祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.20 民間人宇宙飛行士 高松聡さん(前編)

祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.20 民間人宇宙飛行士 高松聡さん(前編)

祐真朋樹対談

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今回のゲストは、日本人初の民間人宇宙飛行士としてISS(国際宇宙ステーション)に旅立つ予定の高松聡さん。広告代理店の大手、電通勤務時代には世界初の宇宙ロケで制作したCMで注目を集めるなど、幼い頃から宇宙への憧れを持ち続けてきたという。宇宙飛行士になるための試験や訓練から、高松さんの宇宙への熱い思いまで話を聞いた。

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Interview by SUKEZANE TomokiPhotographs by SATO YukiText by ANDO Sara (OPENERS)

元電通マンが叶えた宇宙飛行士になるという夢

祐真朋樹・編集大魔王(以下、祐真) 高松さんは民間人宇宙飛行士ということですが、ヴァージン・ギャラクティックなどで日帰りの宇宙旅行へ行く宇宙観光客とはどう違うのですか?宇宙飛行士と宇宙観光客とを分ける定義のようなものはありますか?

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民間人宇宙飛行士 高松聡さん(以下、高松) 宇宙飛行士とは何かの定義は実は一定していないのです。色々な定義や解釈がありますが、大きく分けると2つの考え方があります。宇宙へ一度でも行ったことがある人を宇宙飛行士とする考え方と、国家宇宙機関で有人宇宙飛行プログラムの訓練を受けたクルー(乗組員)を宇宙飛行士とするという考え方です。

前者の考え方でいうと日帰り宇宙旅行の宇宙観光客も宇宙飛行士ということになりますね。宇宙旅行の契約者を「未来の宇宙飛行士」“フューチャーアストロノーツ”と呼ぶこともあります。しかし現実には日帰り宇宙旅行から帰ってきた方が私は宇宙飛行士だと言うことはあまりないと思います。

祐真 アストロノートというと響きがいいし、そう呼ばれたら嬉しいですもんね。同じように宇宙へ行くとはいえ、宇宙飛行士が行う一連の訓練は受けないですよね?

高松 飛行行程のレクチャーや非常時の対策や避難方法などを学んだりと、訓練というよりも、2日程度の講習があります。

祐真 なるほど。飛行機でも非常通路横の人は形式的ではあっても、CAに「いざとなったらここを空けてください」などと言われますね。

高松 そうですね。宇宙旅行客は乗客として乗船することになります。操船には責任がないわけです。そういった意味では先ほどの二つ目の考え方、有人宇宙飛行プログラムに沿った訓練を受けたクルーを宇宙飛行士とする考え方がやはり自然なのかなと思います。これは簡単に言うとコクピットに座り宇宙船の操船やミッションに関わるクルーと、客室に座るパッセンジャーの違いと言うことですね。前者は政府系であろうと民間であろうと訓練を受けたクルーですから宇宙飛行士と呼んでもいいかと思います。

祐真 高松さんはクルーとしての訓練をロシアで受けたわけですね。

高松 僕が訓練をしたロシアのソユーズ宇宙船のコクピットは3人乗りで、真ん中に機長、左側にフライトエンジニア1と呼ばれる副操縦士、そして右側に僕が座り訓練しました。時々船長役やフライトエンジニア1役もシミュレーションさせてもらいましたが、パイロット出身でない限りプロの宇宙飛行士も打上げ時は右に座ります。この席に座る人をライトシーターとかフライトエンジニア2と呼びます。3人しか座れないコクピットに座る限り民間人と言えども操船の一部を担当しなくてはならないんですね。一番右の僕じゃないと届かないボタンやレバーがあるからです。ですから、NASAやJAXAの宇宙飛行士と同じように、ロケットの打ち上げから帰還するまでの全行程と操船や計器の読み方、トラブル対応について勉強し、実践し、試験があるわけです。船長に「聡、あのレバーを引いてくれ」と言われた時に「どれだっけ?」というわけにはいかないので(笑)。操船のほとんどの部分を船長とフライトエンジニア1の二人がやるのですが、僕の役割がまわってくると船長が目配せしてくるので「はいわかってますよ、ポチ!」という具合です。

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高松さんのFacebook (https://www.facebook.com/Cosmo.Takamatsu/)より

祐真 JAXAの宇宙飛行士もソユーズでISSに行きますね。高松さんの役割とどう違うのでしょう?

高松 JAXAの油井(亀美也)宇宙飛行士は元自衛隊のパイロットでしたし、大西(卓哉)宇宙飛行士は元ANAのパイロットです。ですから、機長の左側に座るフライトエンジニア1という役割になります。元パイロットではないJAXA宇宙飛行士は私が学んだライトシーターとして搭乗します。といってもJAXAの宇宙飛行士は習熟のレベルも能力も何もかも私とは比べるのが失礼なくらいプロフェッショナルですけどね。ただ同じ席で同じ期待役割を学び、訓練を受けられたというのは光栄なことです。

祐真 まさに、本物の宇宙飛行士訓練ですものね。民間人用のカリキュラムがあるというわけではないんですね。

高松 はい。僕がロシアで受けた試験や訓練、実技、シミュレーションなどはすべて一般の宇宙飛行士が受けるものと一緒です。数年に一度しか民間人は訓練に来ないので、民間人用のカリキュラムというのはないんですね。

祐真 宇宙飛行士の定義はよくわかりました。ところで高松さんは“民間人宇宙飛行士”と言われていますが、この意味はどういうことになりますか?

高松 一般的な意味でのアストロノート/宇宙飛行士とは国家宇宙機関の宇宙飛行士“ガバメンタルアストロノート”です。つまりJAXAやNASAの宇宙飛行士のことですね。“政府の”という意味の“ガバメンタル”です。一方“コマーシャルアストロノート”がこれからは増えて行くかもしれません。コマーシャルとは“商業的”という意味です。現在、イーロン・マスクCEO率いるスペースエックスや、飛行機で有名なボーイングといった民間企業がISSに有人ロケットを飛ばす計画を進行させているのですが、そういった企業に所属する宇宙飛行士をコマーシャルアストロノートと呼ぶんですね。僕の場合は政府機関と民間企業のいずれにも所属していない一民間人ということで、民間“人”宇宙飛行士、と説明することにしています。私費で個人目的で搭乗するので、英語ではセルフファウンディングアストロノート、あるいはプライベートアストロノートと呼ぶ場合もありますね。単純にスペーストラベラーと呼ぶ人もいますしね。

祐真 そもそも日本には前例がないですもんね。宇宙飛行士訓練を完了して、私費で行くんだという意味ですよね。

高松 そうですね。世界では既に7人の民間人がロシアでの訓練を完了してISSに行きましたが、日本ではまだ例がありません。この7人の方のNASAにおける正式な呼称はスペースフライトパティシパント(宇宙飛行参加者)です。ですからNASA的に厳密に言えば私は「スペースフライトパティシパントに挑戦中の人」ということになります。やや味気ない呼称ですが厳しい選抜と訓練を受けた国家宇宙機関の宇宙飛行士と民間人の線引きをするのは当然なことだと思います。職業としてのアストロノートという意味では民間のスペースフライトパティシパントはアストロノートにはなり得ないのです。一方で「スペースフライトパティシパントに挑戦中の人」という言葉では宇宙業界以外では全く理解してもらえないので、先ほどの「有人宇宙飛行訓練を受けて搭乗予定のクルー」が宇宙飛行士という定義に沿って、そして自己目的で訓練をし、私費で飛ぶということから民間人宇宙飛行士と呼ぶことにしたわけです。後でお話しようと思いますが、私の目的は宇宙飛行士になることではなく、宇宙に言って自分にしかできないプロジェクトを実施することですから、呼称や肩書きは何であっても構わないと思っています。ですから宇宙飛行士という呼称にはこだわっていません。むしろ宇宙飛行士にはできないことを宇宙ですることが自分の役目だと思っています。いまは便宜上、民間人宇宙飛行士という呼称を使わせていただいていることです。日本の民間人として初めてソユーズ宇宙船とISSロシアモジュールの全訓練を終了し、全ての試験に合格したことは事実ですから、民間人宇宙飛行士ということでよいのかなと思っています。まだ宇宙へ行っていないからこう名乗るのは少し恥ずかしいんですけどね(笑)。

祐真 建築家にも、実際には建物を建てたことがない人もいますからね。選抜に合格して訓練を修了したら宇宙飛行士ですよね。

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Page02. 過酷な適正試験をクリアして訓練へ

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SUKEZANE Tomoki

1965年京都市生まれ。(株)マガジンハウスのPOPEYE編集部でファッションエディターとしてのキャリアをスタート。現在は『UOMO』『GQ JAPAN』『Casa BRUTUS』『MEN’S NON-NO』 …