新型マツダ ロードスター(ND型)を試乗する|Mazda
CAR / IMPRESSION
2015年7月29日

新型マツダ ロードスター(ND型)を試乗する|Mazda

Mazda Roadster|マツダ ロードスター

選ぶべきはMTかそれともATか

新型マツダ ロードスター(ND型)を試乗する

マツダの新型「ロードスター(ND型)」が好調だ。発売からわずか1ヵ月で、販売目標として掲げた月間500台の10倍を超える受注を獲得。製造ラインはフル稼働中だという。かぞえて4代目となるこの新型は、マツダが初代モデルを1989年に登場させて以来、はじめて原点回帰を目指し開発した意欲作。塩見智氏がMTとAT、ふたつの最新ロードスターを試す。

Text by SHIOMI SatoshiPhotographs by HANAMURA Hidenori

先進国でロードスターを見かけない国はない

毎年夏に英国で開かれるグッドウッドFOS(フェスティバル・オブ・スピード)。ブランドを問わず、置いているだけで博物館のメインを務められるような新旧のレーシングカーやスポーツカーが、クローズドコースをかっ飛ばすことで有名なイベントだ。

毎回、フィーチャリングブランドが定められるのだが、その役を任されるということは、金もかかるが名誉なことで、そのブランドがモータースポーツやスポーツカーの分野で功績を果たしたと認められたことを意味する。

6月末、イギリスサセックス州で開催されたヒストリックカーイベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」

Goodwood Festival of Speed

ヒルクライムコースを走行するマツダ「787B」

今年、マツダがその大役を担った。特権として、会場には天に向かって駆け上がっていくかのようなマツダ「787B」と、ドライビングシミュレーションゲーム「グランツーリスモ6」向けのバーチャルスポーツカー「LM55 ビジョン グランツーリスモ」の巨大オブジェが飾られた。そのことが日本人としてなんだかうれしく、何度も眺めてしまった。日本から来ていたマツダ社員の方々も誇らしげに見上げていた。

同社のブランドアイコンである「ロードスター」が10年ぶりにモデルチェンジした節目の年にFOSのフィーチャリングブランドを務めるなんて、マツダ、もってるな。

それにしても、ロンドンからグッドウッドまでの市街地で、多くの歴代マツダ ロードスターを見かけた。さすがは「2人乗り小型オープンスポーツカー」生産累計世界一としてギネスブックに載ったクルマだ。先進国でロードスターを見かけない国はない。

Mazda Roadster|マツダ ロードスター

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原点回帰

1989年にデビューしたマツダ ロードスター(登場当初、日本では「ユーノス ロードスター」と呼ばれた)は、98年に2代目、2005年に3代目が登場したが、どの世代も一貫してRWDのオープン2シーターというコンセプトを守った。いまやライトウェイト スポーツの定番。手頃なスポーツカーのベンチマーク的な存在になった。

四半世紀のあいだに多くのフォロワーを生んだ。MG「MGF」、フィアット「バルケッタ」、メルセデス・ベンツ「SLK」、BMW「Z3」、それにトヨタ「MR-S」なんかは初代ロードスターのヒットがなければ、生まれていなかったはずだ。

初代マツダ「ロードスター(NA型)」1989年デビュー

2代目マツダ「ロードスター(NB型)」1998年デビュー

ただし、売れ行きが落ちたら販売を中止したりコンセプトを変更したりしたライバルが多いのに対し、マツダは売れても売れなくてもロードスターを販売しつづけた。

そして最新モデルの4代目がこの夏、登場した。今回もやはりRWDのオープン2シーターだ。だが、今回はロードスター史上はじめて車体寸法が小さくなり、エンジン排気量も小さくなり、車両重量が軽くなった。その結果、初代よりもコンパクトとなり、990-1,060kgと、初代並みの重量にとどまっている。

3代目マツダ「ロードスター(NC型)」2005年デビュー

ロードスターが一貫してライトウェイト スポーツでありつづけたのは事実だが、衝突安全性能の向上や快適性の向上が要求され、モデルチェンジの度に車体寸法が大きくなり、車両重量も重くなった。

それに伴ってエンジンの排気量も大きくなっていき、それでまた重くもなった。このままズルズルと大きく重くなったのではロードスターじゃなくなると判断したのか、4代目で原点回帰した。

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トランジスタグラマー

釣り上がったヘッドランプユニットのせいか顔つきはシャープな印象だが、実はこの顔、低い位置から見ると笑っているような表情に見える。ファニーフェイスで親しみやすいのが歴代ロードスターのフロントマスクに共通する特徴だったが、新型ではその特徴は限られた角度からのみ継承された。

先代と比べ、より印象が異なるのはリアスタイルのほうだ。これまでは楕円形のリアコンビがあり、その間にナンバープレートが配置されていたが、新型では丸と横に寝かせたU字を組み合わせたデザインのリアコンビが採用され、ナンバープレートはその間ではなく、バンパーレベルの低い位置に配置された。歴代で一番シンプルで、前後とも左右が強く絞り込まれたデザインだ。

サイドビューは、初代、2代目に見られた、抑揚あるショルダーラインがより強調されて復活した。歴代でもっともコンパクトなサイズにもかかわらず、もっともグラマラス。死語だと思うが、ほかに思い浮かばないのでこの言葉を使うが「トランジスタグラマー」。フロントウインドウを囲むAピラーとヘッダー(ガラスの上の部分)、それにドアミラーはボディカラーにかかわらず黒。このことも精悍な印象を与えている原因のひとつだ。

グレード展開はとてもシンプル。安いほうから順に、ベースのS(6MTのみ。249万4800円)、Sスペシャルパッケージ(6MT / 270万円、6AT / 280万8,000円)、Sレザーパッケージ(6MT / 303万4,800円、6AT / 314万2,800円)の3グレードが設定される。

Sがマニュアルエアコンなのに対しそれ以外がオートエアコンだったり、Sが4スピーカー、Sスペシャルパッケージが6スピーカー、Sレザーパッケージが9スピーカーだったりと、細かく装備がことなる。減速エネルギーを回生して電装品の電力に用いるi-ELOOPとアイドリングストップ機構は、AT車に標準装備、Sを除くMT車にオプション設定される。

走りに影響を与えるちがいを挙げると、Sスペシャルパッケージ、SレザーパッケージのMT車には、トランスミッション下にブレースバーが追加されるほか、リアスタビライザーとトルセン式LSDが備わる。詳しくは後述するが、それらが備わらないSとSスペシャルパッケージ&SレザーパッケージのAT車は、挙動が若干マイルドだ。

Mazda Roadster|マツダ ロードスター

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グラム作戦

新型には1.5リッター直4エンジンが載る。マツダ得意のスカイアクティブ テクノロジーを盛り込んだエンジンだが、最高出力131ps/7,000rpm、最大トルク15.3kgm/4,800rpmと、スペックはいたって普通。実際に走らせても、レスポンシブではあるが、特別パワフルとは感じない。まぁ歴代ロードスターはどれもエンジンは普通だった。というか、エンジンが特別じゃなくても、特別楽しいスポーツカーをつくることができるんだと証明しつづけてきたのがロードスターだ。

感心したのは軽さ。新型の最大の特徴である軽量化を、一生懸命走らせなくても、街中で普通に加速し、曲がり、止まるだけでじゅうぶん感じることができた。操作に対し反応がとにかく素早く正確。アクセルをほんの少し踏むと即座にクルマがほんの少し加速する。ほんの少しステアリングを切ると即座にほんの少しクルマが向きを変える。減速もしかり。

エンジニアは“グラム作戦”と名づけて軽量化に取り組んだという。エンジンで約14kg、マニュアルトランスミッションで約7kg、リアデフで約10kg軽くするなど、全面的に部品を新設計し、大幅な軽量化に繋げた。と同時に、部品に穴を開けたり、シート調整レバーを極限まで細くしたりといった、それぞれがほんの数十 - 数百グラムにしかならない努力も積み重ねた。

その結果、先代に比べ100kgを超える軽量化を実現。レンジローバーが100kg減らしたわけではない。1.1トンしかなかったクルマが100kgも減らしたのだ。

重量の配分にもこだわった。新型ではアルミパーツや高張力鋼板の割合が先代よりも増えたのだが、そうした素材は車両の重心から遠い部分に優先的に採用されたという。

ボンネットフードやトランクリッドなど、先代もアルミだった部分にくわえ、新型ではソフトトップや前後バンパーの骨格に当たる部品もアルミ化された。とにかく重いものは真ん中の低い位置へ集められた。

さらに左右の乗員の間隔も先代よりも狭められ、着座位置も低められた。つまり人間という重量物を少しでも真ん中の低い位置に寄せたいわけだ。初代ロードスターを愛用していた学生時代に比べ優に10kg以上増えた私に、そこまで努力が積み重ねられた新型を評する資格があるのだろうか――

Mazda Roadster|マツダ ロードスター

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クルマが消える

伊豆のワインディングロードでペースを上げてみる。ステアリングはクイックで、MTのシフトレバーの移動量も極めて少ない。どちらも初代から受け継がれてきた特徴だ。乗員を中央に寄せたわりには、ステアリングホイール、シフトレバー、そしてペダルのレイアウトは理想的で、ほぼ満点の運転環境が確保されている。運転席のフロア部分が盛り上がっていて、乗り込んでしばらくはなんとなく違和感があったが、いつのまにか気にならなくなっていた。

シートは薄く小ぶりだが、形状が適切で、ファブリックもレザーも滑りにくいため、ホールド性は良好だ。新型のシートでは、通常、座面や背面に用いられる金属製スプリングが伸縮性のあるネットに置き換えられた。軽量化のためだが、点ではなく面で体重が支えられているのを感じることができ、掛け心地も向上した。今後幅広く採用されるような予感がする。

有料道路の料金所で支払いを済ませ、1速→2速→3速とアップシフトを繰り返して加速する。コーナーに差し掛かって減速するとともに3速→2速とダウンシフト。シートのサイドサポートに体重を預けながらコーナリング。エイペックスを過ぎ、ゆっくりステアリングを戻すとともに再び加速する。

2速→3速。今度のコーナーは軽く減速して3速のままクリア。加速。減速、コーナリング、加速、減速、コーナリング――この作業を延々と繰り返す。この世にこれ以上にエキサイティングな行為はない。

327_25_Mazda_Roadster

ここまでクルマと一体化してドライブできるクルマは少ない。面白いことに、とことんダイレクトなフィーリングを得られ、思い通りに走らせることができると、クルマは存在感をなくす。かえってリアリティがなくなり、よくできたゲームをしているような気持ちになるのだ。

こんなの理解してもらえるかどうかわからないと思いながらその感覚をマツダの人に伝えると「それはロードスター主査の山本修弘が『クルマが消える』と表現している状態じゃないですかね」と教えてくれた。なるほど。確かに消えた。

Mazda Roadster|マツダ ロードスター

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過去最高のロードスター

MT車の後にAT車も試乗した。歴代ロードスターのなかでもっともよくできたATだと思ったが、めんどくさがりの僕でも、ロードスターだけはMTを選ぶべきだと思う。MT操作に自身がない人もMTを買って練習すべき。MT免許のない人はまず限定解除すべきだ。実際、全体の74パーセントのユーザーがMTを選択しているという。

運転を楽しむことを除けばほとんど役に立たないロードスター。そんなクルマをわざわざ運転するのに、ATを選んで作業をひとつ軽減したって意味がない。僕の場合、ATだとクルマは“消えなかった”。ロードスターだけは……と言ったけど、あれもそうだな、ホンダ「S660」。

MT車のなかで、トランスミッション下のブレースバー、リアスタビライザー、トルセン式LSDが備わるSスペシャルパッケージと、それらが備わらないSを乗り比べてみて、ベースのSにより心を奪われた。Sのほうがよりロールを許す傾向にある。

もしも貴方が昔初代に乗っていて、あの挙動を懐かしく思い、久しぶりに……と思って新型を買うのなら、迷わずSだ。ひらりひらりと軽快な身のこなしは初代そのもの。そうじゃなく、どこまでもダイレクトレスポンスを追求するなら、SスペシャルパッケージもしくはSレザーパッケージを選ぶべき。

ま、いろいろ書いたが、ATを含め、どの仕様を買ったとしても、過去最高のロードスターであることはまちがいない。あー書きすぎた。

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Mazda Roadster S|マツダ ロードスター S
ボディサイズ|全長 3,915 × 全幅 1,735 × 全高 1,235 mm
ホイールベース|2,310 mm
トレッド 前/後|1,495 / 1,505 mm
重量|990 kg
エンジン|1,496 cc 直列4気筒 DOHC 16バルブ
圧縮比|13.0
最高出力|96 kW(131 ps)/7,000 rpm
最大トルク|150 Nm(15.3 kgm)/ 4,800 rpm
トランスミッション|6段MT
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|マルチリンク
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|ディスク
タイヤ 前/後|195/50R16
燃費(JC08モード)|17.2 km/ℓ
価格│249万4,800円

Mazda Roadster S Special Package

マツダ ロードスター S スペシャルパッケージ
ボディサイズ|全長 3,915 × 全幅 1,735 × 全高 1,235 mm
ホイールベース|2,310 mm
トレッド 前/後|1,495 / 1,505 mm
重量|1,010 kg(MT) / 1,050 kg(AT)
エンジン|1,496 cc 直列4気筒 DOHC 16バルブ
圧縮比|13.0
最高出力| 96 kW(131 ps)/7,000 rpm
最大トルク|150 Nm(15.3 kgm)/ 4,800 rpm
トランスミッション|6段MT / 6段AT
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|マルチリンク
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|ディスク
タイヤ 前/後|195/50R16
燃費(JC08モード)|17.2 km/ℓ(MT) / 18.6 km/ℓ(AT)
価格│270万円(MT) / 280万8,000円(AT)

Mazda Roadster S Leather Package

マツダ ロードスター S レザーパッケージ
ボディサイズ|全長 3,915 × 全幅 1,735 × 全高 1,235 mm
ホイールベース|2,310 mm
トレッド 前/後|1,495 / 1,505 mm
重量|1,020 kg(MT) / 1,060 kg(AT)
エンジン|1,496 cc 直列4気筒 DOHC16バルブ
圧縮比|13.0
最高出力| 96 kW(131 ps)/7,000 rpm
最大トルク|150 Nm(15.3 kgm)/ 4,800 rpm
トランスミッション|6段MT / 6段AT
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|マルチリンク
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|ディスク
タイヤ 前/後|195/50R16
燃費(JC08モード)|17.2 km/ℓ(MT) / 18.6 km/ℓ(AT)
価格│303万4,800円(MT) / 314万2,800円(AT)

問い合わせ先

マツダコールセンター

0120-386-919

           
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