DIOR HOMMEが起用したヴァニタス絵画の現代解釈、亀井 徹の世界|ART

ART|DIOR HOMMEが起用したヴァニタス絵画の現代解釈、亀井 徹の世界

亀井 徹作/「花虫達 all the flowers and insects」(2013年制作)

LOUNGE ART

ART|西洋絵画の古典で認められた、東京に花咲く異才。

超現実主義と象徴主義のはざまで独自の世界観を作り、
その作品がモード最前線のランウェイで衆目を集めたことについて(1)

皮肉なものである。美術大学を卒業した当初の夢は、“絵描きとしての商業的な成功”だった。ルイ・ヴィトンとコラボレーションした村上隆氏や奈良美智氏らが世界に出て脚光を浴びるのを目の当たりにしていた頃である。自分も企業とのコラボで有名になりたいと思っていた。ところがチャンスは一向にめぐってこなかった。もう絵で稼げなくていい。たとえ“日曜画家”と揶揄されたってかまうものか。世の中に認められなくとも自分が描きたいものを描いていこう。そう心に決めた矢先に、彼はDIOR HOMMEからのオファーを受け取った。苦節十数年。画家としての魂は、いまキラキラと輝いている。

Photographs by SUZUKI TakuyaTEXT by TSUCHIDA Takashi(OPENERS)

SNSで拡散され、スマホのなかでブレイクへ

亀井氏がFacebookをはじめて2年ぐらいたった2014年頃。「いいね!」の数が跳ね上がったことに気づいたそうだ。一体、なぜだろうと自分なりに調べたところ、拡散された主なツールはtumblr.。「おそらくは、どなたかが私のFacebookページから画像を取り出し、投稿してくれたんだと思います。私の周辺ではなく、海外でなにかしらの動きを感じました」と、亀井さんは振り返る。それが予兆だった。運命のメールは、DIOR HOMMEのスタッフから送られたもの。クリエイティブ ディレクターであるクリス・ヴァン・アッシュ氏の意向によるコンタクトである。

「フラワーモチーフを研究しているときに偶然見つけたのが亀井 徹でした。日本のアーティストです。表現方法がダークでゴシックの雰囲気は、フラワーのニューウェーブ。連絡を取って彼の作品のいくつかを融合することができました。今日の作品に登場しています」(クリス・ヴァン・アッシュ氏の発言。公式ページの動画より引用)

なにかのイタズラか。根強いファンはいるものの、知名度はまだまだ。そんな自分に、いきなり海外の大企業からのオファーが舞い込んできたのだ。さすがインターネットで個と個が繋がる時代である。クリス・ヴァン・アッシュ氏はネットで亀井さんの作品を見つけ、2009年に日本で出版された画集も入手していた。

一方で、当時の亀井さんはファッション界に疎かった。DIORという名前は知っていたものの、実際にはどんなブランドなのか、ブランドに“HOMME”があることも分からなかった。それでも、オファーをきっかけにランウェイの動画やブランドイメージなどを確認。そこで気づいたのは、このブランドの他にはない世界観だった。

「DIOR HOMME(http://www.dior.com/couture/en_us/mens-fashion/collections-and-fashion-shows/dior-homme-summer-2017-show)が作り出そうとするイメージの中に、私は思春期の少年の儚さを見ました。思春期を迎えると人は本能的に外見に気を使いはじめ、少し奇抜な格好を好んで飾ることを試みます。繊細がゆえにすべての刺激を痛みと感じ、理由なく反抗する。そんな思春期の少年的マインドに共感、共鳴しました」(亀井さん)

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パリのファッションショー会場のバックステージでクリス・ヴァン・アッシュ氏と面会した時の言葉を、亀井さんは覚えている。英語が堪能ではないなかで、耳に入ってきた言葉が“Philosophy”(哲学)。

あなたの作品の哲学が好きです。

眼の前のクリエイティブ ディレクターは、そう自分に言ってくれたと亀井さんは受け取った。同じモノづくりに携わる者として、それ以上の言葉は要らない。

「制作チームとは複数人とやり取りしましたが、彼らは皆フランクで、感覚的な意味で反応が素早く、感情表現が豊かでした。なにより作品に対して尊重する気持ちが感じられて嬉しかったです。私は自分の作品だけにクリエイティビティを使いますが、彼らはブランドのためにクリエイティビティを発揮します。そんな彼らの姿が、私には新鮮で輝いて映りました」(亀井さん)

舞台は違っても、同じ作家同士として互いの信頼を得た瞬間である。結果、DIOR HOMMEとは5点の作品について契約を結び、2017年夏コレクションに結実した。「彼らもまた、自分たちの理想を必死に追い求めている」と、亀井さん。それゆえ「彼らがやりたいことならば、好きなように作品を使ってくれて構わない」という気持ちに至ったそうだ。

Page02. 時代は亀井作品のPhilosophyを求めている