ニッポンのデザイナー連続インタビュー(2)柴田文江

ニッポンのデザイナー連続インタビュー(2)柴田文江

特集|いま世界が注目する日本のプロダクトデザイナー

ニッポンのデザイナー連続インタビュー(2)

柴田文江

デザインという知恵を絞ること

文房具や家電から、カプセルホテルまで、幅広く日用品のデザインなどを手がける工業デザイナー柴田文江氏。柴田氏が手がけるデザインは、あたたかさやぬくもり、優しさなどと形容されることが多いが、そのデザインの背景には、工業製品に不可欠なテクノロジーをやわらかいデザインに翻訳する、緻密な思考のプロセスがある。よりよく暮らすための知恵をデザインで共有したい、と語る柴田氏のデザインには、プロダクトが本来持つかたちへの志向とその力強さにくわえ、社会におけるデザインの役割とは何か、という問いかけがこめられている。

Text by KATO Takashi

そのかたちが生まれる背景

──柴田さんのデザインの原風景や、原体験を教えて下さい。

山梨の実家が織物をやっていまして、子供のときからクラフトマンのなかで育ちました。当時はすべてが手づくりで、たくさんの手間をかけて、ひとつの織物をつくっていました。そういうクラフトのなかにいたというのは、いま私がものづくりをしているベースになっていると思います。

──柴田さんは、普段誰もが日常的に使用するプロダクトのデザインを数多く手がけていらっしゃいますが、日用品のデザインを手がける際に大切にしていることはありますか?

「9h/nine hours」 京都のカプセルホテル 2009年

「体温計 MC-670」 OMRON 2004年

あくまでも暮らしや生活が中心で、物が主役にならないようにつくりたいと思っています。自分がデザインしたものが暮らしのなかで、でしゃばらない、使う人が自由になれるようなものをデザインしたいといつも思っています。それが結果的に長く大事に使ってもらえることになると思うんです。

──柴田さんのデザインの仕事には、新しいかたちを生み出すことと、オムロンの体温計のように、リニューアルするという仕事があると思いますが、そのふたつに違いはありますか。

それがとても不思議で、私はいつも奥ゆかしく物をデザインしていきたいと思っているのですが、あの体温計のデザインでいえば、それまでの体温計と比べてまったく違う、ある意味アヴァンギャルドな、のびのびとしたデザインをしていると思うんです。あの形は中身の機構からきているのですが、それでも世の中では、女性デザイナーがデザインした、優しいデザインであると言われます。だから、もしかすると、暮らしの邪魔をしないとか、いまよりも自由な暮らしのためにということは、デザインを極力しないとか、デザインを縮こめていくことでもないと思うんですね。そのものの本質がデザインでとらえられていれば、最後のアウトラインは大胆でもいい。

奥ゆかしく物をつくりたいと言っておきながら、言っていることが真逆に聞こえるかもしないのですが、デザインを考えている最中は、のびのびと考えることで、デザインの本質をとらえたいと思っているんです。そうやって本質的なところをとらえることで、「普遍」になっていくんだと思います。

buichi
今夏発表されたばかりの酒井産業の子供向け木製品ブランド「buchi」。付属の木製パーツを本体のスリットに差し込めば、クルマ同士を連結させて電車にもなるクルマのおもちゃや、倒したときに心地よい木の音色を楽しめるドミノなど、遊び心のつまった作品に。2012年

 

「くるま」素材|カエデ

「いす」素材|ブナ合板

「ドミノ」素材|カエデ

──工業デザインは、個人にだけでなく社会にも役立つべきものであると思いますが、社会に役立つというのは、工業デザインにおいて具体的にどのようなことだとお考えですか。

まず、私は社会性のないものはデザインではないと思っています。クライアントは、私どものような職種にとってはとても大事な存在ですが、デザインという本質において一番に大事かといえば、そうでもないと思っています。

その意味でデザイナーという存在は、不思議な二枚構造を持っていると私は思っていて、クライアントのためにといいつつ、クライアントを説得することで、その先にあるユーザーや社会に伝えたり、影響を与えていきたいと思っています。
企業や組織のポテンシャルを活かしつつ、どのようにすれば一緒に社会に貢献できるのかを考える必要があるわけです。それを狭い視野で、マーケットや他社がこうやっているからとなりがちなのですが、本当はもっと広い視野で、社会や世の中に対して役立つことをすべきだと思うんです。デザインの社会的な役割としては、そこをどう崩していけるか。それがしいては企業のためになります。それと、世の中が困っていることを解決することも、デザインのひとつの役割なのですが、もしかすると便利や快適を追及するのではなく、人間が人間らしくあることを考えるための知恵こそがデザインだと、私は思っています。