アウディの未来都市|Audi
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2015年1月23日

アウディの未来都市|Audi

Audi Urban Future Initiative|アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ

アウディ フューチャー シティ

OPENERSでもすでにお伝えしているようにアウディは、未来の都市と交通を考えるコンペを主催している。さる2012年10月18日にその授賞式が開かれた。優勝は、へヴェラー&ユーン アーキテクチャー。人口が急増するボストン/ワシントン エリアにおける交通インフラストラクチャーの新提案が審査委員たちに高く評価された。

Text by OGAWA Fumio

アウディ アーバン フューチャー イニシアティブとは?

「アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ」とは、自動車メーカーとしてはめずらしい、都市の未来を視野に入れたアワードだ。建築家、社会学者、未来学者を巻き込み、世界各都市が抱えている問題に対して有効な解を提示したコンテンダーから1社(一組)を選び、同時に「ドイツ国内の建築賞として最高額」(アウディのプレス資料)の賞金も贈る。

「世界的な知は12年ごとに倍になると言われています。(中略)わたしたちは協働して、未来の交通をかたちづくり、未来を探っていきたいと考えています」

そう語るのは、アウディAGのルパート シュタートラー取締役会会長だ。

固有の交通問題を抱える世界5都市について、5つの提案を募り、なかでも「もっと革新的で未来志向」と判断されたプロジェクトが表彰される。

Audi Urban Future Initiative|アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ

会場となったイスタンブル スアダ島

アワード授賞式の場として選ばれたのは、イスタンブール。2012年に初のデザイン ビエンナーレが開かれた機会をとらえて、この地で各コンテンダーによるプレゼンテーションと、それにつづく審査発表がおこなわれた。

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アウディ フューチャー シティ (2)

シェアウェイという発想

第二次大戦後、600万の人口が3,000万まで増加したボストン/ワシントン エリアをテーマにしたへヴェラー&ユーン アーキテクチャーのプロジェクトは、「もっとも熟慮され、さらに2030年における実現可能性を秘めているところを評価」したいと、審査員のひとりである英国のデザイン理論家ジョン・サッカラは、会場のレストランで聴衆を前に語った。

ヘヴェラー&ユーン アーキテクチャーが提案したのは、広がってゆく都市における交通システム。「シェアウェイ」と名づけられたインフラストラクチャーを構築し、乗り継ぎと移動がスムーズかつ素早くおこなえるシステムの重要性を説く。

具体的なソリューションとしては、現在の道路や建物の上に、各種の交通機関のプラットフォームを構築する。最上レベルでは航空機が発着する。核になるコンセプトは「効率的な移動」を実現させることだそうだ。

都市生活者はスマートフォン(やアウディ コネクト)などを使って位置情報の交換などをおこないつつ、公共交通システムの恩恵を受けることになる。

具体的な交通機関についての言及はないが、建築家が用意したイラストレーションには、クルマの層、電車の層、航空機の層などが複層的に描かれている。利用者は、上下移動で各交通機関にアクセスできるようだ。複合化した交通の動線は「バンドル」、日本語だと「束」と表現されている。

Audi Urban Future Initiative|アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ

Audi Urban Future Initiative|アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ

「優勝プロジェクトは、未来の都市に求められるものの視覚的な予言ともいえます。人口過密化を阻止し、大都市をいかに再開発するかについての、みごとな調査書にもなっています」。アウディAGのルパート シュタートラー取締役会長は述べた。

「距離はアクセスのよさで克服され、あたらしい移動方法によって生活の利便性が向上する」とヘヴェラー&ユーン アーキテクチャーは述べている。さらには、交通手段の個人所有の必要もなくなるという。

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アウディ フューチャー シティ (3)

将来の都市の基本的な姿

今回参加した建築家やプランナーは、ボストン/ワシントン エリアをはじめ、イスタンブール、ムンバイ、珠江デルタ、サンパウロといった、それぞれ都市交通に問題を抱えているエリアを本拠にしている。

たとえば、優勝したヘヴェラー&ユーン アーキテクチャーの「シェアウェイ」は、広いハイウェイの上に他の交通用プラットフォームを構築するアイディアがベースになっており、おなじシステムは広い道を持たず丘陵が多いイスタンブールでは採用できない。

しかし、とアウディAGではつづける

「極端な特徴を持つ地域への解決策として提案されたプロジェクトでも、未来の交通問題を解決する糸口はいくつも見つかるものなのです」

それがこのようなプロジェクトを推進する意義なのだと、同社の広報では話す。

Audi Urban Future Initiative|アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ

シュタートラー取締役会長とエリック・ヘヴェラー氏

アウディが挙げた、どの都市にも適用可能なベーシックな考えは、下記のものという。

・メガシティでは空間がなくなってゆくため、自動車は効率よい利用を考えなくてはいけない。

・都市エリアでは住居のコストがより上昇してゆく傾向にあるため、家計が圧迫され、自動車を買うことが難しくなってゆく。そこでカーシェアリングの重要性が増してゆく。

・都市ではデジタル革命が起こる余地がつねに存在し、クルマも一種のインターフェイスの働きを担ってゆくだろう。

・インターモーダル モビリティと呼ばれる、各種交通機関のシームレスな接続が、持続可能な交通の基本になる。

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アウディ フューチャー シティ (4)

未来におけるパーソナルモビリティとは?

「未来ではどのようなかたちで、個的な移動が可能となるか」

これはいまの私たちにとっても大変重要なテーマであり、これにたいする答は都市のあり方のなかに潜んでいる、とアウディではする。未来の都市づくりを考えてゆくことが、自動車メーカーの生き残る道とみるアウディの態度は、たいへんよく理解できる。

Audi Urban Future Initiative|アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ

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他の参加者のプレゼンテーションは下記のようだった。

ベルリンと比較して7倍の人口密度を持ち、1平方kmあたり2万8,000人が住むインドのムンバイでの交通はいかなるものになるか。

ムンバイの建築事務所CRIT(Collective Research Initiatives Trust)は、「移動とは交通にかぎる問題ではない。そこでは、移住や下層住宅の高級化などが生まれ、空間だけでなく、ひとの関係性や、仕事やレジャーのあり方や、生産性にいたるまで、あらゆるものが影響を受けていくでしょう」と語る。

そこでCRITの提案は、ますます複雑化する交通の生態系をはじめ、ムンバイという都市をガイドしてくれるツール。そこにはセンターとコネクトするスマートフォンのようなデバイスも含まれる。

中国、香港、マカオを結ぶ三角地帯である珠江デルタの問題解決も、今回の「アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ」におけるテーマのひとつ。このプロジェクトに取り組んだのは、地元だ。

小さな工場がひしめくように建っているこのエリアは、2万6,000の人口が、この30年で1,500万人へとふくらんだ。流通システム、交通システム、歩道など、道路への手当は急務だ。

NODEアーキテクチャ&アーバニズムの提案は、「適材適所」ともいうべきもので、交通網を整理して再編することを目指す。

たとえば、物流と歩道は切り離し、地上と地下ともに使いながら道路網を構築する。それによって、無秩序でないが自由な空間をつくりだし、そこで農園や野生動物のサンクチュアリの実現を目指す。

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アウディ フューチャー シティ (5)

地上を離れるか、地上に戻るか?

ブラジルの人口の約10パーセントを擁し、さらに膨張をつづけるサンパウロでは、クルマでの移動が難しいほど過密化の様相を呈している。1930年代いらい、政府は自動車での移動を前提としたインフラ整備に力を入れてきたが、こちらに力を傾注するあまり、都市内での公共交通の整備が追いつかず、増えつづける人口ゆえに、居住者は移動の自由を奪われている。

サンパウロのアーバンシンクタンクは、クルマでの移動に依存せず便利に、かつ快適に生活していく都市のありかたを提案した。

現在同地には約20の高層ビルが、住人不在のまま役所の管理下に置かれている。彼らはそこに注目して、ビルとビルをケーブルカーでつなぐことで水平の移動を可能にするプロジェクトを提案している。縦方向の移動はエスカレーター。三次元の交通システムの利点は、地上の混乱した交通体系に手をつけず、問題解決がはかれるところにある。

Audi Urban Future Initiative|アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ

Audi Urban Future Initiative|アウディ アーバン フューチャー イニシアティブ

5つめの提案は、イスタンブールの建築設計事務所、スーパープールによるものだ。

通勤時間帯は激しい渋滞を経験するものの、地震国であるだけに地下鉄の延伸は考えにくいとされる。増えつづけるクルマと生活者との共存はどのような形でなされるべきか、それが地元で活動するスーパープールのテーマだった。

スーパープールの提案は、意外にも、路上を生活者に取り戻すこと。そのために、タクシーの増車を提案する。そしてライドシェアなど効率的な輸送がおこなわれる。

スーパープールによると、「タクシー1台で自家用車20台に匹敵する輸送効率をもつ。それによって、路上空間に余裕が生まれる」という。

交通の流れは整理され、クルマの通行が禁止される道路や広場がイスタンブール各所に生まれる。一般に開放され、たとえばスポーツから政治集会にいたるまで、週末にそこでなにをするかは、スマートフォンのアプリを使い、投票で決めることになる。

「かつては為政者が権力を誇示する場所だった大広場が、こうして大衆にゆだねられることになります」とスーパープールは語る。

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