マイウェン監督が語る『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』|INTERVIEW
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2017年3月30日

マイウェン監督が語る『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』|INTERVIEW

マイウェン監督作『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』

甘いだけではない愛を描いた意欲作に込めた思いとは(1)

フランス映画界のお家芸といえば、恋愛もの。その王道を行く大人の愛のドラマが、彼の国から届いた。惹かれあうほど傷つけ合い、近づこうとするほどすれ違う―。情熱的に愛してしまったからこそ、痺れるように甘くそれでいて切ない毒を互いの胸に流し込んでしまう男と女を軸に描いた映画『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』は、甘いだけではない愛の正体を、リアルに、そして官能的に映し出す10年に及ぶドラマだ。メガフォンを執ったのは、新進気鋭のマイウェン監督。リュック・ベッソンの元パートナーにして、女優としても活躍していた彼女が、激しく求め合うがゆえに痛みと向き合う男女を描いた意欲作に込めた思いを聞いた。

Photographs by YOSHIDA MitsuhiroHair and Make-up by KUBO MarikoText by MAKIGUCHI June

アーティストは常に自分の感情で創作する

――本作では、甘いだけの恋愛ではなく、痛みを伴う愛の本質に正面から挑んでいます。男女のリアリティについて描くことは勇気がいることではありませんでしたか?

テーマと映画作りは全くの別物です。処女作を撮影したときも、内容的にはすごくハードでシリアスなものでしたが、私自身は陽気にそしてハッピーに映画作りができました。だからその時と同様に、つらいテーマを扱っていても、それを描くこと自体は全く苦痛ではありませんでした。むしろ、映画作りそのものの方がつらいですね

――映画制作に伴う苦悩とは?

監督には、新しいものを作り続けなくてはいけないというプレッシャーが常につきまとうんです。恋愛映画はこれまでに何度も作られてきました。だから皆に、また恋愛映画なの?と思われる。でも、これは私が作った恋愛映画であり、初めて描かれる物語であることを納得してもらうために、新しい何かを見せなくてはならない。映画というのは、何を語るかだけでなく、どのように語るかも重要です。今回も、そこに生みの苦しみがありました

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マイウェン監督

――今回、男女の違いを実に明確に描き分けていますね。ヒロインのトニーと、その恋人ジョルジオが体現する男女の違いというものをエピソード化するにあたり、どのようにアイディアを集めていったのでしょうか。

ノートにメモしたりはしないけれど、とにかく日頃から人を観察するわ。そして、吸収する。メモをとってしまうと、その時点で考えが頭から出て行ってしまって、ノートが見つからないと大変なことになってしまうでしょ(笑)。だから、感じたことを心に残して自分のものにするよう努めています。物語のディテールは、どちらかというと外に出さずに、自分の中で熟成させて、脚本を執筆するときにそれを引出しから出してくるという感じですね

――監督が作る映画は、見聞きし、感じたことが一度自分のものとなっている、つまり個人的な考えが色濃く反映されているということなのですね。

もちろん! アーティストとは常に自分の感情で創作していますからね

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――今回は、キャスティングのコンビネーションも素晴らしかったです。

トニー役のエマニュエル・ベルコは、脚本執筆時から心に決めていました。ジョルジオ役のヴァンサン・カッセルについては、2度3度考えて彼に決めました。作品ごとに違う役を演じられるすごい人だと思っていましたが、実際に会ってみて期待通りだったのは、ユーモアのセンスがありチャーミングなところ。変幻自在の彼を起用すれば、まるで粘土のように私の手でジョルジオという男性を具現化することができると確信しました

Page02. タイトルに込められた二義性とは?

マイウェン監督作『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』

甘いだけではない愛を描いた意欲作に込めた思いとは(2)

タイトルに込められた二義性とは?

――今、社会は男女平等をうたっていますが、恋愛においてはなかなかそうはいかないですよね。どうしても、より好きな方の立場が弱くなってしまう。タイトルにある“モン・ロワ”とは、私の王様という意味ですが、そんな思いを反映させたのですか?

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そうなんです。でも、どちらが上位に立つか、つまり王様になるのか、女王様になるのかは場合によりますよね。それに、タイトルにはアイロニーも込めました。最初はジョルジュをすごく素敵な王様として描いていますが、物語が進むにつれてタイトルが持つ意味が変わっていくんです。結局彼は独裁者のようにふるまい、自分ですべてをコントロールしようとします。“ろくでなしの王”というセリフもでてきますが、ロワ(王)に込められた二義性を意識して観ると、二人の関係の変化がより興味深く感じられると思います

――映画は女性の視点を中心に描かれていますが、男性と女性では観客の反応にどんな違いがありましたか?

感想を一般化するのは難しいですね。心揺さぶられるのは女性の方だろうなとは想像できますが。でも、ジョルジオを見ながら、自分に似ているな…と自分の中の男性性を見直す方もいるかもしれませんね

――トニーとジョルジオの違い、ひいては男女の違いが、くっきりと明確になるエンディングがとても素晴らしかったです。最初からエンディングは決めていたんですか?

いいえ。実は別のエンディングを想定していて、撮影も終えていたんです。トニーが動物園に行き、オオカミの展示エリアに行くんです。そして、柵を越えてオオカミに近づいていく。彼女の前で大きな口をバーッと開くんです。それはとてもドキドキするシーンでした。でも、トニーはそれを全く怖がらない。するとオオカミも口を閉じて彼女にキスをするんです。オオカミなんて怖くない!ということです。あるオオカミを克服すれば、また新しいオオカミに恋をすることだってできるというわけです。これは幻のエンディングになってしまいましたけれど

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――これも興味深いエンディングだと思いますが、なぜカットしたのでしょう?

当初、オオカミというモチーフを映画のあらゆるところにちりばめていたんです。でも、全部カットしたという経緯があって。2時間という長尺の作品ですから、あちこち横道にそれずに、ストーリーの中で一番の核となる部分に集中した方がよさそうだと感じ始めたんです。それで、オオカミというモチーフは無駄なものだと思うように。オオカミは、男性を象徴するもの。男性には、もちろん楽しい部分もありますが、暗い部分をオオカミに象徴させようと思いました。この幻のエンディングも、どこかでご覧にいれる機会があるかもしれません

――そう考えると、ジョルジオにはどこかオオカミのような野性的な魅力がありますね。それゆえに、二人の愛が剥き出しの本能的なものと感じさせるのかもしれません。本作は愛にまつわる戦いの物語という感じがしました。

そうなんです。葛藤の物語です。一人の人間の内面的な葛藤だけでなく、男と女の決闘もテーマとなっています。トニーとジョルジオは、考えも、ルックスも、社会的階級も全く違う。だからこそ戦いは激しくなる。もっと共通項の多い男女なら、愛し方は彼らほど激しくないかもしれませんが、もっと長く続く関係を築けるかもしれませんね。最初に情熱的に燃え上がると、その後冷静になったときには相違点だけが残ってしまう。そんな関係は難しい。ただ、たとえ長く続かない関係でも、そこに何を見出すかは、それぞれにかかっているのだと思いますけれど

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『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
監督|マイウェン『パリ警視庁:未成年保護部隊』
出演|エマニュエル・ベルコ『なぜ彼女は愛しすぎたのか』、ヴァンサン・カッセル『美女と野獣』、ルイ・ガレル『ドリーマーズ』、イジルド・ル・ベスコ『ふたりのヌーヴェルヴァーグ』、ほか
配給・宣伝|アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル/
第68回 カンヌ国際映画祭 女優賞受賞
第41回 セザール賞 主要8部門ノミネート
YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか大ヒット公開中!
© 2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL
http://www.cetera.co.jp/monroi/

           
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