『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』美波さんインタビュー|INTERVIEW

INTERVIEW|『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』美波さんインタビュー

LOUNGE INTERVIEW

パリを拠点に活躍する女優・美波さんと探る

『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』の魅力

恋愛映画の傑作『男と女』から50年―。丁寧な人物描写で、男女の心の機微を描き続けてきた名匠クロード・ルルーシュが、全編インドロケを敢行し完成させた新作『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』。フランス人の男女が出会い、心を通わせていく様が、インドの風景の中で描かれていく。現在、フランスに暮らし、インドへの一人旅も経験している女優の美波さんとともに、作品の魅力を探った。

Photographs by TANAKA TsutomuText by MAKIGUCHI June

築き上げてきたものを捨てることになっても、自分の心のままにいたい

2014年、文化庁新進芸術家の海外研修のメンバーとして、1年間のパリ留学を経験した美波さんは、フランスに活動の拠点を移してこの9月で2年目。日本と行き来しながら、女優として活躍している。やはり職業柄、映画を観る目は鋭い。

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「去年パリで公開されていたときに、気になっていたけれど観られなかった作品なんです。日本ですでに2回観ました。1回目は、ストーリーを追っていくちょっとした緊張感があって。2回目は結末が分かっているので、細部にも目が行ったんです。初回よりも客観的に人間関係性を見られたり、インドの風景を楽しめたりしました。あと、監督の役者への愛を感じました。これを絶対撮りたいということよりも、役者を信じていて、彼らから出てくる、彼らだけが出せるものを信頼しているのが良くわかって、すごく素敵だなと思いました。ジャン・デュジャルダンが好きなので、彼のユーモアにも引き込まれました」

女優としては、撮影の風景を想像して“ああいいな、自分もあそこにいたいな”という気持ちになったとも語る。「アドリブがとても多かったとか。こういう作品はすごく役者の力が試される。自分の生き方、価値観が役を通して滲み出るんです。だから、出演者たちが、人としても役者としても充実していて、地に足のついた方々なのだというのがスクリーンを通して感じられました。ただ、仕事柄、自分だったらフランス語でここまでの会話が返せるかなとか、即興でこれほどウィットに富んだ切り返しや皮肉の利いた答えを返せるかなと考えてしまって、なんだかドキドキしました(笑)」

本作では、アンナとアントワーヌのやりとりが物語の軸となっているが、その会話は実に軽妙洒脱。そして、そこに彼らの本音が見え隠れする。パートナーがありながらも、好意を抑えきれない二人の男女は、互いの気持ちを言葉の中に滲ませながら、率直に物を言い合い、不思議な信頼感すら感じさせる。こうした対話は、とてもフランス的なのだという。

「私は日本のリセ・フランコ・ジャポネに幼稚園から小学校卒業まで通っていたんです。女優になりたくて中学から日本の学校に転校したので、両方の文化の違いを感じていました。フランスに行って楽になったことのひとつが、思ったことを自由に言えるということ。フランスは対話の国。自分が意見を言えば、そこに何かが返ってくる。考えが異なっても、当たり前。言い方さえ間違えなければ喧嘩にはならないし、互いに根には持たず、しこりは残らない。日本の‘察する文化’は素晴らしいけれど、フランス的な言動をすると、日本では相手を傷つけてしまうので、私自身よく失敗していました。本作では、フランスならではの人と人との距離の在り方が良く出ていたと思います」

もうひとつ、フランスらしいと感じたのが、ケ・セラ・セラ的な大らかさだという。「恋愛関係にあってもはっきり相手に意見を言って、それが原因で嫌だと言われるなら、こちらこそそんなあなたは願い下げという感じ。それがかなり一般的だと思います。あまり、我慢しないのかもしれないですね(笑)。フランスって、本当に適当だなと思うところもいっぱいありますよ。せっかちな私は、あののんびり具合にまだ慣れなくて。まさに、ケ・セラ・セラなんです。最初は、フランスとインドは不思議な組み合わせだと思ったけれど、時間の捉え方とか、楽天的なところとか、通じるところがあるんでしょうね」

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9年ほど前、南インドを回る旅に出たという。印象に残ったのは、この国がいろいろなカケラの集まりで、それをかき集めると様々な色に輝くということ。「インドは、いろいろな感情や状況、価値観の寄せ集めでできているんだなと感じました。一見、それぞれは価値のないもののようであっても、そこから生まれる光や生命力はとても強い。だからでしょうか、多種多様なものを受け入れる。懐も深いんですよね」

片や在インド・フランス大使夫人、片や映画音楽家という別世界に暮らす主人公たちが、心をオープンにし、理解し合い、惹かれ合う恋物語も、インドの空の下だからより一層のリアリティを持つと美波さん。「インドはすべてを受け入れてくれるんですよね。果たして、全く違う二人が、フランスで恋に落ちたかしら。特にアントワーヌは、物質的な人物という印象。でもそれは、インドでは通用しない。お金ではないもの、人生、人間の心とか、そういうものの価値が、見えてくるところだから」

本当に大切なものに気づかせてくれる、不思議な国インドで思いがけず出会った運命の人。どれほど恵まれていても、思いがけず新たな愛に出会ってしまう予測不可能な人生の奥深さに、美波さんも魅力を感じると語る。「だから、そういうものに出会ったときに、自分の心に嘘をつきたくない。嘘をつくのも可能だけれど、自分の人生がすごく悔しく終わってしまうと思う。例えそれまでに築き上げたものを捨てなくてはならないとしても、自分の心のままにいられるというのはすごく大事なことだと思っています」

美波さんにとっては、まさにフランス行きが、心のままに下した決断。「日本で築いたものを、全部断って行きましたから。ゼロからはじめて、今ようやくフランスで事務所に入ることができて。後悔はしていません。自信も生まれたし、自分を好きになれた。自分の気持ちのままに生きることは、もちろん大変。恋愛でも、仕事でも。でも、そうすることで得られるものは、何にも代えがたいですから」

アンヌとアントワーヌは、代え難い何かを手にできるのか。恋愛映画の巨匠が描くエンディングに注目だ。

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Minami|美波
1986年東京都にてフランス人の父と日本人の母との間に生まれる。2000年『バトル・ロワイアル』で女優デビュー以降、大人びた美貌と存在感で注目を集める。その後ドラマ、舞台と活躍の場を広げ、モデルとしても人気を得ている。

『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』

ABOUT
牧口じゅん

牧口じゅん|MAKIGUCHI June 共同通信社、映画祭事務局、雑誌編集を経て独立。スクリーン中のファッションや食、音楽など、 ライフスタイルにまつわる話題を盛り込んだ映画コラム、インタビュー記事を女性誌、男性誌にて …