フェラーリ GTC4 ルッソに北イタリアで試乗|Ferrari
CAR / IMPRESSION
2016年10月20日

フェラーリ GTC4 ルッソに北イタリアで試乗|Ferrari

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

フェラーリ GTC4 ルッソに北イタリアで試乗

イタリアの至宝によるエポックメイキングな1台

フェラーリ初となる4WDモデルとして2011年に登場し、注目を集めたFF(フェラーリ・フォー)。あれから5年、後継モデルとなる「GTC4 ルッソ」が今年のジュネーブモーターショーでデビューしたのはご存じのとおり。北イタリアは南チロルで開催された同車の試乗会からのリポートをお送りする。

Text by YAMAGUCHI Koichi

大幅に洗練されたインテリア

イタリア最北端に位置する南チロル地方。ドロミテ山脈の雄大な山並みを望むその代表的な街、ブルーニコのスキー場に到着すると、ガンメタリックにペイントされた1台の真新しいフェラーリが出迎えてくれた。同社初となる4WDモデルとして話題を集めた「FF(フェラーリ フォー)」の後継車、「GTC4 ルッソ」の試乗会が、7月初旬、まだ肌寒さを感じさせるアルプスのスキーリゾートを起点に開催されたのだ。

GTC4 ルッソの背後には、山肌からニョキッと生え出た巨大なオブジェのような、斬新な建物がたたずんでいた。秘密基地のようにも見えるコンクリート打ちっぱなしの建造物は、世界的建築家、ザッハ・ハディットの手になる「メスナー山岳博物館」だ。奇才と呼ばれる彼女の作品らしく、未来的で奇抜な造形だが、周囲の大自然にも不思議となじむ、有機的な美しさを備えているのが印象的だ。

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

メスナー山岳博物館

フェラーリのスタッフは、自らの最新モデルをこの建築作品と共演させるかのように展示し、我々を出迎えたわけだ。そして主役たるGTC4 ルッソもまた、シューティングブレークという個性的なスタイルを採用しながらも、FFにはないクラシカルで洗練された美しさを湛えていた。率直に言って、ずいぶんスタイリッシュになった印象なのだ。

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

つぶさに観察してみると、この真新しいクーペ、確かにFFから大幅にリファインされていることに気づく。例えば、ルーフライン。FFがほぼ水平であったのに対し、GTC4 ルッソではリアエンドにいくにしたがって下降しており、それに沿うようにウィンドウグラフィクスにも変更が加えられている。これがファストバッククーペのような流麗な印象をつくりだしている。

「プロポーションはFFとほぼ同様です。ただし、ルーフラインは後端で低く下がっています。私たちはよりダイナミックなイメージをつくり出したかったのです」

プレゼンテーションの席で、GTC4 ルッソを手がけたデザイナーはそう語ったが、確かに彼らの狙いは果たされていると思った。

フロントまわりはノーズ先端がより低く長くなり、グリルは冷却効率向上のため大型のシングルタイプに変更。リアまわりではテールランプが2灯から伝統の4灯に改められ、よりボディのワイド感が強調されている。

ボディ側面に目を向けると、フェラーリの往年の名車「330GTC」を彷彿させる3枚のルーバーが切られ、フロントフェンダー後端からリアフェンダーに向かってシャープなエッジラインが走る。これらFFにはない繊細なディテール処理により、彫りが深く、躍動感を感じさせるデザインに仕上げられているのだ。実際、FFから受け継いだボディパネルはほとんど存在しないという。ちなみに、ボディサイズはFFとほぼ同寸ながら、車両重量は60kgのダイエットに成功している。

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

スーパースポーツとしてのダイナミズムと、クーペならではエレガンスを感じさせるGTC4 ルッソのエクステリアは、眺めているだけで惚れ惚れするのだが、同時にエアロダイナミクスの向上も図られている。デザインの初期段階からデザイナーと開発チームが連携し、風洞実験などを繰り返した結果、FF比でドラッグが6パーセント削減されたほか、後輪へのダウンフォース強化など、空力効率が改善されている。

ちなみに、ボディサイドに設けられたルーバーの引用元である330GTCは、同じくフェラーリが誇る歴史的名車「250GT ベルリネッタ ルッソ」とともに、GTC4 ルッソのネーミングの由来となるモデルだ。GTCは「グランツーリズモクーペ」を、ルッソ(Lusso)はイタリア語で「ぜいたく」を意味するわけだが、フェラーリがこれら名車たちの名前を引用したことは、GTC4 ルッソがFFの単なるマイナーチェンジモデルではないことの左証だといってもいいだろう。実際、主役との初対面後に行われたプレゼンテーションでは、デザインのみならず、エンジンからビークルダイナミクス、そして快適性にいたるまでたっぷり1時間以上の時間が費やされ、全面的な進化を遂げていることが謳われた。

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フェラーリ GTC4 ルッソに北イタリアで試乗

イタリアの至宝によるエポックメイキングな1台 (2)

高級サルーン並みの快適性を実現

そもそもFFは、フェラーリにとってイノベイティブなモデルだった。なんとなれば、大人4人がゆったり乗れる4シーターのシューティングブレーク風スタイルに、同社初となる独創的な4WDシステムを組み合わせることで多用途性を獲得した、これまでのフェラーリには存在しないモデルだったからだ。そんな彼らの試みは成功したと言っていいだろう。

「612スカリエッティはじめとする従来の4シーターモデルに対し、FFユーザーの平均年齢層は10歳若いのです」

プレゼンテーションの席で、開発担当者はそう語った。つまり、これまでよりも若い富裕層を、FFにより新規顧客として迎え入れることができたわけだ。彼らの60パーセントは4名乗車でロングツーリングに出かけ、平均年間走行距離もフェラーリの他モデルより50パーセントも多いのだそうだ。フェラーリに乗るとこう行為は、言ってみれば“ハレ”(非日常)そのものだが、FFの登場によっていい意味で“ケ”(日常)に舞い降りてきたといえるのかもしれない。プレゼンテーションでは、スクリーンに映し出された、FFのリアでチャイルドシートに収まり笑みを浮かべる赤ちゃんの画像が印象的だった。

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

GTC4 ルッソとの対面を果たした翌朝、いよいよ我々にそのステアリングが委ねられた。ドライバーズシートにおさまってまず気づくのは、インテリアがエクステリア以上にリファインされていたことだ。新たに「デュアルコクピットデザイン」というコンセプトが導入されたそれは、インストルメントパネルからリアシートまでを貫くセンターコンソールにより、運転席と助手席の空間が対称的に分けられているのが特徴。縦方向にゆったりとしたスペースをとりながら、横方向を適度にタイトにすることで、心地いい囲まれ感が実現されている。「ドライバーとパッセンジャーのいずれにも、スポーティさとラグジュアリーな快適性を提供する」という担当者の言葉とおり、助手席に身を置いても心が躍りそうなインテリアだ。

インストルメントパネルの意匠は、円形のエアダクトやコンパクトなメーターナセルのセンターを回転計が占めるレイアウトなど、フェラーリの文法に則ったものだが、FFと比べてより立体的でモダンな造形となった。回転計の両サイドには2つの5インチTFTディスプレイ、センターコンソールには10.25インチとたっぷりとしたサイズのタッチスクリーン、さらに助手席側インストルメントパネルにもパッセンジャーディスプレイと呼ばれる8.8インチの横長なディスプレイが設置されるなど、最新のインターフェイスもこれでもかとばかりに用意されている。

なによりも感心させられたのは、車内全体に横溢する上質感だ。たとえばシート。瀟洒な造形といい、高品質なレザーの質感やクラフツマンシップを感じさせるステッチといい、ため息が出るほどに麗しい仕上がりなのだ。「細心の注意を払ったデザインとディテールへのこだわりによって、スポーティラグジュアリーなキャビンを創造した」とプレス資料にはあるが、まさに”スポーティラグジュアリー”という形容がふさわしい空間である。

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

ユーティリティの改善についてもぬかりない。ラゲッジスペースは最大で800リッターを確保。車内の収納スペース容量は50パーセント以上拡大され、リアシートのレッグスペースも16mm広くなっているという。

ステアリングホイールに設置された真っ赤なスターターボタンを押し、フロントアクスル直後に鎮座するエンジンに火を入れる。V12 ユニットが目覚めたというのに車内は予想外に静かだ。紛れもなくマルチシリンダーエンジンならではの息吹を感じさせるのだが、ボリューム自体が絞られているのだ。

その印象は走り出しても変わらない。ブルーニコの街中を40〜50km/h程度で流していると、タコメーターの針は7時の位置、つまり1,800rpm前後を行き来しているのだが、そんなコンディションではV12サウンドは心地いい程度に抑えられている。恐らく、新たにエキゾーストパイプに設置された電子バイパスバルブも一役買っているのだろう。これにより、ダウンスピード域ではエンジン音を抑え、スポーツドライブ時にはV12特有のパワフルなサウンドを発生させるのだという。

さらにGTC4 ルッソでは、シャシーとボディの接合部の剛性強化、エアコンの静粛性向上、そして音響特性に配慮した新素材の採用などさまざまな取り組みにより、FF比で静音性が50パーセント向上しているという。確かに、キャビンはFFより明らかに静かで、高級サルーン並みの快適性を実現していると思った。

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フェラーリ GTC4 ルッソに北イタリアで試乗

イタリアの至宝によるエポックメイキングな1台 (3)

絶品のV12自然吸気ユニット

ブルーニコを起点にドロミテの山岳リゾート一帯を巡るのが今回の試乗コースだが、すでに休暇シーズンを迎えていたこともあり交通量は思いのほか多い。市街地を後にしてドロミテの山間を縫うカントリーロードにいたると、バカンスを楽しむファミリーやカップルたちのクルマで溢れかえっていた。時に渋滞にはまりながらのスロードライブとなったわけだが、オーバー300km/hのスーパーGTであることを鑑みると、あいかわらずキャビンは望外といえるほど快適だ。

まず、乗り心地がいい。ウィンターシーズンの積雪の影響か道路はかなり荒れているのだが、GTC4ルッソは路面からの入力をまろやかにいなしてくれる。もちろん、それなりに引き締められてはいから、磁性流体式「SCM-Eダンパー」の減衰力を制御するドライブモードを「コンフォート」にセレクトしたさいには、さらに乗り心地にまろみが出てもいいとも思う。いや、いくらなんでもそれは欲のかきすぎだろう。なにせ、相手はオーバー300km/hのスーパーGTなのだから。実際、路面から強めの入力があっても、ボディ剛性の高さゆえだろう、ハーシュネスや振動がピタッと収束するから、不快感はない。

パワートレーンのジェントルな振る舞いも印象的だ。6,262cc V型12気筒自然吸気エンジンは、最高出力がFF比でプラス30psの690ps/8,000rpm、最大トルクはプラス14Nmの 697Nm/5,750rpmと、「F12」にも迫るアウトプットを誇る。それにより、0-100km/h加速がFFより0.3秒速い3.4秒、最高速度は335km/hという途方もないパフォーマンスをGTC4 ルッソに与えている。

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

一方、わずか1,750rpmで最大トルクの80パーセントを発生させるフレキシビリティを兼ね備えているのは、現代の高性能エンジンならではだ。それゆえ、渋滞のなかをトロトロと流すような状況でも、ギクシャクすることはいっさいない。オートマチック車と違わぬスムーズさで変速を遂行するツインクラッチトランスミッションとのコンビネーションにより、ドライバーのアクセル操作に忠実に、なめらかに過減速を繰り返してくれる。こうした駆動系の上質感こそ、高級車にとって不可欠なファクターである。なんだか、三冠馬がパドックを悠々と流しているイメージが頭に浮かんだ。

ちなみに、フェラーリが集中的な研究開発を行ったと謳うこの最新のV12ユニットは、紛れもなくGTC4 ルッソにおけるトピックの1つである。ピストンヘッドの見直しによる圧縮費アップ(12.4:1から13.5:1)をはじめ、FFからの改良点は枚挙に暇がない。それにより、上記のようなハイパフォーマンス化を達成しながらも、CO2排出量は3パーセント減少しているのだという。

フロントスクリーン越しに展開するドロミテ山脈の景色を楽しみながら、しばしゆったりとした速度で走りつづける。険しい山並みと群青の空が織りなす絶景にも目が慣れ、スローペースにしびれを切らしてきたころ、ようやく前方の車列がクリアになり、思わずアクセルペダルを踏み込む。その瞬間、回転計の針がレブリミットの8,250rpmを目がけて一気に跳ね上がり、車窓の景色が一瞬にして輪郭を失った。

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

そんなシチュエーションでは、これまで低く抑えられていたエギゾーストノートが4,500rpmくらいから明確に変化し、さらに回転数が上がるにつれ、より甲高く刺激的なサウンドへと変わっていく。そして、エキゾーストノートの高まりとシンクロして、加速Gが直線的に強まっていく。こうして、エンジン回転数とサウンド、そしてパワーが有機的に絶頂に向かって上昇していく様は、まさにフェラーリ製V12ユニットならではだ。

前述のとおり、1,750rpmで最大トルクの80パーセントを発生させるフレキシビリティが持ち味のエンジンだが、6リッターを越える排気量でありながら8,000rpmで最高出力を発生し、8,250rpmまで許容する、超がつくほどの高回転型ユニットでもある。それゆえ、とにかく回して楽しいし、いったん鞭をくれれば、アグレッシブなドライビングをクルマ自体が求めてくるのだ。

このマルチシリンダー自然吸気エンジンが圧巻なのは、12個のピストンをはじめとする稼働パーツが、オーケストラの奏でるハーモニーのごとく、一糸乱れぬ調和のもとに爆発的なエネルギーを発している様が、サウンドやパワー感をとおして手に取るように感じられる点だ。ドライバーはあたかもコンダクターになった気分で、この極上のV12エンジンを思い通りに操れる。いかに高度に躾けられたターボエンジンといえども、「488」や「カリフォルニア T」のV8では味わえないフィーリングだ。昨今、ダウンサイジングターボの波がフェラーリやポルシェまで飲み込んでしまったのはご存じのとおりだが、このV12自然吸気ユニットだけは、これからも存続してほしい。そんなことを願わずにはいられない、絶品のエンジンである。

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フェラーリ GTC4 ルッソに北イタリアで試乗

イタリアの至宝によるエポックメイキングな1台 (4)

さらに進化した4WDシステム

右へ左へとタイトなコーナーがつづくドロミテ一帯のワインディングロードを、ペースを上げて走る。全長5メートル、全幅2メートルに迫らんとするボディには少々手狭な舞台だが、GTC4 ルッソはスポーツカーそのものの軽快なスタンスで、次々に迫り来るコーナーを駆け抜けていく。とにかくノーズが軽い印象で、コーナーのエイペックスに引き寄せられるかのようだ。速度を上げれば上げるほどクルマとの一体感が高まり、ボディが小さくなったようにさえ感じられる。

GTC4 ルッソは、フェラーリがFFで開発した「PTU(Power Transfer Unit)」を用いた4WDシステムを継承している。クランクシャフトから取り出したトルクを通常の後輪用とは別にエンジン前方にも送り、フロントアクスル上に設置されたこのユニットにより前輪左右に振り分けるものだ。この画期的な機構により、システム重量を従来の4WDの50パーセントに抑えることができ、車両重量配分はフロントエンジンながら47:53を実現しているという。

このPTUと「E-Diff(電子でファレンシャル)」や「F1-Trac(トラクションコントロール)」を統合し、4輪の駆動力を制御する4WDシステムが、フェラーリがFFで初めて導入した「4RM」だ。GTC4 ルッソでは、より精度を向上させた進化版の4RMに、後輪も操舵する新たな機能を加えた「4RM-S(4輪駆動、4輪操舵)」システムを採用。第4世代のサイドスリップコントロールシステム「SSC4」をベースに開発されたこれは、SCM-Eのダンピングも統合的に制御するという。

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

このように、原稿を書いている筆者ですら頭がこんがらがるほどに電子制御デバイスがてんこ盛りなのだが、特筆すべきはそれらが完全に黒子に徹し、主役たるドライバーに存在を意識させないことだ。例えば、一見ステアリングに添えた手を持ち変える必要がありそうなタイトコーナー。3時と9時の位置においたまま腕をクロスさせるようにステアリングを切り込むと、GTC4 ルッソはきれいな弧を描くようにコーナーに吸い込まれていく。恐らく後輪操舵をはじめとする各種電子制御の賜物なのだろうが、一連の動きにまったく違和感がない。

エイペックスからアクセルペダルを踏み込むと、今後はドライバーの右足のわずかな動きにも反応して、強大なトルクを余すところなく推進力に変換する。終始安定した挙動で、ドライバーの思い通りに、ハイスピードでコーナーをクリアしていく。各種電子デバイスが運転者のスキルを補って最高のパフォーマンスを発揮させてくれているのだろうが、あくまで主役はドライバーであり、「クルマに乗せられている」という感覚をいっさい抱かせないのがすばらしい。フェラーリは、やはりいつの時代も最高のドライバーズカーをつくっているのである。それが、4人乗りの4WDモデルだとしても。

今回は、GTC4ルッソがもっとも真価を発揮するであろうハイスピードクルージングでのパフォーマンスを試す機会には恵まれなかった。また、4WD性能をフルに生かせるようなシーンもなかった。いわば、宝の持ち腐れ感を否めない試乗となったわけだが、それでも、渋滞をふくむ常用域からワインディングロードでのスポーツドライブまで、完璧ともいえるその走りに筆者は魅了された。ピュアなスポーツカーと豪奢なGT、その2つの顔を見事に演じる懐の深さに、深く感動した。そして、なによりも感銘を受けたのは、フェラーリのステアリングを握ることの喜びを、GTC4 ルッソがつねにドライバーの五感をとおして訴えかけてくれたことだった。

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

Ferrari GTC4 Lusso|フェラーリ GTC4 ルッソ

大人4人がゆったり乗車できる利便性や、路面と天候を選ばない万能性がGTC4ルッソのアピールポイントであることは間違いない。しかしこうした要件ならば、ほかのプレミアムブランドにも高い次元で満たしているモデルは存在する。もっとも重要なのは、息をのむ美しい内外装や悦楽に満ちた走りといったフェラーリならではの天賦の才と、多用途性という新たなる特長とを、見事に融合させている点なのだ。

「GTC4 ルッソは、いつでもどこでもフェラーリを運転する快感を体験したい、というお客さまのために設計されたモデルなのです」。開発担当者の言葉が、それを裏付けている。

ところで、冒頭に触れた「メスナー山岳博物館」は、南チロルで生まれ育った世界的登山家、ラインホルト・メスナーに由来するミュージアムなのだそうだ。彼は世界初となるエベレスト無酸素単独登頂をはじめ数々の偉業をなしとげ、アルピニズムの歴史にその名を刻んできた人だ。いわばイタリアが世界に誇る至宝である。

フェラーリもまた、数々の名車を生み出し、自動車の歴史にその名を刻んできた。歴史的名車の名を受け継ぐGTC 4 ルッソは、そんなイタリアの至宝によるエポックメイキングなモデルの1台といっても過言ではないだろう。ブルーニコから空港へと向かうバスの中、GTC4 ルッソとともに楽しんだドロミテの山並みを遠くに眺めながら、そんなことを考えていた。

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Ferrari GTC4Lusso|フェラーリ GTC4ルッソ
ボディサイズ|全長 4,922 × 全幅 1,980 x 全高 1,383 mm
車両重量|1,790 kg
エンジン|6,262 cc 65度V型12気筒
ボア×ストローク|94 × 75.2 mm
圧縮比|13.5
最高出力| 507 kW(690 ps)/ 8,000 rpm
最大トルク|697 Nm/ 5,750 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ(F1 DCT)
駆動方式|4WD
ブレーキ 前|φ398×38mm ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|φ360×32mm ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|245/35R20 / 295/35R20
0-100km/h加速|3.4 秒
0-200km/h加速|10.5 秒
100-0km/h減速|34 メートル
200-0km/h減速|138 メートル
最高速度|335 km/h
重量配分|フロント47:リア53
燃費|15ℓ/100km(およそ6.67 km/ℓ)
CO2排出量|150 g/km
車両価格|3,470万円

           
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