連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第2回『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
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2018年10月16日

連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第2回『ヤング・アダルト・ニューヨーク』

連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ

第2回 世代の異なるカップルが互いに影響され成長していく
『ヤング・アダルト・ニューヨーク』

かつて、「まったく……」とあきれられ、奇妙なものを見るような目で見られていた若者たちは、やがて分別を持ち、次世代を「今どきの若者は」と嘆くようになる。それが社会の常だ。若者と大人が同居する限り、決してなくなることがないその繰り返しから起きるジェネレーション・ギャップを、風刺たっぷりに描く映画『ヤング・アダルト・ニューヨーク』は、台頭する次世代に違和感を持ち始めた大人たちにお勧めしたいロマンティック・コメディだ。

Text by MAKIGUCHI June

「今どきの若者は……」人は、そう言われる時期を通り過ぎて大人になる

ブルックリンに暮らす44歳の売れないドキュメンタリー監督のジョシュと、その妻で42歳の映画プロデューサーのコーネリア。二人の間には子供がおらず、「僕らは自由でありさえすればいい」というのが人生のモットーだ。ジョシュは評判の良かった前作から8年経った今も、ずっと新作を編集中。アートスクールの講師としても働いていた。

そんなある日、授業が終わると一組のカップルが声をかけてくる。ジョシュのファンだという監督志望のジェイミーと、その妻でアイスクリーム職人のダービーという20代の夫婦だ。成り行きでコーネリアを交え、4人で食事をすると意気投合。作品を観て欲しいと家に招待された40代夫婦は、そのライフスタイルにビックリ。

レトロな音楽をレコードで聴き、古い映画をビデオテープで鑑賞。家具は手作り、思い出せないことは「面白いから思い出せるまで待つ」とスマホで調べず、SNSもさほど活用していない様子。単調だった生活に、新しい発想で刺激を与えてくれる20代夫婦に同調し、影響を受けていく40代カップル。同年代の落ち着いた友人たちとは疎遠になるものの、刺激的な新世代との交流で、まるで自分が若返ったかのような錯覚に陥るのだ。

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だが、楽しいのは初めだけ。やがて、世代間にある価値観やモラルの違いに直面し、否が応にも自分がすっかり大人であることを思い知らされるのだ。本作ではそこに至るまでの、青年期最後の悪あがきのようなものが軽妙洒脱に描かれていて何とも興味深い。40代の読者ならば、あるある感が満載につき要注意だ。自分を見ているようで苦笑いしたくなるかもしれない。

もう自分が若くないと認めることは辛いことだ。だが、大人たちは明らかに失われてしまったものに、本作を通して気づくだろう。若者の特権とは、怖れを知らず突き進めること。世界を知らず、自分たちの価値観の方が、大人のそれよりも優れていると信じ込めること。そしてしがらみゆえに、当たり前のことを当たり前にできない大人たちを見ては、心からふがいないと思えること。

社会に出れば、大人社会の洗礼を受け、正論だけでは社会は成り立たないことを思い知るとしても、大人になりきる前の若者たちが持つことのできる、不遜ともいえる全能感はある意味で貴重なのだ。今の常識に抗い、新しい時代の新しい価値を生み出すことができるのは、いつも失敗を恐れず、しきたりにとらわれない心だからだ。

ならば、もはや自分にそれがないと気づいたら、譲るべきものは次世代に譲ろうという潔さが大人の度量といえるのかもしれない。どれほど歳をとっても、自分だってかつては持っていたはずの怖れを知らぬ精神を、どんと受け止められる大きな人間でありたいと思う。若者たちの心を、素直に眩しく感じ賞賛できる先輩でありたいと。

劇中、ドキュメンタリーでどこまで創作、作為が許されるかという議論になったとき、40代と20代の監督の間でモラルや価値観のズレが明らかになるのだが、誤解を恐れずに言うならば、タブーぎりぎりのところで攻めの姿勢をとることが、時に偉大なものを生むこともあるのも事実。クリエイションに関するものは、特にそうだろう。

常識が目の前で塗り替えられることは、恐怖だ。だが、その時はやって来る。ジョシュとコーネリアの成長を見て感じたのは、大人になるということは、きっとどれほど異質なものが現れても揺るがない核、価値観を持てることなのだろうということ。自分は自分だと思えれば、他者の違いも受け入れられる。

本作は、80年代の音楽に乗せて、最先端カルチャーを、風刺を効かせつつ描いたおしゃれなコメディだが、現代をしっかりとらえ、どう生き抜くかというヒントが隠されている。笑いのあとに、強い感慨が残るのは、常に、新しい世界や新しいものが登場する社会において、自分はどうあるべきなのかを考えさせられるせいだろう。本作は、「もはや自分は若者ではないと気づいた大人たち」への応援歌でもあるのかもしれない。

★★★☆☆
“若いつもり”の40代描写が、時折痛すぎて笑うしかない。リアルだけれど、容赦のないところが素晴らしすぎて実に憎らしいから、星3つ。

『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
監督:ノア・バームバック 『フランシス・ハ』『イカとクジラ』
出演:ベン・スティラー『LIFE!/ライフ』、ナオミ・ワッツ『21グラム』、アダム・ドライバー『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』、アマンダ・サイフリッド『レ・ミゼラブル』
7月22日(金)、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー
©2014 InterActiveCorp Films, LLC.

牧口じゅん|MAKIGUCHI June
共同通信社、映画祭事務局、雑誌編集を経て独立。スクリーン中のファッションや食、音楽など、 ライフスタイルにまつわる話題を盛り込んだ映画コラム、インタビュー記事を女性誌、男性誌にて執筆中。

           
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