連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第11回『ラ・ラ・ランド』

連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第11回『ラ・ラ・ランド』

牧口じゅんのシネマフル・ライフ

連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ

第11回 夢見る愚か者たちへ 

『ラ・ラ・ランド』

ジャンルにも、物語にも、キャストにも関係なく、私がこの人の作品なら何としてもいち早く観たいと、新作を心待ちにする監督がいる。デイミアン・チャゼル監督もそのひとりだ。ほぼ無名ながら注目を集めた前作『セッション』は、ジャズドラマーを目指す青年と、無情の鬼教官が火花を散らすレッスンの様子を通して、天才がその才能を開花させ、凡人には到達できない高みへと登っていく様を見事に描き切っていた。その凄まじいまでのスパルタ描写にリアリティを問う意見もあったが、個人的には神の領域に達するということを視覚化したすぐれた描写力には脱帽しきりだった。また、本作は監督賞、主演女優賞はじめ最多6部門受賞。監督賞は86年ぶりの最年少受賞(32歳)という快挙を達成。

Text by MAKIGUCHI June

夢見る愚か者たちへ

そもそも映画とは虚像なのであり、事実を基にしていたとしてもそこにあるのはデフォルメされた世界だ。もちろんリアリティにこだわるのもいい。だが、本来映画のリアリティとは、虚像でしか表現できない世界にこそにじみ出る感情や心情で評価されるべきなのだ。誰もが作り物だとわかっているのに、人間の真実をきらりと垣間見せる瞬間を演出し、観る者の心を揺さぶることこそが、映画の醍醐味であり、監督の腕の見せ所だと思う。チャゼル監督は、それができる選ばれた映像作家のひとりなのだ。

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作品のリアリティについてとやかく言う者たちをあざ笑うかのように、新作では、ミュージカルという“創作”の極みともいえる映像スタイルを選んでいる。主人公は、女優を目指し映画スタジオのカフェで働くミアと、いつかジャズの店を開いて自分が好きな音楽を思い切り演奏したいと考えているピアニストのセブ。二人が出会い、恋に落ち、互いに励ましあいながら成長していく姿を、夢の国ハリウッドを舞台に描いている。出会いは最悪、偶然の再会、顔を合わせれば憎まれ口ばかり。でも、知らないうちに恋に落ちる二人……。まるで、品行方正にハリウッド的なミュージカルの典型のような顔をした本作は、心地よい楽曲と楽しいダンスで、ひたすら極上のエンターテインメント道を突き進んでいく。

お決まりの展開ではあっても、とにかく楽しいから大満足。そう思わせたところで、今回、チャゼルが用意したリアリティがエンディングで花開く。それまで、映画的言語を駆使し、徹底的に“ハリウッド的な創作”に徹していたにも関わらず。観客の心を幻想の世界にひきつけておいて、本作はラストに驚くべきリアリティを突きつけるとは心憎い。それが本作の、本当の意味の魅力と重なっている。

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エンディングに込められたのは、監督がずっと懐に忍ばせていたこのメッセージだ。

「愚かなほどに夢を追う勇気はあるか。そして、その夢をかなえる覚悟はあるか」

それは前作『セッション』でも、繰り返し観客に投げかけられてきたテーマともいえるだろう。才能ある者には、背負ってしまった重荷があり、責任があるということ。成功者はそれを受け入れ、そのための代償を一生かけて払い続けることも覚悟しなければならないということだ。

夢は見ているときは甘い。だが、叶えた瞬間から決して甘いだけではなくなるというリアリティはときに切ない。だが、だからこそ覚悟を決め、意志を貫く者たちは美しいのだ。

ミュージカルという夢の世界も、美しいダンスシーンも、華やかな楽曲も、すべてはこのメッセージを強調する脇役に過ぎないとも思えてくる。

本年度アカデミー賞で14部門に最多ノミネートされるなど、業界内での評価の高さも話題になっているが、それは、彼が本作に込めたメッセージの本当の意味を知る仲間たちの共感を集めているからなのだろう。

夢工場ハリウッドから届いた、夢と現実のせめぎあいを眩しく描く本作は、夢を追い続ける愛すべき愚か者たちへの応援歌であると同時に、夢の先にある現実を生きるかつての愚か者たちへのエールでもあるのかもしれない。

★★★★★
ミュージカルだけど、メッセージは骨太。ダンスも、音楽も、ストーリーもすべてに大満足!

『ラ・ラ・ランド』
監督・脚本 デイミアン・チャゼル
出演 ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、J・K・シモンズ、ほか
配給 ギャガ/ポニーキャニオン
大ヒット上映中!
© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.

牧口じゅん|MAKIGUCHI June
共同通信社、映画祭事務局、雑誌編集を経て独立。スクリーン中のファッションや食、音楽など、 ライフスタイルにまつわる話題を盛り込んだ映画コラム、インタビュー記事を女性誌、男性誌にて執筆中。

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牧口じゅん

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