ポルシェ 911試乗―鈴木正文篇

ポルシェ 911試乗―鈴木正文篇

CAR FEATURES

Porsche 911|ポルシェ 911

インタビュー 鈴木正文 ポルシェ 911に試乗

日本デビューを果たした991型911こと7代目ポルシェ911。OPENERSでは『GQ』誌編集長 鈴木正文氏にも試乗を依頼した。歴代の911を試してきた鈴木氏は、この新型911をどう見る?

Text by SUZUKI Fumihiko(OPENERS)

神経のとおる道具

ちょっと難しい話になるかもしれないけれど、クルマにかぎらず人間でも、神経がとおる身体と、とおらない身体があります。たとえば、いくら一生懸命走ってもバタバタしてしまうとか、足のつま先が頭の先まで上がる人もいるけれど、上がらない人もいる。年を重ねることで、本当に神経がとおらなくなって、腕をまわせない、ということだってあります。

道具は、道具だから無機物だけれど、ヒトが使う道具は有機的な身体の一部になりえます。市川浩という哲学者が、剣の達人にとって感覚は、刀の刃先まで延長されていて、うっかりすると素手でなにかを認識するよりも剣の刃先の感覚のほうがリアルに伝わることがある、といっているけれど、自動車の運転というのも、自動車に神経をとおして、自分の身体の一部にする。クルマでもなければ、たんなる身体の殻に封じ込められた完結体としての人体でもない、合体物が生成する。その生成の場所というのが、運転の場所だ──と、こういう考え方を前提とすると、911というのは、神経がとおったときに、本当のスポーツカーになるクルマです。

神経がとおっても、僕が普段乗っているシトロエンの2CVと僕の合成体ができることは──十分にいろいろなことができるにしても、運動能力はそんなに大したものではありません。だから、100m走って「クルマと人間の合成体は、こういうことができるのか」とおもうような、目覚しい走り方はできない。たとえば、内村航平選手が鉄棒なり床運動なりをやって、「人間はこんなことまでできるんだ」という感動をあたえるのは、内村選手ならばできるのであって、でんぐり返しがうまくできて、バック転するのが精一杯の人とはちょっとレベルがちがいます。2CVもでんぐり返しなんかはちゃんとできるけれども、バック転はできないかもしれないな。(笑)

つまりクルマを身体にたとえると、どこまで肉体を鍛えているのか、という肉体のレベルの問題があります。今回乗ったあたらしい911のカレラSは、3.8リッターのエンジンをのせて、それに耐えるように、乗り手を得ればオリンピックに出場するくらいのレベルの鍛え方をしています。もちろん自動車だから、普通の道を普通に走ることもできる。練達の職人が使う包丁では、菜っ葉を切るのには向かないかもしれない。でも自動車の世界でそういう本当のプロの道具というのは、レーシングカーだから、911はロードカーとして普通に、2CVが歩くように、歩くこともできます。でもだからといって、それであたらしい911がつまらないとは、必ずしもいえません。

PORSCHE 911|ポルシェ 911 02

ABOUT
SUZUKI Masafumi

1949年東京生まれ。英字紙記者を経て、二玄社に入社。自動車雑誌『NAVI』の創刊に参画し、89年に編集長就任 […]