MINI コンバーチブルとの差異は!?

ベースモデルである3ドアハッチバックの多様なユーティリティをバッサリと切り捨てて2ドア・2シータークーペに仕立てたMINI クーペ。拡大するMINIのバリエーションがことごとく日常性にこだわりつづけてきたことを思うと、その異端ぶりは際立ってみえる。

それはスタイリングにしても然り。ルーフを別色で仕立てられることがデザインの前提となっているMINIのファミリーにおいても、クーペのそれはことさらに違和感が強い。ハードトップをかぶせたかのような不安定さを敢えて狙ったのだろうが、ミニの精神的故郷であるイギリスの、いにしえのライトウエイトスポーツへのオマージュにもみえる。

つまりMINI クーペがフィクスヘッドクーペ的な立ち位置であるとするならば、そこにいるべきはロードスターだ。そんなのは先刻承知のうえと言わんがばかりに、クーペとさほどたがわぬタイミングで登場したMINI ロードスターというクルマには、そういう遊び心を汲み取らなければ既存のコンバーチブルとの差異がみえないだろう。後者が何もかもを賄える3ドアハッチバックの代替案だとすれば、ミニ・ロードスターは背負うものを切り離した粋が評価されるべきモデルと言えるだろう。

とはいえ、そこは現代のクルマだ。ベースモデルである3ドアハッチバックに対して、50mmも低められた全高と13度寝かされたAピラーによって形づくられるMINI ロードスターのプロポーションをみるに、居住性への配慮は二の次という印象を受けるが、乗り込んでしまえば窮屈さは感じられない。眼前に広がる景色の切り取られ方はヘルメットを被っているように横長だが、それも別物のMINIに乗っている印象として心地よく受け止められる。

シートバックにはジャケットやハンドバッグを放り込むに必要充分なスペースを構えるあたりはMINI クーペと同様。コンパクトに格納される幌屋根のおかげで、トランクスペースもMINI クーペに対して40リッター減の240リッターが確保される。ロードスターとて、2人分のハンドキャリーと手荷物を載せて空港に向かう……程度の用途は賄えるというわけだ。

公道を楽しく走るのにもってこいの足まわり

慣れれば車内からも操作可能な手動式の幌をおろすと、得られる開放感は相当なものだ。街中をしずしずと流すような速度でも頭上を心地よく通り過ぎる風は、法定速度での高速巡航ともなると車内を結構な勢いで駆け巡る。ポルトガルでの試乗で試したが、そこから先の速度域になれば会話も差し支えるほどに走行風の勢いは盛大だ。お慰みのようなディフレクターは装備されるものの、それとて開発者にとっては本意ではないのだろう。昨今のオープンカーではとかく厄介者扱いされる風をとにかく感じまくってほしい。それが嫌ならコンバーチブルを買ってくれ……と、そう言わんがばかりの割り切りぶりである。

そのおかげもあっての、抜群の解放感を楽しみながら気づくのは、このクルマが乗り味においてMINI クーペとはひと味ちがうしなやかさを備えているということだ。固められたシャシーやサスペンションの構成はおなじながら、こちらは屋根が抜けているぶんの剛性落ちが巧くフィーリングに作用しているのだろう。常速域で路面からの大入力をしなやかにいなす乗り心地は、高速域になっても大きく変わることはない。その点、MINI クーペは良好な路面状況ではまさに水を得た魚といったハンドリングをみせる反面、一般道での乗り心地は割り切られているフシがあった。つまりはMINIの持ち味であるゴーカートフィールを究極まで引き出す好戦的なセットアップがなされている印象だったが、ロードスターはここ一番での応答性こそMINI クーペに劣るものの、公道を楽しく走り倒すにはもってこいの設定となっている。

ルックスだけではなく、走りにおいてもちがった個性が与えられたMINI クーペ／ロードスター。どちらを選ぶかは個人の好みだろうが、どちらも数多あるMINIのなかで、捨てるという贅たくを許されるおとなのための特別な存在であることに変わりはない。そう考えると、安くはない値札にも合点がいく。