CLS 63 AMG シューティングブレークに試乗|Mercedes-Benz
Car
2014年12月5日

CLS 63 AMG シューティングブレークに試乗|Mercedes-Benz

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|
メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

スポーティセダンだけが持つ独特の“味”をシューティングブレークで

CLS 63 AMG シューティングブレークに試乗

いまや4ドアクーペの代名詞とも言えるメルセデス・ベンツ「CLSクラス」のラインナップにあらたにくわわった「CLS シューティングブレーク」。今回、そのトップに君臨する「CLS 63 AMG シューティングブレーク」を試す機会を得た。最高出力524ps(386kW)の新世代AMG製V型8気筒エンジンを搭載し、ワゴンスタイルのクルマとしては、もはや過剰ともいえるスペックを持つこのモデルには、メルセデス・AMG独自の世界がある。小川フミオがテストドライブ。

Text by OGAWA Fumio
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko

Sクラスではフォーマルすぎる

メルセデス・ベンツ「CLS シューティングブレーク」は、ちょっと変わった格好のメルセデスだ。でも、このところ、自動車メーカーは“ちょっと変わっている”ことを競いあっている感もあるので、ユーザーが考えるべきは、その点を評価できるか、だろう。

2012年10月に日本発売されたCLS シューティングブレークは、2011年に、ひと足早いデビューを果たした2代目CLS クーペの姉妹車。ワゴンっぽいリアスタイルが、シューティングブレークの特徴だ。でも、ワゴンと呼ぶにはカーゴルームはそれほど大きくない。メルセデスでは、「スポーツクーペ ツアラー」と名づけているけれど、そんな名前はこれまで聞いたことがない。自動車界では一般名詞化している「シューティングブレーク」という車名から成り立ちをさぐるほうが早道だろう。

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

ステーションワゴンを意味する“ブレーク”を、フランス語からいただいたシューティングブレーク(フランスだとブレックだけれど)とは、おもに英国で知られているジャンルで、狩りに行くために、高級クーペを改造してワゴンのような荷室をつけたモデル。1970年代までは英国の自動車誌を開くと、後ろのほうに「あなたのクルマをシューティングブレークに改造します」という、専門業者の広告が掲載されていたものだ。

ではなぜ、メルセデスがシューティングブレークなのだろう。ひとつは、ドイツや英国で堅調な人気を保ちつづけるファストバック車ともまたちがう、あたらしいスタイル提案ができること。もうひとつは、ステーションワゴンほどの荷室を必要としないユーザーに向けての機能性が提供できること。そんなことがおもい浮かぶ。

乗っての印象はというと、新奇性に逃げ込むこともない。たいへんまっとうによく出来ている。CLSクーペでもそうだったが、いたく感心するほどの完成度の高さだ。「Sクラス」ではフォーマルすぎてパーソナルカーにあわないとするユーザーなどが主なターゲットだとおもうが、操縦性でも快適性でも、そしてブランドイメージでも、まったく失望することはないだろう。

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|
メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

スポーティセダンだけが持つ独特の“味”をシューティングブレークで

CLS 63 AMG シューティングブレークに試乗(2)

メルセデスのバランス感覚

CLS シューティングブレークのラインナップは、手持ちのカードを巧妙に組みあわせたものだ。ベースモデルは後輪駆動の「CLS 350 BlueEFFICIENCY シューティングブレーク」(930万円)。その上に4マティックという四輪駆動システムをそなえた「CLS 550 4MATIC BlueEFFICIENCY シューティングブレーク」(1,240万円)がくる。そして頂点には、スポーツ部門であるAMGがチューニングをほどこした「CLS 63 AMG シューティングブレーク」(1,680万円)が鎮座する。

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

ここでは、ツインターボチャージャーが装着されたパワフルな新世代のV型8気筒搭載のCLS 63 AMG シューティングブレークを中心に書いてみたい。しかし、である。「このクルマについて書くことはほとんどない」とした自動車ジャーナリスト仲間がいる。意外な言葉だが、CLS 63 AMG シューティングブレークのハンドルを握ると、それもなんとなく分かる、とおもうように……なにしろ、このクルマを買おうというユーザーにたいして指摘すべき欠点は、ほとんど見当たらないからだ。

どれだけすごいのかというと、524ps(386kW)の最高出力をもつ、超ド級のエンジンパフォーマンスがまず挙げられる。それをいたずらに誇張してマッスルカーにするのは簡単かもしれないが、CLS シューティングブレークはあくまでバランスにこだわる。

運転を楽しめるが、しかしスポーツカーのような生々しい喜びは抑えている。メルセデスのユーザーが慣れているキャラクターを裏切らない範囲で、コンフォート性にスポーツ性が加味されている。ふたつがいわば、きれいなヒモのように撚られている。

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|
メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

スポーティセダンだけが持つ独特の“味”をシューティングブレークで

CLS 63 AMG シューティングブレークに試乗(3)

このクルマだけがもつ味

最高出力306ps(225kW)の3.5リッターV6を搭載するCLS 350でも充分すぎる動力性能をもつが、CLS 63 AMGのパワー感は圧倒的だ。エンジンは“新世代の”と枕詞がつく5.5リッターV8。ターボチャージャーを2基装着して、386kW(524ps)の最高出力と、1,400rpmの低回転域から700Nm(71.3kgm)の最大トルクを発生する。

もちろん数字上だけでなく、そのパワフルさは走り出した途端にわかる。そもそもエンジンのスタートボタンを押したとき、バイパスバルブを使って、甲高いエンジン音が響き渡る演出からして、このクルマがタダモノでないことを感じさせる。アクセルペダルはほとんど踏みこまないでも、クルマは力強く発進する。

ハンドリングは、AMGモデルではとくにギア比を変えてあり、よりクイックな設定というだけあって、メルセデス的な味を重さや転舵感に残しながらも、操縦の楽しさを強調したという意図がびんびん伝わってくるほどだ。

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

かつ、AMGでは徹底的にベースモデルに手をいれていて、アクスルは前後ともいわゆる“ハの字”のネガティブキャンバーがつけられ、高速域でのコーナリング性能のさらなる向上をねらっているという。それもコーナーが楽しいから納得いく。

サスペンションは前が新設計のコイルスプリング、後ろがセルフレベリング機構を備えたエア式となる。さらにダンパーは走行によって減衰特性を瞬時に調節する電子制御の「AMG RIDE CONTROL スポーツサスペンション」となっている。

これらを統合するのが、センターコンソールに設けられた「AMGドライブユニットシステム」のセレクターノブ。

効率を重視した「Cモード」にはじまり、スポーツ性がより高くなるモードまで、4段階でサスペンションの硬さやエンジンの特性が変わる。

結果は、ほかの2モデルよりはるかにパワフルであり、過剰さに満ちている。理知的に考えれば、ふつうにこのクルマを楽しもうとおもったら「CLS 350」でも充分だ。

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

でも、もっとよく考えてみれば、ダウンサイジング化の進む昨今ではとくに、3.5リッターエンジンでもやりすぎなのだ。ならば、一種の玩具のように、「AMGドライブユニットシステム」を操作して、ポルシェやフェラーリともちがう、スポーティセダンだけが持つ独特の“味”を楽しむのもいいのではないか。そうおもいたくなってくる。

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メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

スポーティセダンだけが持つ独特の“味”をシューティングブレークで

CLS 63 AMG シューティングブレークに試乗(4)

AMGというキャラクター

CLS 63 AMG シューティングブレークはたいへんよくできているので、理性的に判断すると、「AMGドライブユニットシステム」は不要。「Cモード」だけで、充分に魅力が感じられる。加速時でもアクセルペダルにほとんど力を入れる必要のない大トルクをもちつつも、回転マナーがいいエンジンがもたらす上昇感もすばらしい。不足はなにもなく、「これがCLS 63 AMG シューティングブレークというモデルなんですよ」と言われれば、大歓迎してしまう。

昨今のドイツ車では猫も杓子もといぐらい、ダンパーの硬さやエンジンの出力特性がいくつものパターンで用意され、ドライバーはそれを選べるようになっている。でも自動車好きとしては、そこにメーカーの迷いがあるような気がして、なんとなく腑に落ちないのだが、AMGのキャラクターの激変ぶりは、それゆえに「もう許す」と言いたくなるほどだ。

CLS シューティングブレークを体験すると、メルセデスがいかに大型車づくりで抜きんでているかがよくわかる。ここで何度も触れたバランスのよさはすばらしい。独自のテイストもうまく活かされている。眼を横に転じると、たとえばライバルのアウディは、姉妹会社であるフォルクスワーゲンのおかげもあり、小型車も上手につくる。

最近ようやく(というべきか)メルセデスも、新型「Aクラス」で、AMGが当初から開発に参画したモデルを投入するなど、フォルクスワーゲンやアウディ的な高性能コンパクトにも本腰を入れてきた感はあるが……大型車の分野では圧倒的だ。

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

室内は、2,875mmのホイールベースに全長4,960mmのボディを載せているだけあって、前席はSクラスと遜色ないほどの広さを持つ。もちろん、クルマの性格を考え、それなりにタイトにデザインされている。

いっぽう、ダッシュボードのつくりもよく、居心地がよい。後席もレッグルーム、ヘッドルームともに、175cmの成人でも窮屈なおもいもなく乗っていられる。サイドウィンドウが小さめなので、閉じ込められた感がなきしもあらずだが、逆にタイトさを好むひとには、意外に居心地がいいかもしれない。

シューティングブレークとは、さきに書いたようにおもに狩りのためのクルマとなっているが、欧米ではいざしらず、日本ではゴルフィングブレークとして興味を持つひとが多いだろう。そのときは2名乗車で、リアシートを倒して生まれる大きなカーゴ用スペースを利用するといい。

spec

Mercedes-Benz CLS 63 AMG Shooting Brake|
メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG シューティングブレーク

ボディサイズ|全長5,000×全幅1,880×全高1,415mm
ホイールベース|2,875 mm
トレッド 前/後|1,625 / 1,605 mm
最小回転半径|5.2 メートル
トランク容量(VDA値)|590-1,550 リットル
重量|1,980 kg
エンジン|5,461cc V型8気筒 直噴DOHC ツインターボ
最高出力| 386kW(524ps)/ 5,250-5,750 rpm
最大トルク|700Nm(71.3kgm)/ 1,750-5,000 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(AMG SPEEDSHIFT AMG)
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|255/35R19 / 285/30R19
燃費(JC08モード)|8.8 km/ℓ
価格|1,680万円

           
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