鈴木正文が語るフェラーリ458スパイダーの魅力|Ferrari
CAR / IMPRESSION
2015年5月11日

鈴木正文が語るフェラーリ458スパイダーの魅力|Ferrari

Ferrari 458 Spider|フェラーリ 458スパイダー

鈴木正文が語る。フェラーリ458スパイダーの魅力

イタリア、ドイツとともに日本でも先行販売された「フェラーリ458スパイダー」。さっそくイタリアで試乗してきた元『ENGINE』編集長、現『GQ』編集長の鈴木正文さんはこの新型、どう感じたのか? その感想を語ってもらった。

Talk SUZUKI Masafumi

ハイライトはメタルトップ

試乗はワインディングロードとモーターウェイのミックスでした。街中は20kmくらいあったかな。モデナのそばから出撃して、短い距離だけれどフェラーリの創設者エンツォ・フェラーリがレーシングドライバー時代に出たヒルクライムのコースもふくめ、急峻な山道を100km強くらい午前中は走って、帰りはモーターウェイを150kmくらい走りました。全体で350kmくらいの距離。タイトなワインディングが多くて、行きはオープンで、帰りはトップを閉めて帰ってきました。

458スパイダーの一番のハイライトは、いうまでもなく、スポーツカー系リアミッドシップレイアウトのV8エンジンを搭載したフェラーリのスパイダーで、はじめてのフル電動メタルトップがついたということですね。458のスパイダーだから、クーペの屋根きりみたいなことではあるんだけれども、ルーフは開閉機構つきだから、どうしても全体としてはクーペよりも重いものになります。

それから開口部がおおきくなるわけだから、ささえないといけない。いまのクルマはアルミのバスタブみたいな構造で、ボディを構成しているパーツ自体が構造材にもなっている。それを強くするために、たいがいはオープン化するとボディの下のほう、シルなんかを強化して、それがまた重量増につながってしまう。通常、ルーフの開閉機構とボディの補強でだいたい100kgくらいふえるものなんだけれど、それをフェラーリはこともなげに、50kg程度の重量増ですませた。これはもう、非常に天才的な機構で、フェラーリしかやっていないものです。

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イタリア人の天才

フェラーリっていうのは、テクノロジーがものすごく進んでいるんです。天才技術屋集団。いまはフィアットの事実上の子会社で、年産1万台いかないメーカーにもかかわらず、F1をいっかいも休まずに戦って、メルセデス・ベンツや、昔はトヨタやホンダ、世界の超大企業の、いくらでも人的リソースがある会社と対抗して、一歩もひけをとらない。F1の世界でもつねに技術革新をもたらしてきて、フェラーリが技術革新をやるもんだから、クルマがどんどん速くなる。それでレギュレーションがかわって、というような、影響力をもつ。みんながフォローする、誰も見たことがないような技術をどんどん開発して投入する会社なんです。こんかいは、まぁ直接にはフォーミュラ1と関係ないにせよ、ダ・ビンチ的天才っていうんですか? ある種の、イタリア人の天才を感じさせるようなルーフの開閉機構なわけです。

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建築物のような立体性

それにともなって、下半分のスタイルはなにも変わっていないけれど、上半分に必然的な形状変化があって、その形状変化が僕には好ましくおもえた。よりシャープになって、より見所がある。ルーフ自体はコンパクトにできているけれど、メタルトップだから、クーペにはなかった一種のデッキが後ろにできた。クーペはクーペでウインドシールドの傾きが、自然にドライバーの頭の上のあたりでピークになってそこからエレガントに下がっていく常識的にいってキレイな形なんだけれど、スパイダーは、それとはちがう形で、ドライバーズシートと、パッセンジャーシートのうしろにファストバックラインをなぞるような、いわばピラーができている。それで印象が非常にシャープになった。一種の建築物の立体性が導入されたような感じで、そういうところから、僕はスパイダーのほうがクーペよりもステキだとおもうんです。

Ferrari 458 Spider|フェラーリ 458スパイダー

鈴木正文が語る。フェラーリ458スパイダーの魅力(2)

快適な風じまい

オープンカーっていうのは後ろから風が乱気流で入ってくるんだけれど、458スパイダーはリアのウインドウが直立していて、普段はリアウインドウそのものである透明のガラスが、ルーフをおろすと高さが自動調節されて、風をストップするような役目をになっている。それのおかげで、時速240kmくらいで高速道路をオープンで走っていても、ドライバーの頭頂部をさわやかに風が通り抜けるっていう程度のもので、ノイズもそんなに大きくないし、非常に快適な、風じまいっていうのかな、そういうものになっているんです。

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ロードカーとしての高い資質

しかも、ルーフをとじていれば、クーペそのものじゃない? だからこうなってくると458クーペの存在理由はどこにあるのか? どちらも2人乗りでしかないわけだし、リアミッドにエンジンがあって、後ろには荷物を積めないわけだからキャパシティも変わらないよね。そうおもってたら、458クーペのほうはより、レーシーな走りに振られたんです。エンジンとシフトのプログラムとか、ダンパー制御とか、ESPみたいなものの制御の仕組み、つまりマネッティーノがちょっとかわって、よりアグレッシブな走りを実現するようにチューンしなおしたんですね。これはすでにクーペを持っている人も、いくらかのアディショナルコストは払わないといけないんだろうけれど、レトロフィットできるらしいですよ。458スパイダーそのものは458クーペとおなじ、ダイナミックな性能をもってるんだけれども、あたらしいクーペにくらべると、やはりロードカーとしての資質のほうがより高い、っていう説明をフェラーリはしていましたね。そしてそれは事実そのとおりでした。

リアミッドにV8エンジンを搭載する458は、フェラーリの純粋スポーツカーという位置づけですが、それでも458スパイダーは、実に乗り心地がいいんです。クーペとくらべてもなんら遜色がないくらい剛性は高くて、それに非常にゆとりのある追従性の高いサスペンションのおかげで、時速300kmを出すクルマとはおもえないくらいにライドコンフォートがいい。レースとかCSTオフっていう一番ハードなモードをマネッティーノで設定しても、バンピーロード用のスイッチがあって、そのスイッチを押すと、足を柔らかくして荒れた路面に追従していくので、ロードホールディングが高まるんだけれど、乗り心地もすごくいいんです。だから、日常性能も高いんです。

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ステアリングホイールのマネッティーノ切り替えスイッチ

オープンカーっていうのはするどく走るときにオープンにしたいっていうよりも、その開放性を楽しむことがメインなので、街中をみせびらかして走ったり、都会の空気をなんとなく満喫するのに適している。パノラマビューっていうのか雰囲気がぜんぜんちがいますよね。外と一体感がでます。温泉のある国道を、ゆっくりはしっていても、オープンカーっていうのはいいわけでしょ。それがやだったら、メタルトップをつけることもすぐできちゃう。

総合芸術体験

ただやっぱりね、ものすごくスポーツカーとしての性能が高いので、どうせなら、毎日じゃなくて、スポーツカーとしてのドライビングができるシチュエーションで乗りたいっておもう人が多いんじゃないかな。

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搭載されているエンジンは革新的なもので、トルクが下からあると同時に、上の回転もものすごくいい。しかも音が非常に音楽的で、なおかつ明瞭なビート感があり、最初からドキドキする。音が直接官能に響いてくる。いわば音楽芸術がそこにあるんだよね。外観は建築的で、インテリアはフェラーリ独特だよね。ドイツ車がひろめた世界基準みたいなものとは全然関係ない。ダッシュボードにベントがあるんだけれど、それがそのままダッシュボードの曲線に沿っていて、抑揚がついている。ステアリングホイールにスイッチがたくさんあって、おもな操作は全部そこでやるっていうのも、あれもかわってますよね。F1がそうだっていえばそうだけれど、誰もそんなステアリングホイールを生産車に与えようとしなかった。ステアリングホイールにあれだけボタンがいっぱいついていて、色もたくさんつかってる。それ自体がデザイン的に楽しいんです。わかんないっていう人はいやだろうし、たしかに使い勝手には批判もある。イギリス人なんか昔と同じやりかたでいいじゃないかというけれど、フェラーリとしては、F1のドライバー気分を僕たちに感じさせてくれているんだとおもう。

フェラーリ体験っていうのは一種の総合芸術体験なんです。建築のような外観からはじまって、インテリアに目をうつせばイタリアのお金持ちの家にきたかのような、モダンデザインなんだけれど、機能主義的なものとはちがう、リッチな感触を残した革の手触りとか、色彩も、選ぶ色にもよるけれど、黄色いメーターも選べる。黄色はモデナのシティカラー。エンジンをかければ音楽経験もある。ものすごくリッチで、オペラをきいているかのような、芸術的な、繊細な、よく仕込まれた感情を揺り動かす経験です。

ただ、毎日オペラをきくだけの精神的体力がないっていう人は毎日はのれない。僕もこれにのれなくなったら、自分が弱ってきたっていうことだろうね。(笑)

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鈴木正文|SUZUKI Masafumi
1949年東京生まれ。英字紙記者を経て、二玄社に入社。自動車雑誌『NAVI』の創刊に参画し、89年に編集長就任。数値だけでなく社会的、文化的な尺度で自動車を批評する自動車文化雑誌をスローガンに編集を行う。
99年に独立し翌年から男性ライフスタイル月刊誌『ENGINE』(新潮社)を創刊。2012年1月からは『GQ』編集長に就任して精力的に活動中。著書には『マルクス』、『走れ!ヨコグルマ』など。

           
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