911カブリオレ試乗―渡辺敏史
CAR / FEATURES
2014年12月12日

911カブリオレ試乗―渡辺敏史

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

ポルシェ 911 カブリオレ海外試乗記

1982年のデビューから30年の時を経て、ついにクーペとまったく同一のシルエットを得るにいたったポルシェ「911カブリオレ」に、スペインはカナリア諸島で渡辺敏史氏が試乗。

Text by WATANABE Toshifumi
Phtographs by Porsche Japan

ついにクーペとおなじサイドビュー!

カイエンケイマンそしてパナメーラ。21世紀に入ってからのポルシェは、モデルレンジの拡大もあって販売台数を大幅に伸ばしてきた。が、なんであれ、ポルシェにとっての精神的な支柱が変わらず「911」にあることは、そのデザインからして察することができる。

そう、ラインナップのすべてはなんらかの関連性をもってこのクルマへと帰結する。911がユーザーにとってだけでなく、ポルシェ自身にとっても不動のアイコンである理由は、取りも直さずスポーツカーの最前線に立ちつづけてきたこのクルマの歴史によるところが多い。

あたらしい911カブリオレのカンファレンスで、一番最初にもっとも多くの時間を割いて説明されたのはそのスタイリングだった。曰く、82年の初代カブリオレデビューから30年の時を経て、ついにクーペとまったく同一のシルエットを得るにいたったという。

おそらくポルシェにとっては悲願だったのだろう。たしかに前型ではルーフの格納部にみられた膨らみは綺麗に処理されており、そのサイドビューは完全にクーペと同一になっている。そのためにはメタルトップとちがってコンパクトに格納できる幌屋根の採用は必須、というよりも彼らはメタルトップを採用する気など毛頭なかっただろう。ただしクラスのライバルを意識すれば、メタルトップに比する耐候性や快適性の確保もマストだったはずだ。

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

結果的に幌屋根は、アウターに風合いの良いジャーマントップをまといつつも、その内側には後席側にいたるまでボードが仕込まれ、さらに新開発の吸音材を挟んでインナー側には成型ライナーが用いられる4層構造となった。

室内側からみてもクーペと遜色のないカチッとした仕上がりをみせるそれは、幌をあげた状態でのエクステリアのカチッとした佇まいにも大きな影響を及ぼしている。ちなみにこの幌屋根の開閉動作は前型と同様の電動油圧式で、時速50km/hまではボタンひとつの全自動となるが、その所要時間は13秒まで短縮された。そして後席側には、120km/hまで作動可能な電動可倒式ドラフトストッパーが設けられている。

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

ポルシェ 911 カブリオレ海外試乗記(2)

走りの差はいかに?

911カブリオレのクローズ時の快適性に関しては、前型にあたる997型後期のカブリオレにおいても相当な領域に達していたのは、かつての試乗で僕自身が実感していたことだ。高速道路も通行止めになる暴風雨のなか1,000kmを走破したこともあるが、雨風をものともしない幌の剛性感や水滴ひとつ漏れない密閉度の高さに驚かされた。

天候に恵まれた今回の試乗では降雨時の状況こそわかりかねるが、その遮音性の高さは前型のそれをも上回るものだった。内側に仕込まれたボードの効果もさることながら、マグネシウム等の素材で軽量化された骨格の剛性感もしっかりしており、大パワーをくわえようがギャップを乗り越えようが屋根はミシリともいわず、高速域でも走行風は軽やかに屋根を舐めていく。

気候的にどうしてもクローズの時間が多くなりがちな日本の環境にも向いている。

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

いっぽうのオープン時は、フロントスクリーンから頭上へのエアフローは問題ないが、4枚のサイドウインドウを立てても後席空間から車内への巻き込みはどうしても発生する。それを抑止するのが件のドラフトストッパーで、これを立てておけば、200km/h近い速度でもキャビンは大きく風に掻きまわされることはない。

たとえその速度域になったとしても、オープンカーにありがちなフロアやスカットルからの振動は感じられず、普通に走るぶんには、もはやクーペとの差異は若干の重量増を除けば無に等しい。

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

そして公道試乗に供した車輌をそのままもちいてのサーキット走行でも、負荷の高いタイトベントや切り返しにおいてボディ剛性の不足はいっさい感じさせず、おもったとおりの挙動でおもったとおりにコーナーを清すがしくクリアする。新型911において大幅な車重低減はむしろクーペよりもカブリオレにおいて顕著にあらわれるかもしれないとおもったのは、こういったハイスピードレンジでの振りまわしにおいて、前型ではクーペよりもカブリオレのほうが車体後半に大重量を抱えている印象がどうしても強くあらわれる傾向があったからだ。タイムを競うのはともあれ、たのしむためのサーキットスピードでの感覚も、もはや新型911ではクーペとカブリオレの差異は無に等しいといって差し支えないだろう。

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

ポルシェ 911 カブリオレ海外試乗記(3)

選ばない理由はない

今回の国際試乗会には、クーペの時には生産立ち上げの関係で間に合わなかったカレラも用意されていた。つまり3.8リッターのカレラSと3.4リッターのカレラ、2つのエンジンバリエーションを試すことが出来たのだが、両車の差異は997の世代よりもより明確化されている。

平たく言えばカレラのほうは2,000rpm以下の低回転域において若干トルクの薄さを感じさせるものの、そこから高回転に向かうにつれてシャープにパワーを乗せていく、いわばまわして稼ぐ特性。

たいしてカレラSは初手からの厚いトルクから淀みなくつづく一線級のパワーが売り。いずれもCO2にしてほぼ200g/kmと、非常に高い環境性能を両立しているとはおもえない味わいをもつが、パワーに慣れたクルマ好きにとってはカレラSの方が満足度が高いといえるたろう。たいすればカレラは日常のアシとしての快適性を重視する向きにお薦めということになるだろうか。

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

Porsche 911 cabriolet|ポルシェ 911 カブリオレ

ハンディなサイズにしてリアシートも駆使すれば大きなラゲッジスペースを生み出せる、誰もが認めるスポーツカーにして、その実用性の高さこそ911の大きなウリのひとつ。

今度のカブリオレはその特徴を余さず叶えつつ、上質な乗り心地や世界屈指の運動性能までもクーペと肩を並べてしまった。引かれるものはなにもなく、オープンモデルならではの爽快感がそこにくわわるのだから、もはや選ばない理由はないというのが正直な印象だ。

もちろん、そんな軟弱なクルマは911ではないというファナティックも世界にたくさんいることはポルシェとて百も承知。そのかたがたに向けたグレードとして、GT3はこれまで以上に存在感を高めることになるはずだ。

           
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