INTERVIEW|スカイツリー照明デザイナー 戸恒浩人(前編)

INTERVIEW|スカイツリー照明デザイナー 戸恒浩人(前編)

LOUNGE INTERVIEW

INTERVIEW|照明デザイナー 戸恒浩人

スカイツリーを照らせ(前編)

5月22日(火)、東京の街にあたらしいシンボルが誕生する。高さ634メートルという、世界一の高さを誇る塔の名は東京スカイツリー(以下、スカイツリー)。東京タワーの後を継ぐあたらしい電波塔だ。建物そのものの美しさもさることながら、わたしたちが一番目にすることになるのは、おそらく一日を終えて家路を急ぐとき、ふと顔を上にあげた瞬間に見える“夜の顔”ではないだろうか。その顔を彩るライティングを一からデザインする重責を与えられたのは、若手照明デザイナーの戸恒浩人(とつね ひろひと)さん。東京で生まれ、人生のほとんどを東京ですごしてきた戸恒さんが、スカイツリーに込めた想いとは──

Photographs (portraits) by JAMANDFIXPhotographs (Tokyo Sky Tree, Tokyo Hotal) by PanasonicInterview & Text by TANAKA Junko (OPENERS)

インスピレーションはベルギーと富士山!?

都市ごとにちがう光の表情。戸恒浩人さんに一番インパクトを与えたのは、小学校5年生から中学校2年生まですごしたという、ベルギーのブリュッセルで見た“奥行きを感じる光”だった。

「遠くまで景色が見えたり、ある象徴的な教会が光っていたりすることで、街の景色としてすごく奥行きを感じました。街全体も、日本に比べると暗いんですが、たとえばちょっとした道路が照らされていたりとか、そういう風に効果的に光があることによって、途中の暗さが気持ちよく感じたりして。そういう体験が子供のころにあったんですね。そのころは、照明を仕事にするなんて見えてなかったんですけど、『なんか光っていいもんだな』って感覚的におもうようになりました」

そんな体験を経て帰国した戸恒さんに、東京の街はどんな風に映ったのだろう。

スカイツリー照明デザイナー|戸恒浩人 02

「東京って高層ビルがいっぱい建っているんで、大きい都市っていわれるわりに、景色としてあまり広がりを感じないんです。夜の光をとってみても、基本的にベチャッと明るいか、暗くて気持ち悪いか、極端にそのどっちかで。明るい光っていうと、“お客さんを呼び込む光”しかないじゃないですか。居酒屋しかり、パチンコ屋しかり。で、途中で急に機能的な街路灯や自動販売機の蛍光灯にかわる。それがすごく寂しくて。『なんでこんなに大きな都市なのに景色がないんだろう』とおもっていました」

そんな東京の下町に誕生した“のっぽ”なスカイツリーは、街のいたる場所で目にすることができる。ただ、戸恒さんの言葉どおり、ここは高層ビルの立ち並ぶ街。なかなかその全容を確認するのは難しい。戸恒さんがライティングをデザインするときにイメージしたのも、そうしたビルの合間からちらっと顔をのぞかせたスカイツリーの姿だったという。

「スカイツリーがどういう風に見えるかなって想像したときに、多分ビルの合間とかに突然建って浮かんで見えるっていうか、そういう出会いが非常に多いだろうなとおもったんですね。それが近かったり遠かったりするちがいはあるとおもうんですけど。そのときに全部をドカーンと照らして、いわゆる『俺いるぜー』みたいな(笑)、そういう光と影のコントラストが強い見せ方よりも、もっと日本の情緒っぽく、ほっこり月が浮かんでいるように、ふわって優しく浮かんでいるような感じであってほしいなっておもったんです」

そんな戸恒さんにインスピレーションを与えたもの。それは、遠くからそっと東京の街を見守ってくれているようにたたずむ、富士山の存在だった。

「デザインを考えるとき、江戸のことをちゃんと知らなければいけないということで、文献をずいぶんあさってみたんですけど、江戸の人って富士山が大好きなんですよね。版画にもたくさん登場していますしね。しかもその富士山っていうのは浮いているんです。昔ほどは見えなくなりましたけど、いまでもときどき富士山が見えたときってはしゃぐじゃないですか。『あ、見えた!』って。ああいう、ラッキーアイテムみたいな存在感があるなっていうのをおもったときに、ひらめいたんです。スカイツリーが“夜の富士山”みたいに見えたら、江戸の原風景みたく、象徴的に日本らしくなるんじゃないかって。

スカイツリー照明デザイナー|戸恒浩人 03

富士山って、東京から見ると決して近い存在ではないんです。遠くから見守ってくれている感じがあって。スカイツリーも多分、この現代的な風景のなかで、そんな風に見守っていてくれる存在になるんじゃないかと。やっぱり浮かんでいる感じ。そのふたつのイメージが重なったときに、これは照らし方として、てっぺんを白くして上から下に照らすことで、末広がりに浮かんでいる感じが出るんじゃないかなとおもい、そこからデザインをはじめました。もし“ライトアップ”してしまうと、下の光が強くて上に向かっていくと消えていく。それを逆に使って、下に向かって消えていくように照らしたいと。すごく珍しいかたちなんですけど、それをスカイツリーではやってみたいとおもいました」

まるで頭を雪で覆われた富士山のように、てっぺんを白く光らせて浮かぶ塔。そんな明確なイメージを持ってアイデアを練っていった戸恒さん。仕事はスムーズに進行すると思われた。が、世界にも類がないスカイツリーの“かたち”が、一級建築士の資格を持つ戸恒さんの心を迷わせてしまったのだ。