特集|第70回カンヌ映画祭 受賞なくとも素晴らしい作品|MOVIE
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2017年7月4日

特集|第70回カンヌ映画祭 受賞なくとも素晴らしい作品|MOVIE

特集|第70回カンヌ映画祭を振り返る

2017年 映画祭 リポート(1)

世界最高峰の映画祭が厳戒体制の下、5月17日~28日の12日間にわたり南フランスの高級リゾート地カンヌで盛大に開催!映画ライター、吉家容子さんが、現地の様子や作品を振り返る。惜しくも受賞を逃した作品も興味を惹かれるものばかりだ。

Text by KIKKA Yoko

すべての点において他の追従を許さないカンヌ映画祭

カンヌの最大の魅力は、何といってもその風光明媚なロケーションと開催時期だろう。人気スターに監督、ジャーナリストや映画ビジネス関係者が世界中から集う会期中は、陽光きらめくコートダジュールのこぢんまりとした高級リゾード地(イメージ的には、ご近所のニースが熱海でカンヌは葉山かな)が、映画祭一色に染まる。

続々と現地入りした大物スターが、レッドカーペットでフラッシュの洪水を浴びる姿も映画祭の名物で、メイン会場周辺は詰めかけた観光客や映画ファンで黒山の人だかりとなる。

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また、上映作品のハイレベルさも周知されている。三大映画祭(ベルリン/カンヌ/ヴェネチア)の中でも抜群に質が高く、カンヌのコンペティションに選出されたとあれば、たとえ受賞を逃したとしても作品に箔がつくのだ。

今年は70回目というアニバーサリーイヤーの記念イベントが目白押しだったカンヌだが、過去の最高賞パルムドール受賞者などカンヌゆかりの映画人が一堂に会した記念撮影が実に圧巻で、まさに大物揃い。その顔ぶれを見ただけでも映画祭の“格”の違いを実感させられた。

ハイレベルな作品が多かったものの、評価は割れ気味

日本から河瀨直美監督の『光』が選出され、賞の行方が大いに注目された長編コンペティション部門の審査員は、スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督(委員長)ら総勢9名。出品作は19本(動画配信サービス“Netflix”制作のオリジナル映画2本の選出が物議を醸した)で、過去に主要賞を受賞した監督や常連監督が居並ぶラインナップであったが、最高賞のパルムドールと次点のグランプリは、カンヌのコンペ初参戦者の頭上に輝く結果となった。

受賞結果は次ページの通りだが、まずは、無冠ながらも強く印象に残った2作品を紹介!

『Okja/オクジャ』
韓国の人里離れた山奥で10年間、謎の巨大生物“オクジャ”を大切に飼育してきた素朴な少女が大都会ニューヨークへと渡り、多国籍企業ミランド社のCEOの陰謀に立ち向かう姿を特殊な動物愛護団体の動きも絡めて活写した一大娯楽大作。

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Netflixの潤沢な資金によるスケールの壮大さと最新VFX技術の駆使、そしてティルダ・スウィントン、ジェイク・ギレンホールをはじめとする豪華なメジャー俳優の起用も話題であったが、一番感服したのは、ゾウとイノシシを掛け合せたみたいなオクジャのユニークな造形で、その愛嬌のあるつぶらな瞳に完全にヤラレてしまった。

こんなにも愛とユーモアに満ちた独創的な物語を構築できしてしまうポン・ジュノ監督の恐るべき才能に驚愕しつつ、それに太刀打ちできる日本人監督の不在にはタメ息が出た。

『Jupiter's Moon/ジュピターズ・ムーン』
ハンガリーの鬼才コーネル・ムンドルッツォ監督のコンペ初参戦作にして、シリアスな難民問題を描いた異色のSFファンタジー。不法に国境を越えようとした難民青年が、警官に発砲されて負傷する。ところが、そのショックにより、地面から浮き上がって空中を漂う能力を得た彼は……。

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度肝を抜かれたのは、その驚異的な“浮遊描写”だ。アメコミヒーロー映画のスピード感あふれる飛翔とも、無重力空間の宇宙遊泳ともまったく異なる映像マジックに目が釘付けになってしまった。

Page.02受賞作品紹介


特集|第70回カンヌ映画祭を振り返る

2017年 映画祭 リポート(2)

【受賞結果】
☆パルムドール
『The Square/ザ・スクエア』 リューベン・オストルンド監督
☆第70回記念名誉賞
ニコール・キッドマン
☆グランプリ
『BPM(Beats per Minute)/BPM (ビーツ・パー・ミニット)』 ロバン・カンピヨ監督
☆監督賞
ソフィア・コッポラ監督 『The Beguiled/ザ・ビガイルド』
☆男優賞
ホアキン・フェニックス 『You Were Never Really Here/ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア』
☆女優賞
ダイアン・クルーガー 『In The Fade/イン・ザ・フェイド』
☆審査員賞
『Loveless/ラブレス』 アンドレイ・ズビャギンツェフ監督
☆脚本賞
ヨルゴス・ランティモス/エフティミス・フィリップ 『The Killing of a Sacred Deer/ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア』
リン・ラムジー 『You Were Never Really Here/ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア』

『The Square/ザ・スクエア』

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現代アート美術館の著名なキュレーターが、携帯電話や金品を意表をつくやり方で盗まれ、それらを取り戻そうとした彼の姑息な行動が、思わぬ事態とトラブルを巻き起こし、さらには準備中の企画展のために雇ったエージェンシーが制作した映像のネット炎上や、パーティ会場での余興パフォーマーの暴走騒動が絡んでいくシニカルかつ毒気に満ちた物語で、監督は前作『フレンチアルプスで起きたこと』でも気を吐いたスウェーデンの異才リューベン・オストルンド。主演のデンマーク人俳優クレース・バングを始め、国際色豊かなキャストも好演している。

『BPM(Beats per Minute)/BPM (ビーツ・パー・ミニット)』
エイズへの偏見が強かった90年代初頭のパリを舞台に、過激な啓蒙活動を行うグループに加わった若者たちの姿を描いた群像劇で、本作が監督3作目となるフランスの俊英ロバン・カンピヨの演出力が光っていた。

『The Beguiled/ザ・ビガイルド』

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『ダーティハリー』のドン・シーゲル監督&クリント・イーストウッドのコンビによる異色サスペンス『白い肌の異常な夜』の原作小説をソフィア・コッポラ自らが脚色して再映画化。舞台は南北戦争末期のヴァージニアの男子禁制の寄宿舎。そこに運ばれた重傷の北軍兵士を巡って“女の園”に、性的緊張感やライバル心が生まれ、驚くべき事態へと発展していく。スリラー色を薄めて得意のガーリームービーに仕上げたコッポラの手腕が鮮やかで、当時の米国南部を見事に捉えた映像も出色だ。

本作で突飛な行動に走る校長役を好演した人気女優ニコール・キッドマン(今年のカンヌで上映された彼女の出演作はなんと4本!)と、女性たちを虜にする兵士役を母国アイルランドなまりを全開にして魅力的に演じたコリン・ファレルは、脚本賞を受賞した不条理劇『The Killing of a Sacred Deer/ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア』でも共演しており、話題となった。

これまではヤンチャな“悪ガキ”的イメージが強かったコリン・ファレルだが、俳優としての資質&コメディ・センスは抜群で、『The Killing of a Sacred Deer/ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア』では、復讐の標的となり翻弄される一家の主であるカリスマ外科医役で登場。その熱演ぶりと『The Beguiled/ザ・ビガイルド』の記者会見での率直かつ好感度大の発言で、会場を沸かせていた姿が印象的だった。

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残念ながら河瀬直美監督の『光』も受賞を逃したが、キリスト教関係団体が選出するエキュメニカル審査員賞を獲得した。なお、他部門に出品された日本映画は4本で、三池崇史監督の『無限の住人』はコンペ外の特別招待部門で、黒沢清監督の『散歩する侵略者』はある視点部門で、平柳敦子監督の『オー・ルーシー!』は批評家週間部門で、井樫彩監督の『溶ける』は学生映画対象のシネフォンダシヨン部門で、それぞれ上映されている。

           
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