新型メルセデス・ベンツ SLに試乗|Mercedes-Benz
CAR / IMPRESSION
2016年3月25日

新型メルセデス・ベンツ SLに試乗|Mercedes-Benz

Mercedes-Benz SL|メルセデス・ベンツ SL

新型メルセデス・ベンツ SLに試乗

スパルタンなスポーツカーにはならない

ビッグマイナーチェンジを受け、2015年11月のロサンジェルス自動車ショーでデビューした新型SL。昨今のメルセデスのデザイン文法に則りフロントまわりの意匠も大きく変わった同モデルに、モータージャーナリスト小川フミオ氏が試乗した。

Text by OGAWA Fumio

SLが守るべきコアバリュー

メルセデス・ベンツのぜいたくなロードスター、「SL」が大きなマイナーチェンジを受けた。2015年11月の米国ロサンジェルス自動車ショーでお披露目された新型SL。さる2016年2月に、サンディエゴ近郊での試乗会が開催された。

SLのマイナーチェンジの眼目は、新エンジン、新トランスミッション、安全装備と快適装備の充実である。そのなかには、コーナリング中に車体の傾きを抑えるダイナミック カーブ機能を含むアクティブ ボディ コントロールもある。

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ボディサイズは、全長4.63×全幅1.88×全高1.31メートル。写真はSL400。

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トランク内には自動トランクセパレーターが備わる。また、足の動きでトランクが開けられる。

ラインナップは下記のとおり。

SL 400(3リッターV6)
SL 550(4.7リッターV8)
メルセデス-AMG SL 63(5.5リッターV8)
メルセデス-AMG SL 65(6リッターV12)

「SL 400」の3リッターユニットは、現行の「SL 350」の3.5リッターV6に代わる新開発のもの。排気量は小さくなったが、パワーアップしたので車名の数字も増えたようだ。最高出力は25kW(35ps)上がって270kW(367ps)、最大トルクはやはり20Nm増して500Nm。「SL 550」の4.7リッターユニットは、430kW(585ps)の最高出力と、700Nmという大トルクを発生する。

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5つの機能を備えたLEDインテリジェントライトシステム採用。ヘッドランプのハウジングは従来型より拡がっている

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ドアのベルトラインと一体化したダッシュボード。4つの丸型エアアウトレットが特徴的だ

2車種はともに、今回あらたに9段オートマチック変速機が組み合わされる。加えてダイナミック セレクトの採用で、クルマの特性を、燃費重視のモードからスポーツモードまで変化させることができる。その場合。変速タイミングの制御にはじまり、サスペンション ダンパーの特性変化、ステアリングの速度などが対象だ。

外観は、フロントの意匠に手が加えられた。グリルが台形となったのがひとつ。それを挟むように配置された変型ヘッドランプはハウジング拡大。加えてLEDインテリジェント ライト システムが組み込まれている。

「ロングボンネット、ショートトランク、大容量の荷室、そして快適な乗り心地、これらをSLのアイデンティティとして守るように心がけています」

米国の試乗会会場で、ドイツ本社からやってきた開発担当者はそう語る。SLには守るべきコアバリューがある。それがモデルチェンジを繰り返しながら、60年近くにわたって自動車マーケットの一角できちんとした地位を占めてきた理由なのだという。

SL 400を操縦すると、その意味がわかった。

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Bang & Olufsen BeoSound AMGサウンドシステムは、900Wの16チャンネルDSPアンプに12個のスピーカー

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新型メルセデス・ベンツ SLに試乗

スパルタンなスポーツカーにはならない (2)

快適な気分で巡航できるのが魅力 ―― メルセデス・ベンツ SL 400

SLとは、スーパーライト(本当はドイツ語)を意味する頭文字だ。メルセデス・ベンツはその伝統を意識していて、このモデルでもアルミニウム製の部材を多用。「スチールを使用した場合に想定される重量より約110kgも軽くなっている」とする。

軽量化を目指したボディに、よりパワフルになったエンジンの組み合わせ。新型「SL 400」をひとことで表現すると、そうなる。500Nmと太いトルクを2,000rpmから発生する3リッターV6エンジンは、気持ちよく走るのに、十分な力を持っている。エンジンは回転マナーも悪くなく、270kWの最高出力が出る5,000rpmまで引っ張って回すときの加速感は気持ちよい。

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自動開閉できるハードトップのバリオルーフ

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新開発の3リッターV6搭載のSL400。SLシリーズには9段ATを採用

SL 400のよさは、メルセデス自身が認めているように、マヌーバビリティのよさ。つまり、快適な気分で巡航できるところにある。現行のSL 350で1,248万円なので安いクルマでないけれど、それでも上に位置するSL 550は400万円近くの価格差があるので、6気筒モデルでSLのよさを味わおうというファンが少なくないのも納得いく。その人たちを失望させない仕上がりだ。

試乗したSL 400には、オプションのアクティブ ボディ コントロールが装備されていた。スプリングとダンパーの特性を制御して、発進時、制動時、コーナリング時のボディの動きを制御するシステムだ。これにより、ハンドリングと乗り心地の設定が好みで選択できる。

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エアアウトレットをイメージしたアイコンが前輪のタイヤハウスの後ろにつく

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ステアリングホイールはフラットボトムタイプとスポーティ

ダイナミック セレクトと合わせて、燃費重視、快適性重視、あるいはスポーツ性重視と、ドライバーは好みで運転特性を選べるようになっている。なかでも注目は、ダイナミック カーブ機能が搭載されていることである。

「カーブ」と縮めて呼ばれることもあるダイナミック カーブ機能は、車速15-180km/hの範囲で、クルマの角度を最大2.65度傾斜させるもの。コーナリング中に乗員にかかる横Gを大きく低減するのが目的と説明される。

「カーブが連続する道を走るときに、乗員の体が揺れすぎて不快な思いをしないのが採用の意図」と開発担当者は説明してくれた。快適性を追求した技術「カーブ」がAMGモデルに採用されないのは、スポーツ特性が強い車両には不要と判断されたためだそうだ。

スポーツ性について触れたが、メルセデス-AMGモデルは目がさめるような楽しさだ。

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新型メルセデス・ベンツ SLに試乗

スパルタンなスポーツカーにはならない (3)

ものすごく魅力的なクルマとして“再生” ―― メルセデス-AMG SL 63

SLには2つのAMGモデルがある。2015年初頭に発表されたブランド再編コンセプトにより、今はメルセデス-AMGというのが、正式なブランドである。

今回SLに設定されたのは、430kW(585ps)の最高出力と、900Nmという大トルクを発生する5.5リッターV8搭載の、メルセデス-AMG「SL 63」。もう1台は、463kW(630ps)と、なんと1,000Nmの6リッターV12のメルセデス-AMG「SL 65」である。こちらは受注生産という特別なモデルだ。

Mercedes-AMG SL|メルセデス-AMG SL

5.5リッターV8搭載のメルセデス-AMG SL63。メルセデス-AMGモデルにはツインブレード・ラジエターグリルが与えられる

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長いボンネットが独特の美しさ。SL 63のタイヤサイズは前255/35R19、後ろ285/30R19

SL 63は、素晴らしいクルマだ。グリルが台形型となって、ボンネットが前方に飛び出すようなった新しい意匠は、F1でペースカーに使われていたAMG GTとの関連性を連想させる。AMGモデルでも同様だ。ただし「ダイヤモンドグリル」でなく、力強い横バーがスリーポインテッドスターを支えるようなデザインになっている。

より立体的な造型のシートに身を落ち着け、しっとりと手の平に吸い付くようなレザーで巻かれたステアリングホイールを握るだけで、このクルマが秘めたポテンシャルが伝わってくる気がする。優雅なフルオープンのロードスターであるSL。しかし、V8の低いうなりが、スポーツカーに乗るときと同じ気分の高ぶりを味わわせてくれるのだ。

トルクたっぷりのエンジンをフロントに搭載したシャシーは剛性感たっぷりで、オープン状態のまま路面の段差を越えようが、みしりとも言わない。ステアリングはごくわずかに切るだけで、車両は敏感に反応して向きを変える。そしてエンジン回転を上げていくと、ロケットのような加速感だ。

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速度計と回転計でツインチューブルックを形成。円形メーターのあいだにはTFTマルチファンクションディスプレイがレイアウト

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SL 63にはAMGスピードシフトMCT 7段スポーツトランスミッションを搭載

カーブが連続する山岳路が試乗コースだったが、姿勢はつねにフラット。かつ正確で効きのよいブレーキペダルを操作すると、7段のスポーツトランスミッションによりシフトダウンが素早く、的確に行われる。小さなコーナーを抜けていくときでも、適正なトルクバンドが維持される設定に感心するばかりだ。ようするに、どんな道でも、速いのである。

少なくても日本では、2012年に発表されたSLの存在感がやや希薄になっていたかもしれない。ところが、ものすごく魅力的なクルマとして“再生”したのである。

メルセデス-AMG SL 65は、芸術品のような出来だ。

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新型メルセデス・ベンツ SLに試乗

スパルタンなスポーツカーにはならない (4)

脳天を突き抜けるようなスピード感 ―― メルセデス-AMG SL 65

SLの頂点に位置するのが、メルセデス-AMG SL 65だ。SL 63は現行モデルで2,000万円を超える価格で、2012年にSL 65が発売されたとき、価格は3000万円を超えていた。車名の数字は2つ違うだけだが、ポジションはだいぶ違うのだ。

SL 65は車体側面に「V12」の文字が誇らしげに入る。加えて、深いフロントエアダムにクロームのトリミングがほどこされている。それを見ただけで、知っているひとは、このクルマが受注生産の特別な1台だと分かるのだ。

V12はウルトラとつけたくなるようなスムーズさ。1,000Nmという、やはりウルトラビッグなトルクを2,300rpmから発生するだけあって、その気になると加速は矢が放たれたようである。周囲の景色がとてつもなく速い速度で後方へと流れさる。米国のフリーウェイでは、欧州と違い、周囲の車両との速度の調和が安全性につながるため、異次元の速度感を味わい続けるのは難しいが、一瞬の動きがとてつもなく鋭い。

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SL 63およびSL 65には、「コンフォート」「スポーツ」「スポーツプラス」「インディビジュアル」「レース」と5つのドライブモードが備わる

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メルセデス-AMGモデルのリアは新しいディフューザールックのエプロンが目を惹く。

アクティブ ボディ コントロールによる姿勢制御もスポーティな走行特性に寄与しているのだろう。カーブではステアリングホイールへの反応速度は素早く、入り口から出口まで、そしてそこからの加速というすべての場面で、脳天を突き抜けるようなスピード感が堪能できる。

足回りは、ただし、硬めで、とくにパッセンジャー シートにいると、路面の凹凸をしっかり感じる。フロントで255/35R19、リアで285/30R20という超扁平タイヤのせいもあるだろう。まあ、静止から時速100kmまで4秒というスーパースポーツカーなみの加速性能を持つモデルである。SLのスポーツカーとしての可能性と、スポーツ性能の奥行きの深さを味わえる代償としては安すぎるぐらいだ。

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SL 65のタイヤサイズは前255/35R19、後ろ285/30R20

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メルセデス-AMGモデルにはナッパレザー張りスポーツシートが標準装備

「ポルシェ911がライバルということもできますが、近づいていっても、ふみとどまる線があります」

SL 65に乗ったあと、開発担当者に将来的な開発意図を訊ねたときの答えである。

「SLはスパルタンなスポーツカーになりません。最近ではポルシェ911が快適志向を見せているし、顧客のなかには、SLか911かで迷う人がいるのも事実です。だからといって、いくらAMGといっても、SLはスポーツカーにはなりません。ドライバーに負担をかけない。1,000キロ走っても疲れない。そういう要素を、私たちはつねに重要視しています」

最後に、SLシリーズ全体で、安全装備が充実されたことを記しておこう。

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新型メルセデス・ベンツ SLに試乗

スパルタンなスポーツカーにはならない (5)

豊富な安全装備

新型SLは安全装備が豊富だ。これもマイナーチェンジにおける大きな眼目といえる。

アダプティブブレーキアシストによるレーダー型車間距離警告およびブレーキ支援に加え、自動ブレーキングを行うことで、追突事故を起こすリスクを軽減するアクティブブレーキアシスト。

先行車との安全な車間距離維持のディストロニックと、車線の中央位置を維持できるよう支援するステアリングパイロット。車線変更時などにドライバーに警告を行い、片側だけにブレーキをかけることもあるアクティブブラインドスポットアシスト。

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メルセデス-AMGモデルにはIWCのロゴが入ったアナログ時計

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SL 65にはAMGスピードシフトPLUS 7G-TRONICを搭載

車線逸脱を検知した際、ステアリングホイールを振動させることでドライバーに知らせるとともに、片側だけにブレーキをかけることでクルマを車線内に戻すよう支援するアクティブレーンキーピングアシスト。

ハイウェイモード、コーナリングライト、カメラを利用するアクティブライトシステム、ラウンドアバウトライト機能、フォグランプ強化機能の5つの機能を搭載のLEDインテリジェントライトシステムも備わる。うんとアップデートされて強力になったSLは、2016年半ばに日本発売が予定されている。

           
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