特集|OPENERS的ニッポンの若手建築家 PARTII  Vol.1 長坂 常インタビュー

特集|OPENERS的ニッポンの若手建築家 PARTII  Vol.1  長坂 常インタビュー

OPENERS的ニッポンの若手建築家

Vol.1 長坂 常インタビュー(2)

それぞれの誤読 「LLOVE」の場合

──「LLOVE」は泊まれるエキシビションとして大きな話題になりました。どのような経緯で生まれたプロジェクトなのでしょうか?

あれは少し複雑に“誤り”が重なっていて、オランダのアムステルダムにある『Lloyd Hotel』から話ははじまります。すでに完成してから5年以上が経ち、オランダでも1、2を争う人気ホテルですが、そのすてきなホテルのコンセプトがじつは、『Lloyd Hotel』のディレクターでもあるスザンヌ・オクセナーが25年前に来日したときにラブホテルを見て感じた、必要最小限のフロント、日によって好きにデザインを選べる部屋、愛に満ち溢れたホテルという、いうなれば“誤読”から生まれたのです。たしかに『Lloyd Hotel』はそうなっているのですが、言われなければまったくそんなことは想像もつかないかたちで実現しています。でも、それってスザンヌの誤読がないと生まれなかったかもしれない事実がすてきですよね。

そのスザンヌの声がけではじまったのがこの「LLOVE」プロジェクトです。アイデアをもらった日本で1ヵ月と期間限定ですが、『LLOVE HOTEL』をホントにつくるというややこしいプロジェクトがはじまりました。日本のラブホテルをそもそも誤読しているオランダ人に指揮され、それをよく知っている日本人の建築家と、鮮烈なイメージだけが頭にこびりついてこれまた誤読の多いオランダ人デザイナーが日本に作る『LLOVE HOTEL』。予算はありませんでしたが、結果的に皆がアイデアを出しあい非常におもしろいプロジェクトになりました。

──僕も拝見しましたが、オランダ人がラブホテルを誤読するところからはじまり、その誤読に長坂さん自身がのっかりながら、実際に実現してしまうパワーはものすごいものがありましたね。

それだけ誤用というのは、ものづくりにおいてパンチのある表現手法じゃないかと思うのです。まちがえる側、まちがえられる側、いずれにとってもべつに奇異なことではないのに、その双方のあいだに生まれるコントラストで、現象としてはインパクトがあるものが生まれる。ニューヨークに最近できた『High Line』や、ウィーンの『ガソメーター』、ロンドンの『テートモダン』などはまさしく大いなる誤用の産物ですね。過去のしつらえを肯定し、コントラスト強くあらたな機能を入れていくことで、町に強いインパクトをあたえ、必然的に周辺までも変えてゆく。いま、都市の新陳代謝を考えたときに、誤用はひとつの魅力的な方法論と考えています。

建築家|長坂常 05

『ROTATING BED(LLOVE)』(2010年) Photo by Takumi Ota

建築家|長坂常 06

『ROTATING BED(LLOVE)』(2010年) Photo by Takumi Ota

──具体的に“誤用”というのは、長坂さんのデザインにおいてどのように作品にあらわれてくるのでしょうか。

まだ、これは何となく見えてきた道筋のようなモノで、具体的に表現として盛り込まれた作品があるわけでもないですが、前述したようなレベルでなければ少しずつその機会をいただいていますし、すでに手がけたモノのなかでもそれに近い説明のできる作品はあります。

たとえば、僕の事務所が入居する『HAPPA』はまさに誤用でできています。ここに来て、この場所がもともとオフィスだったと思うひとはいません。決まって「ここは何だったんですか」と聞いてきます。あとは、『奥沢の家』も「イギリス建築」を誤用して生まれた表現に、さらに誤用して独自の表現を獲得しています。

いま手がけている『Aesop銀座店』でも、おなじようなことを試みています。今度のお店がもともと40年くらいつづいてきた靴屋さんで、そこを改修してお店をつくるのですが、どうなるかわかりませんが、その点は非常に意識しています。

ただ、まだ“誤り”を肯定的に捉え、それを表現していくことを当事者になってよろこべるひとは少ないかもしれませんね。いまだにやっていることに対して、うしろ指をさされる感じがあります。なので、まずはみずから犠牲に私生活のなかで試みている段階です。そのひとつとして最近はまっているのが、首だけ長袖のシャツやTシャツをとおして首に巻くことです(笑)。これはこの夏が暑すぎて、シャツが着られず、でも、毎日Tシャツじゃいかんなと思っている気持ちが頭だけ襟に突っ込んでほかはとおさないということになったのです。すると一見、スカーフかタオルを巻いているみたいになるのですが、スカーフとしてみるとなかなか個性ある形になってよいですし、実際に汗をかいたらタオルにもなる。また、寒い冷房の効いた部屋に行くと袖をとおせば防寒になるのです。

──長坂さんのライフスタイル全般にも浸透している感覚なのですね。それがおもしろいです。

あとこの前、知人が散歩がてら訪れたときにたまたま打ち合わせ場所がなく、事務所のなかは蒸し暑いし、夜だったので、外に机を出して打ち合わせをしてみました。するといつもの見慣れた町の風景とはちがった、この町の風景を感じることができました。というより、夏の夜は外がいいと当たり前のことを実感し、こんなスペースがカフェではなく、みずから所有するスペースにあると、僕自身来客があることが楽しみになる。ということで、まだまだ仮説の段階ですが、この試みに共感してくださる方がいらしたら、ぜひ何かプロジェクトをご一緒させていただけたらと思っています。