連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第9回『聖杯たちの騎士』

連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第9回『聖杯たちの騎士』

牧口じゅんのシネマフル・ライフ

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第9回 人生の神秘を美しい映像で描く映像詩

『聖杯たちの騎士』

占いに興味はあるだろうか。占星術、四柱推命、風水、陰陽道など、歴史的に大きな役割を果たしてきたものも多く、経営者の中には、大きな決断をするときに占い師にアドバイスを求める人もいるというから、“お遊び”といって簡単に切り捨てられない文化の一種だ。名匠テレンス・マリック監督の新作『聖杯たちの騎士』は、そんな占いのひとつ、タロットカードを思わせる神秘性溢れる作品だ。

Text by MAKIGUCHI June

ひとりの男、6人の女たちの物語

本作は、脚本家としての成功を手にしたリックが、成功によって自分を見失っていくことで人生に迷ったり、崩壊している家族の絆を取り戻そうとしてあえいだりする姿を描いた物語である。受け止めきれない現実に直面した彼に手を差し伸べるのは、6人の美女たちだ。何かを悟っているかのように神秘的な彼女たちに導かれ、リックが一歩ずつ本当に望むものに近づいていく様が美しい映像とともに綴られていく。

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ちょっと不思議な『聖杯たちの騎士』(原題:KNIGHT of CUPS)というタイトルは、78枚あるタロットカードにある図柄のひとつから来ている。正位置なら繊細で敏感な紳士、ロマンチスト、フェミニスト、心優しい、積極的な成功に結び付くイメージを示し、逆位置ならば、優柔不断、女たらし、誘惑、神経質、下心、流される、受け身、不安定で後ろ向きな気持ちが挫折や失敗につながるイメージを示す。これは、リックの今と重なっている。

いくつかあるタロット占いの手法のひとつに、1枚のカードを中心に、過去・現在・未来・環境・願望・問題を表す6枚のカードを展開するヘキサグラム・スプレッドというものがある。カードは、その絵柄同様神秘的かつ予言的、宣告的なメッセージを運ぶ。本作に登場する美女たちも同様に、不思議と、「違う行き方があるはず」「行くべき場所は他にある」「何でも試して、ためらわないで」「愛は貴重なの、ためらわないで」と、そのときどきに彼が必要としている言葉を残していく。彼女たちは彼にとっての過去、現在、未来を象徴し、人生を導いていくカードのような存在。いわば人生の神秘を体現する、本作の核となる存在なのだ。

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誌的なセリフと、人生の断片を映し出したかのようなマリック監督の作品は、受け手である観客の想像力や読解力なしに成立しない。イメージのコラージュを前に、観客は自分自身の経験や感情、感覚を使って、語られていないシーンを埋めて自ら物語を完成させる自由が与えられているのだ。それは、わずか78枚の図柄を使って、誰かの人生を占うことと似ている。拠り所となるのは、カードの読み手であるリーダーだ。彼らは過去・現在・未来を示すタロットカードを、独特の感性をもって読み取っていく。

今回に限らず、マリック監督の作品がなかなか理解しにくいとされるのは、タロットのリーダーのような存在とも言える、観客の感性が試されるせいかもしれない。解説的でなく、お仕着せでないものだからこそ、観た人に寄り添った物語が、観た人の心の中にだけ完成する。タロットというモチーフを得て、より鮮明になったマリック作品の魅力をじっくりと噛みしめられる本作。映像美を味わうためにも、ぜひ大画面で観ていただきたい。

★★★★★
映像の美しさ、人生の神秘性を堪能!

『聖杯たちの騎士』
監督 テレンス・マリック
出演 クリスチャン・ベイル、ケイト・ブランシェット、ナタリー・ポートマンほか
配給 東京テアトル
12/23(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー中
©2014 Dogwood Pictures, LLC

牧口じゅん|MAKIGUCHI June
共同通信社、映画祭事務局、雑誌編集を経て独立。スクリーン中のファッションや食、音楽など、 ライフスタイルにまつわる話題を盛り込んだ映画コラム、インタビュー記事を女性誌、男性誌にて執筆中。

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