連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第10回『たかが世界の終わり』

連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第10回『たかが世界の終わり』

牧口じゅんのシネマフル・ライフ

連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ

第10回 深い孤独を知る者たちへ

『たかが世界の終わり』(1)

人生の中で、最も深い絶望とは何だろう。どうしようもなく孤独であるということを、痛いほど思い知らされることかもしれない。それは、人は所詮ひとりぼっちであるというレベルの話ではなく、愛すべき存在と分かり合えないことが決定的になるという孤独だ。そんな孤独を描いたフランス映画『たかが世界の終わり』は、幸せだけを見つめていたい人には、果てしなくやりきれない物語だと感じるかもしれない。だが、それだけで終わらないのが、監督であるグザヴィエ・ドランの才能だ。

Text by MAKIGUCHI June

12年ぶりの帰郷の理由

あなたにとって家族とは、どんな存在だろう。愛し合い、理解し合い、甘えることができて、喜びを分かち合えることが当たり前の存在なのだとしたら、それはとても幸せなことだ。本作は、そんな当たり前と思われる幸運に恵まれなかった人々にしか分からない深い闇、深い孤独を描いた作品だ。

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人気劇作家として成功した34歳のルイは、12年ぶりに故郷に降り立つ。自らの余命がわずかなことを、疎遠となった家族に伝えるためだ。母は久しぶりに会う息子のために料理を用意し、とびきりのお洒落をして待っている。幼くして別れた妹は、自慢の兄に自分の話を聞いてもらいたくてたまらない。一方、長兄はそっけない。弟が初めて会う兄嫁との会話にも邪魔をする始末だ。

何がきっかけで主人公が家を出て、12年も戻らなかったのかは劇中で深くは語られない。だが、彼を迎えた家族の様子から徐々にそれが観客にも理解できるようになってくる。誰かが何かを言えば、長兄がバカにするか茶化すかして、すぐに修羅場となるのだ。そんな中でもルイは幾度となくチャンスを見つけ、自分の死が近いことを告げようとする。だが、険悪なまま時が過ぎてしまう。

やがて観る者の心に、どこで、どのように、主人公がこの悲しすぎる話を切り出すのかが気になり始める。そして、失われた12年を皆が一様に後悔し、過ちから学び、瞬時にハッピーな家族に戻ることを期待し始める。涙が止まらない感動のエンディングを。

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だが、それはある種のおとぎ話だと言わんばかりに、物語は観客が期待した展開から、徐々に逸れ始める。そして私たちは息をのむのだ。この収集がつきそうもない状況で、ルイが選んだ幕引きに。エンディングに流れる歌が、悲しくも主人公の心情を見事に表現している。「どうしようもない深い孤独。あらがいようもないほどに」。

Page02. 愛があるがゆえの、悲劇。その先に。

ABOUT
牧口じゅん

牧口じゅん|MAKIGUCHI June 共同通信社、映画祭事務局、雑誌編集を経て独立。スクリーン中のファッションや食、音楽など、 ライフスタイルにまつわる話題を盛り込んだ映画コラム、インタビュー記事を女性誌、男性誌にて …