とアップデートをかさね、現在、日本では、おもに3つのバリエーションが用意されている。OPENERSは、2013年現在、最新のXFを大谷達也氏とともにテストした。

Text by OTANI Tatsuya
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko

英国車は足がちがう

イギリスのクルマに乗ると、足まわりのまとめ方の上手さにいつも惚れ惚れする。まず、彼らがどんな“足”をつくろうとしているかが、はっきりとよくわかる。

ゆったりストロークするラグジュアリーな設定か、俊敏な切り返しを狙ったスポーティな設定か、それともダンピングをしっかり効かせた安定感重視の設定か……そうした様々なテイストを1台のクルマからつくり出せるうえ、乗り心地やハンドリングを高い次元でバランスさせている。

かの大英帝国には、自動車のサスペンションにかんする秘伝が残されているのではないかと、そんな妄想を働かせたくなるくらいだ。

Jaguar XFR|ジャガー XFR

Jaguar XF|ジャガー XF

そのいっぽうで、エンジンの存在感がやや弱いのもイギリス車の伝統といえる。

いやいや、戦前のロールス・ロイス「シルバーゴースト」に積まれていた6気筒 7.5リッターや、ジャガーの「XKエンジン」(1949-1992年)のような“名作エンジン”は存在するけれど、特に1980年代以降は「ありもので済ませる」傾向が徐々に強まっていった。

これは大英自動車産業の規模的な意味での衰退とも関係あるのだが、イギリスのF1チームが「シャシーづくりは上手いがエンジンはヨソから買ってくる」のを伝統としていることとどこか似ていて少し興味深い。

最新のジャガーXFを3台乗り比べてみて、おなじようなことを思い起こした。

2013年モデルのXFにはエンジンタイプ別に2.0、3.0、Rと3つのグレードが用意されているが、その足まわりが見事に作り分けられているのである。

Jaguar XF|ジャガー XF

ジャガーは足がちがう

ジャガー XFに試乗(2)

ジャガーの最新エンジンはというと

いっぽう、Rに積まれるV8 5.0リッター スーパーチャージャーエンジンは、もともとジャガーが開発したもので、その完成度が高かったことから、当時ジャガーもその一員だったフォードグループの他ブランドでも幅広く使われた“名作”。

そして今年からあらたに追加された3.0は、このV8の2気筒分を“ちょんぎって”V6 3.0リッターに仕立て直した新作エンジン。

“ちょんぎった”エンジンなんてロクなものじゃないだろうとおもいがちだが、素性のよさがなせる技か、こちらも素晴らしい仕上がりだったことは後で述べる。

Jaguar XFR|ジャガー XFR

こちらがXFRに搭載されるV8エンジン

Jaguar XF 3.0 Premium Luxury|ジャガー XF 3.0 プレミアム ラグジュアリー

こちらは2気筒を“ちょんぎった”V6エンジン

ここまでは「イギリスにも名作エンジンがある」ことをしめすエピソード。

英国流エンジン合理主義

つづいては「いいエンジンがそこにあるなら、わざわざつくらなくても買ってくればいいじゃない?」というイギリス流エンジン合理主義に基づく話をしよう。

というのも、2.0に積まれる直4 2.0リッター直噴ターボは、フォードのいわゆる「エコブースト」エンジン。これがフォード「エクスプローラー」やレンジローバー「イヴォーク」に搭載されて高い評価を得ていることはご存知のとおり。

「だったら、それを積もうよ」ということで、ジャガーではフラッグシップモデルの「XJ」につづいて、このXFにも採用されることになった。

なお、ギアボックスはどのグレードでもZF製の8段ATが組みあわされ、後輪を駆動する。

Jaguar XF|ジャガー XF

ジャガーは足がちがう

ジャガー XFに試乗(3)

XF 2.0 ラグジュアリーからテスト

最初に乗ったのは「XF 2.0ラグジュアリー」。車重はおなじエンジンを積む“格上”の「XJ ラグジュアリー」より20kgだけ軽いが、ボディがアルミからスチールに改められているせいか、XJ ラグジュアリーでかすかに感じられたアイドリング時の細かなバイブレーションが一掃されていて、静謐な印象はこちらのほうが一枚うわて。

実は、XJ ラグジュアリーでは100km/h 8速巡航時にもコモリ音のようなノイズが耳に届いたが、XF 2.0 ラグジュアリーにはそれもなかった。ひょっとすると、XJ ラグジュアリーで感じたことは個体差によるものかもしれないが、いずれにせよ、これだけでXF 2.0 ラグジュアリーの好感度がぐんと高まっていった。

しかも、箱根近辺の狭い“つづら折れ”では、かなりの上り勾配だったにもかかわらず、235/55R17サイズのピレリ「P7」が終始スキール音をたてるようなペースを楽々と維持できた。

Jaguar XF 2.0 Luxury|ジャガー XF 2.0 ラグジュアリー
Jaguar XF 2.0 Luxury|ジャガー XF 2.0 ラグジュアリー

市街地から高速走行まで含め、サルーンとして上品な使い方をする限り、このエンジンでまったく不満は覚えないだろう。

いっぽう、乗り心地はふんわりとした手触りのなかに適度なソリッドさが感じられるタイプ。おかげで、ハンドリングは“超シャープ”というほどのこともないが、狭いワインディングロードでも思いのままに操れて、クルマとの強い一体感が味わえた。

総じて乗り心地、ハンドリング、動力性能の設定が見事で、どんな使い方にも対応できるオールラウンダーとおもわれた。

Jaguar XF|ジャガー XF

ジャガーは足がちがう

ジャガー XFに試乗(4)

XF 3.0はプレミアムラグジュアリーをテスト

つづいて試乗したのは、新作エンジンのV6 3.0リッター スーパーチャージドを積む「XF 3.0 プレミアム ラグジュアリー」。

このクルマ、オプション設定される245/40R19サイズのダンロップ「SPスポーツ01」を履いていたせいか、XF 2.0 ラグジュアリーで見られた柔らかさは影を潜め、どしっとした乗り心地をしめす。

ただし、路面からの直接的なショックはうまく“いなして”くれるので、「硬い」という印象はあまりない。

Jaguar XF 3.0 Premium Luxury|ジャガー XF 3.0 プレミアム ラグジュアリー

ステアリングのパワーアシストもXF 2.0 ラグジュアリーより確実に1ランクは少なく、保舵力は重め。また、直進付近の座りがよく、直進状態に戻ろうとする復元力も強めなことから、延々と高速道路を突き進むような走り方を得意とするタイプと見た。

絹のようにスムーズ

2気筒“ちょんぎった”V6エンジンは、そんなことが信じられないくらい滑らかなフィーリングをもたらす。

そのスムーズさは「これで十分」とおもわせた「XF 2.0 ラグジュアリー」を明らかに凌ぎ、プレステージサルーンにふさわしい静粛性を実現している。動力性能の高さは申し分ない。それどころか、スロットルを踏みつづけると軽い恐怖感を覚えるほどの速さを見せつける。

というわけで、そうしたポテンシャルはいざというときのためにとっておき、普段は絹のようなスムーズさを存分に味わう使い方をしたほうが無難だろう。

Jaguar XF 3.0 Premium Luxury|ジャガー XF 3.0 プレミアム ラグジュアリー
Jaguar XF 3.0 Premium Luxury|ジャガー XF 3.0 プレミアム ラグジュアリー

プレミアム ラグジュアリーで標準装備となる“プレミアム ソフトグレイン レザー”で覆われたシートの手触りは柔らかく上質で、こちらもラグジュアリーなひとときを過ごすにはぴったりだ。

Jaguar XF|ジャガー XF

ジャガーは足がちがう

ジャガー XFに試乗(5)

最後はXFR

最後に試乗した「XFR」は、普通の「XF」とは別物と考えたほうがいい。

なにしろ最高出力は510ps/6,000-6,500rpmだから、メルセデス・ベンツ「Eクラス」でいえば「E 63 AMG」(最高出力は524ps/5,250-5,750rpm)に相当することになる。したがって動力性能の高さは呆れるばかり。しかも、5.0リッターの排気量を生かし、低速域から大迫力の加速をしめしてくれる。

もっとも、スロットルペダルの踏みだしの反応が穏やかにしつけられているため、ハイパワーでも扱いやすいのは大いに助かる。

Jaguar XFR|ジャガー XFR
Jaguar XFR|ジャガー XFR

この大出力を受け止めるのは3.0よりもさらにソリッドなサスペンションだが、ダンパーの動き出しが実にスムーズなため、路面からの衝撃をしっとり滑らかに受け止めてくれる。その心地よい乗り心地は20インチタイヤ(前:255/35R20、後:285/30R20 ダンロップ「SPスポーツ MAXX」)を履いていることが信じられないほど。

しかも、エンジンノイズやロードノイズがしっかり抑えられているので、おとなしく走っている限り、あくまでも上質なプレミアムサルーンと映るはずだ。

XFRの二面性

ところが、ひとたび5.0リッター スーパーチャージドエンジンにムチを入れると、この獰猛なネコ科の動物はまったくちがった一面を見せはじめる。

たとえば、タイトコーナーへの進入で強めにブレーキをかければテールがほどよく流れてノーズはインを向き、クリッピングポイントを過ぎたところでスロットルを踏み込めば再びリアがアウトに流れ、いち早くコーナーから脱出する態勢が整うという具合なのだ。

しかし、だからといってリアのグリップレベルが低いとおもってもらっては困る。どちらもドライバーが意図して操作したときに、狙った通りのスライドを呼び起こせるだけであって、のべつ幕なし滑るわけではない。

Jaguar XFR|ジャガー XFR

その見事にコントロールされたスライド感には惚れ惚れとするばかりである。

しかも、ここまでスポーティなドライビングを、乗り心地がよくて静かなシャシーで実現しているところがすごい。XFがデビューした当時のフラッグシップモデル「SV8」がやや荒々しい仕上がりだったのとは大違いである。

基本的なスタイリングやメカニズムに大きな変化がないように見えても、実はこの5年間でXFは長足の進歩を遂げていたようだ。

Jaguar XFR|ジャガー XFR

ジャガーは年産5万台強、ランドローバーを含めたグループ全体でも年間36万台ほどを丁寧につくりつづける小さなメーカー。

そんな彼らが、規模の点で3倍も4倍も上まわるライバルメーカーと互角の製品をつくり上げていること自体、驚き以外の何物でもないといえる。

spec

Jaguar XF 2.0 Luxury|ジャガー XF 2.0 ラグジュアリー
ボディサイズ|全長4,975×全幅1,875×全高1,460mm
ホイールベース|2,910 mm
トレッド 前/後|1,560 / 1,605 mm
最小回転半径|5.5 メートル
トランク容量(VDA値)|500 リットル
重量|1,760 kg
エンジン|1,998cc 直列4気筒 直噴DOHC ターボ
最高出力| 177kW(240ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|340Nm/ 1,750 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|FR
タイヤ |235/55R17
最高速度|241 km/h
0-100km/h加速|7.9 秒
燃費(JC08モード)|9.1 km/ℓ
価格|595万円

Jaguar XF 3.0 Premium Luxury|ジャガー XF 3.0 プレミアム ラグジュアリー
ボディサイズ|全長4,975×全幅1,875×全高1,460mm
ホイールベース|2,910 mm
トレッド 前/後|1,560 / 1,605 mm
最小回転半径|5.5 メートル
トランク容量(VDA値)|500 リットル
重量|1,870 kg
エンジン|2,994cc V型6気筒 直噴DOHC スーパーチャージャー
最高出力| 250kW(340ps)/ 6,500 rpm
最大トルク|450Nm/ 2,500 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|FR
タイヤ |245/40R19(オプション設定)
最高速度|250 km/h(リミッター作動)
0-100km/h加速|5.9 秒
燃費(JC08モード)|7.5 km/ℓ
価格|829万円

Jaguar Jaguar XFR|ジャガー XFR
ボディサイズ|全長4,975×全幅1,875×全高1,460mm
ホイールベース|2,910 mm
トレッド 前/後|1,560 / 1,570 mm
最小回転半径|5.5 メートル
トランク容量(VDA値)|500 リットル
重量|1,960 kg
エンジン|4,999cc V型8気筒 直噴DOHC スーパーチャージャー
最高出力| 375kW(510ps)/ 6,000-6,500 rpm
最大トルク|625Nm/ 2,500-5,500 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|255/35R20 / 285/30R20
最高速度|250 km/h(リミッター作動)
0-100km/h加速|4.9 秒
燃費(JC08モード)|6.6 km/ℓ
価格|1,200万円

           
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