連載・柳本浩市|第29回 角田陽太氏とデザイナーの役割についてもう一度考える
Design
2015年4月17日

連載・柳本浩市|第29回 角田陽太氏とデザイナーの役割についてもう一度考える

第29回 角田陽太氏とデザイナーの役割についてもう一度考える

今回は、昨年秋独立したばかりの角田陽太さんです。バリバリのプロダクトデザイナーでありながら、彼の作品をみると、どこかアノニマスな雰囲気がただよっています。
いわゆるデザインが売れにくく、民藝やクラフト的な道具に注目の集まるなか、デザインとはそもそも何なのかが知りたくて、そんなとき、対談相手として角田さんを頭に思い浮かべました。デザイナーの役割についてもう一度考えてみる。そんな話ができたと思います。

Text by YANAGIMOTO Koichi

なぜ、ロス・ラブグローブのところに行ったのか

柳本 まずは角田さんがデザイナーになるまでの経緯を教えていただけますか?

角田 東京の大学を卒業後にロンドンに渡り、「AZUMI」(2004年までロンドンを拠点に活動していたデザインオフィス)でアルバイトをしていました。そこで仕事のやり方を覚え、その後はロス・ラブグローブ(国際的な賞を受賞するなど世界的なデザイナーとして知られている)のもとで働きました。そのときすでにRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)への入学は決定していたのですが、入学を一年間遅らせてロスのところに行きました。

柳本 角田さんがロス・ラブグローブのところに行ったのは意外なように思います。どちらかというとジャスパー・モリソンがイメージに近いのに、なぜロスのもとに?

角田 単純に近所だったんです(笑)。ロスのこともあまり詳しくなかったですし。ただ自分とは対極のデザインでありますが、ロスは真っ当なデザイナーであるので、いろいろと勉強できる機会があるだろうと。それで面接していただきました。ロスのオフィスでは主に3Dを中心に学んだ感じです。

柳本 そもそもなぜイギリスに渡ったんですか?

角田 1990年代半ばから2000年初頭のイギリスのデザインの盛り上がり方がすごかったので。ロンドンにスター的なデザイナーが集まり、彼らがデザイン/美術教育という場にも入り込んできた。その象徴が当時ロン・アラッドが教鞭を取っていたRCAでした。一度はそこで学んでみたいというのがロンドン行きのきっかけです。憧れのイギリスに行き、実際に勉強してみると……一年次は自分はそこまで派手でコンセプチャルなデザインじゃなくてもいいなと思い、デザインに対して僕のあり方が「普通」であることに気がつきました。二年次になるとさらに明解になって、自分が得意としているところは、ディテールであったり、細部への執着心であったり、ひとが愛着をもてる形状であるのことがはっきりと解った。それからの二年次は本当に充実した学生生活になりました。

僕がRCAに在籍中に、ケネス・グランジ(デザインスタジオ「ペンタグラム」の発起人の一人。プロダクトデザイナー)という特別チューターがいまして、彼のチュートリアルは必ず受講していましたね。当時、真っ当なデザインを目指しているひとは彼から学びたいというひとは多かったと思います。僕も彼との出合いによって、デザインのあり方を考えはじめるようになったと思います。

RCAを卒業するにあたり、ケネス・グランジの紹介で「ペンタグラム」に入ったんです。そこではインテリアデザインの担当者につくことになり、日本ではインテリア専攻だったこともあり、仕事のやり方はわかっていたのですが、やはりプロダクトデザインをやりたくて約2ヵ月で辞めました。それからはさまざまなデザイン事務所にポートフォリオを送り、最終的には「無印良品」(株式会社良品計画)からお声がかかり、東京に戻ってきました。「無印良品」では社員ではないですが、インハウスのデザイナーとして会社と契約をし、それから3年半勤務した後、昨年夏に独立し、今に至るという感じです。

インハウスデザイナーではできないことをやりたい

柳本 独立に対する特別な思いはあったんですか? またなぜこのタイミングだったんですか?

角田 3年くらいが仕事の区切りとしてちょうどいいかなと思っていまして。そのあいだ、「無印良品」に携わりながらもほかの仕事もやらせていただいていたので、なんとかなるんじゃないかと。また諸先輩方のアドバイスもあり、背中を押された感じです。

柳本 角田さんは「無印良品」時代からデザインタイド・トーキョーやミラノ・サローネに出品していましたが、それはどういう意図だったんですか?

角田 インハウスデザイナーではできないことをやりたいというのがきっかけです。世の中とコミュニケーションをとることがデザインだと思っているので、ためていたアイデアを発表して個人でやりたかったことをストレートにやり、それを介在して多くの方とコミュニケーションをとりたかった。インハウスの仕事は「こういうものをデザインしてください」と依頼なしでははじまらないので。2010年にデザインタイド・トーキョー、2012年にミラノ・サローネに参加しました。

柳本 「リーン・ロゼ」(1973年にパリで誕生したインテリア会社)からリリースされた家具「Mortaise」(角材がホゾのみによって、四方転びで組み上がる家具のシリーズ)は、サローネでの展示がきっかけですか?

角田 そうですね。サローネではメーカーの商品開発部隊が命がけでデザインを見ているので、そこで実際に声をかけていただいて。チャンスは転がっているもんだと思いました。

柳本 タイミングもよかったと思います。角田さんのデザインの雰囲気は意外とヨーロッパでありそうでない。あるとしたら今、トレンドになりそうなタイプかと。

角田 ありがとうございます。先の震災もあってから、デザインは本当に必要なのだろうか?と真剣に考えたこともあり、その結果必要だと思うに至り……現在は景気が悪いですが、自分は経済状況に左右されるデザイナーではないので、ならばきちんとやるべきことに向かい合おうと思っています。

柳本浩市|角田陽太 02

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デザイナーとして「どこか自分らしさを出していきたい」

柳本 ところで先日発表した「イエ・ラブ・ゾク FAMILY TREE TABLEWARE」についてお聞きします。一般のひとにとってデザインとは漠然としていて、「デザイン=デザインしてます」というわかりやすい空気を醸しだしているものですが、こちらのプロダクトは「どこがデザインなのか?」がわからないと思います。だけど角田さんはそこにとらわれているのではなく、使っているときのしっくり感を何より大事にしているのがわかります。

角田 僕は古いモノが好きで、蚤の市や骨董市に出向き、アイデアソースを見ることを繰り返しています。古いものからのインスピレーションを受け、そのリデザインが自分は長けていると思います。「イエ・ラブ・ゾク FAMILY TREE TABLEWARE」にかんしては、木曽にある酒井産業株式会社から出しているのですが、こちらはもともと秋岡芳夫さん(工業デザイナー)のお椀を作っていたことでも知られています。アーカイブとしてお椀として優れたものがあるので、高台の下に指がしっくりくるところはそのままにして、丸みを帯びた形状は自分らしさを出しました。どれくらいまでキャラクターを出していくか、その頃合いを狙っていく作業がおもしろかったです。思えば「AZUMI」にいたころから「キャラクターをどこまで出すか?」と安積さんやデザイナー仲間とよく話題にしていました。

柳本 そのへんの考え方は「無印良品」のプロダクトが無印というだけあり、キャラクターをどれだけ消すかというところを求められている。その消し方がわかれば、出し方もわかるわけで。

角田 僕もそう思います。使いやすいのはもちろん、デザインの痕跡を極力消すことが何よりでしたから。「無印良品」ではキッチン回りを中心にやっていましたが、在籍中、最後にかかわったのがマグカップ。ありきたりなマグカップに、デザイナーとして「どこか自分らしさを出していきたい」というのがありましたが、最終的には一番ベーシックな形になりましたね。

柳本 ところで角田くんの趣味といえば、骨董市に足繁く通うこともそうですが、イベントでDJをするとか、おいしいお酒を求めて飲み歩きをしたり……というイメージがありますが、デザイナーとしてどういう思いでそういうことに接していますか?

角田 そもそも自分が楽しむことに貪欲なんですよ。どれだけ安かったり、おいしかったり、雰囲気の良い飲み屋を探すとか。音楽にかんしてもそうですが、デザインすることと共通しているのは、根底に「ホスピタリティ」があることですね。行きたいところ、気になることを探していく行為と、骨董市に行って古いモノを探す、音楽を聴かせる、そして誰かに喜んでもらう。すべてデザインと一緒です。そんな気をはってやっているわけではないんですが、結果として「飲み屋をよく知っているデザイナー」と言われていますね(笑)。ありがちなデザイナーよりも「飲み屋に詳しくて、骨董市が好きで、アナログレコードで音楽を聴かせるデザイナー」がいてもいいと思います。

柳本浩市|角田陽太 04

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僕は「使われる道具」をデザインしたい

柳本 デザインって生活の一部に入り込んでいるものだから、デザインだけで生きているわけではなく、生活の中でデザインの役割を見出すことがデザイナーの仕事なのかなとも思います。

角田 デザインを生業にしていますが、別にそれがマストではないというか、すべて生活にかかわってきていることですし。神楽坂のあるお店に行ったらお酒の出し方で気づくこともいっぱいあるし、どれくらいの温度で日本酒を出しているとか、すべてデザインにもかかわることですからね。

柳本 「イエ・ラブ・ゾク FAMILY TREE TABLEWARE」のお椀もフォルムを楽しむものではなく、汁物をおいしく食べるという食事という行為のなかで使うものだし。お酒を飲みに行ってグラスや徳利だってデザインされているし。<・

角田 自分の考え方はRCAの二年次から一貫していますが、派手で自己主張することよりも、僕は「使われる道具」をデザインしたいんですよ。別にデザイナーは名前を出さなくってもいいと思うし、家具にしろ、家電にしろ、「使う」という行為に徹底的にこだわっていきたいんです。

柳本 そのへんが骨董や民芸に感じる共通項でしょうね。

角田 そうでしょうね。僕が好きな骨董品も、何年もの、誰々が作った、といった希少価値があるものではなく「道具」として魅力を発しているものですから。カトラリー、グラス、そば猪口……一点ものよりも量産品=商品が好きなんですよね。

柳本 こういうところからデザインのエッセンスを拾い上げていくんですね。

角田 そうですね。モノの良さやディテールから発想していくことはありますから。「リーン・ロゼ」からリリースした「Mortaise」も元ネタがありまして、アジアのある地域で使われている家具のディテールを見て、そこからリデザインをした感じですね。僕は特別に斬新なアイデアをもっているデザイナーではないので、半分は目の勝負かなって思っています。

柳本 あたらしい発見ってテクノロジーの進化によるものも大きいですよね。あたらしい技術ありきだったりする。ほとんどモノって過去に作られているから、過去のモノをパクるのではなく、それを使っていく。そこには自分のボキャブラリーも問われるし。DJもおなじですよね。マニアックな曲ばかりかけていても、お客さんはのってくれない。今の気分を察知して、みんながのれるものを提示できるかだから。

角田 過去の曲を自分なりに解釈して、いいところを引っ張っていく。インプットとアウトプットの関係でいえば、DJとデザインはやはり似ていますね。料理もそう。素材があってのクリエイティブな行為ですから。

柳本 調理道具を作るなら、何より料理が好きで、食べたり飲んだりが趣味でないと難しいかもですね。

角田 そうですね。カトラリーやグラスを作るなら、良いレストランや飲み屋を知っているデザイナーの方がやっぱりいいですね(笑)。

角田陽太|KAKUDA Youta
1979年 仙台市生まれ。2003年に渡英し、安積伸&朋子やロス・ラブグローブの事務所で経験を積む。2007年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)デザインプロダクト学科を文化庁・新進芸術家海外留学制度の奨学生として修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年、YOTA KAKUDA DESIGN設立。
http://www.yotakakuda.com/

           
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