ART|「ヨコハマトリエンナーレ2011」レポート(後編)
LOUNGE / ART
2015年2月14日

ART|「ヨコハマトリエンナーレ2011」レポート(後編)

「OUR MAGIC HOUR ─世界はどこまで知ることができるか?─」

「ヨコハマトリエンナーレ2011」レポート(後編-1)

横浜を舞台に3年に一度おこなわれる、現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ2011」レポート。前編の横浜美術館編につづき、後編はもうひとつのメイン会場である、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)に展示された最新の現代アート作品を紹介しよう。

写真と文=加藤孝司

現代アートの醍醐味を味わえるスケール感溢れる展示空間

ヨコハマトリエンナーレ2011 日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)

日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)には、東西の先鋭的な現代アート作品が集められた。実際に作品のなかに入って空間全体で体験するインタラクティブな作品や、天井まで迫るような巨大なスケールをもった作品が、湾岸沿いの歴史ある倉庫に贅たくに展示されている。なかでも本会場で注目したいのは、世界中から集められた映像作品。現代アートの展覧会場で、ともすると見過ごしてしまいがちな映像作品だが、時間をとってじっくり観たい見ごたえのある作品が集められている。

「The Clock」、真っ先にみるべき映像作品

なかでも、今年おこわれた第54回ヴェネツィア・ビエンナーレで最高賞の金獅子賞を受賞した、現代音楽家でもあるクリスチャン・マークレー氏が手がけた映像作品、「The Clock」は、今回のヨコハマトリエンナーレ2011でも、真っ先に観るべき作品だろう。膨大な数の古今東西の映画作品から、時を刻む時計とリンクする映像を蒐集した上映時間24時間におよぶ本作は、実際の時間と同期して上映される。

現実の世界とリアルタイムに進行するスクリーン上のストーリーは、いまここではない、もしかしたらそうあったかもしれない、べつの自分の生き方さえイメージさせるシーンが連続する。映像から想起される個人の記憶や、集合的なイマジネーションの根源にふれる本作は、じつは「選ぶこと」、そしてそれを「観る」ひとがいることで成立する、近代に流行した大衆的見世物のような古典的な芸術作品ともいえる。ヴェネツィアで最大に評価されたこともうなずける映像の叙事詩である。

砂の山というリアルなオブジェクト

スクリーンに投影した映像作品と、実際の砂山を展示したのは、現代美術ユニット 山下麻衣+小林直人。映像は海岸で砂鉄を集める作家自身の姿。かたわらの砂山には、採取した砂鉄でつくられたという一本のスプーンが頂に。砂鉄を蒐集するプロセスが映像作品として結晶し、そのパフォーマンスがリアルなオブジェクトに収斂される過程を視覚化している。

20トンもの陶土をつかって作家みずからこねてつくったという、巨大な2頭のカバの陶土細工は、パリ在住のアーティスト・ユニット デワール&ジッケルの作品だ。リアルなスケールがもつ迫力はアートならでは存在感だ。

現代アートが暗示する森とのかけがえのない共生の物語

会場となった元物流倉庫の天井高のある大空間に、森のような空間が出現。コンクリートの壁と緑豊かな大樹の不思議なコントラストが印象的なコンセプチュアルなアート作品は、スウェーデン人でベルリン在住のヘンリック・ホーカンソン氏が手がけた。

スウェーデンも日本も、ともに国土に豊かな森林資源をもった国。森は東西のちがいなく豊かな大地と自然観を育むと同時に、アーティストにとってのかけがえのないクリエイティビティの源泉ともなってきた。世界規模で自然破壊が進む現在、森との共生は都市化が進む世界中の国々において切実なテーマであり、健全な未来を考える視点において重要な課題だろう。ヘンリック・ホーカンソン氏の作品は静かにそのことに気づかせてくれる。

「OUR MAGIC HOUR ─世界はどこまで知ることができるか?─」

「ヨコハマトリエンナーレ2011」レポート(後編-2)

死海をモチーフにした幻想的な作品

イスラエルの作家シガリット・ランダウ氏は、高い塩分濃度をもつ死海で採取された塩を、刺をもった有刺鉄線に結晶させた美しく詩的な立体作品「刺のある塩のランプ」を発表。ランプそのものもそうだが、光で照らされフロアに映し出されるシルエットも美しい作品だ。

おなじランダウ氏の「死視」と題された意味深な映像作品は、死海に500個のスイカをリング状につなぎ、作家自身とともに浮かべて撮影した映像作品。束になったスイカがゆるやかに解きほぐされ、やがて作家自身もその束から解き放ち水面に浮遊していくさまは、痛みをともないながら自由を希求する、そんなイメージが重なる。さきほどの「刺のある塩のランプ」もそうだが、自然が湛える治癒力を作品に込めた強いメッセージ性をもった作品だ。

日本の現代美術家 泉 太郎氏はそれぞれコンセプトのことなるオブジェクトと映像を展示した3つの空間をつくり出した。身のまわりのとるにたらない日用品にスポットをあて、あたかもそれらを現代アートのように展示する手法は、誰しものなかに当たり前に潜む他者と対等に向き合う方法でもある。

一対の箸をメタファーとした作品

2002年より連名でも作品を発表している宗 冬(ソン・ドン)と尹秀珍(イン・シウジェン)夫妻。「Chopsticks III」は、食べものを食べるためになくてはならない一対の箸をメタファーとした作品を、それぞれ12のセクションに分割した作品。箸が片方だけでは機能しないように、黄色と赤色の建築の構造体のようなオブジェクトも、ふたりの共働のあかしとして、ペアでならべて展示される。

ポスト3・11以後のアートのありかた

そのほかにも、現実をつぶさに記録することでポスト3・11を見すえた映像作品や、木や森、水といったものからインスピレーションを受けた自然をモチーフにした彫刻作品など、アートがもつ既存のイメージの拡張や、固定的な既成の価値観をゆさぶるアートならではの視点が、現在の硬直した社会を切りひらく突破口となるような予兆を感じさせる作品が目白押しだ。

また、ヨコハマトリエンナーレ2011会期中には、周辺地域にある新港ピアで、国内外のクリエイターたちが実際に働く場をクリエイトする「新・港村~小さな未来都市(BankART Life III)」展、黄金町エリアでは毎回にぎやかな出しものが話題の「黄金町バザール2011」が同時開催されている。そのすべてを見ることができるお得な特別連携チケットも販売される。

リーマンショック以降、それまで当たり前であったことが当たり前でなくなり、その違和感が3・11を経てよりいっそう際立ってみえてきた現在。日常のなかにありながら、少しだけ日常を忘れさせてくれるアート作品は、個人のアイデンティティの表現であると同時に、未来への希望や、世界中の人びとの小さな願いを繋げる架け橋にもなってきた。ひとつずつは小さなことだが、そのひとつひとつの積み重ねにより、より大きな可能性を感じさせるアートの力を、これらの作品から感じとることができるのではないだろうか。

ヨコハマトリエンナーレ2011

OUR MAGIC HOUR ─世界はどこまで知ることができるか?─

会場|横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、その他周辺地域

会期|開催中~2011年11月6日(日)

開館時間|11:00~18:00 ※入場は17:30まで

休場日|8月、9月の毎週木曜日、10月13日(木)、10月27日(木)

http://118.151.165.140/

           
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